第1話:異世界転移
どうやら異世界転移するらしい。
俺は、そんなウェブノベルのありふれた展開に直面しつつ、驚きと混乱で、この緊迫した場にそぐわないぼんやりとした感想を抱いていた。
いや、ウェブノベルの導入なら、はいはい、そういうかんじね、で、どんなチートをかましてくれるわけ? みたいなのんびりテンションで読み飛ばせるよ。
けれども、現実に、起こるとどうなの、これ?
何が起こったかわからないし、これから何が起こるのかもわからない。頭の中は、どうしてこんなことに? 何で俺が? などなど疑問符でいっぱいだ。
では、なぜ、異世界転移するとわかったか。
それは、そう言われたからだ。
「はーい、みなさんには異世界転移していただきます。異論は認めません。まぁ、質問には答えられる範囲で応えますよぉ」
白く何もない空間に、やけに豪華な椅子を置き、そこに座る女は、まるでイベントの告知のように楽しそうに述べた。
女神と自称するその女は、ゆったりとしたドレスに身を包み、確かに女神然としていた。この異様な空間も相まって、そう信じてもいいくらいには、常軌を逸していた。
「いや、いきなりそんなこと言われても困ります」
返答したのは、生徒会副会長の種倉摘姫だ。相変わらず強気な女で、よくこの場で発言できるなと驚く。
一方で、幼馴染の佐藤留美もぼそりと似たことを呟いていた。怖いのだろう、彼女はずっと肩を震わせており、声も消え入りそうなほど小さい。
「あはは、それはお気の毒ですが、人生なんてそんなものだと思いますよ。昨日まで平和に暮らしていたのに、突然、交通事故で死んじゃったなんてよくある話じゃないですか。あれですよ、あれ。皆さんは、突然、異世界転移してしまったんです」
ゼロ解答といっていい返答をする女神は、皆さんと言った。
そう、ここにいるのは俺だけではない。隣で震えている瑠美を含めて30人。沢照高校2年3組の生徒が、そっくりそのまま連れて来られていた。
このことに関して、実のところ驚きはしない。なぜなら、俺達は、このメンバでバスに乗り込み、林間学校に向かう途中だったからだ。
バスに乗っていた。クラスメイトは、お菓子を食べたり、トランプをしたりとわりとわいわいはしゃいでいたのを覚えている。まぁ、俺は、投稿サイトにあげられたイラストを眺めていたわけだけど。
ふと、酩酊感を覚えて、気づくとここにいた。だから、クラスメイトが全員ここにいることにおかしさを感じない、が、だからといって、異世界転移まで、『はい、そうですか』と納得できるほど順応性は高くないんだよ。
そう思うのは俺だけではないようで、クラスメイトが非難の声をあげた。だが、女神は、にこにこ笑うだけで応じようとしない。
「で、今から俺達は何をするんだ?」
話を進めたのは、一人のクラスメイト、古射手伊月だった。彼は、一歩前に出ることで、クラスメイトを黙らせて、低い声で告げた。
冷静な発言だが、一人、黙らない奴がいた。
「おい、今は、そんな場合じゃないだろ!」
クラスメイトというか俺の友人の千代戸明人だった。明人は、そうとうテンパっているようで、目を血走らせていた。
「何をするも何も、帰るに決まっているだろ! こんなの拉致だぞ! 認められるわけがねぇ! あいつをぶん殴ってでも帰すと言わせるしかないだろ!」
そうだそうだとクラスメイトが同調する。ここは乗っておく方が世渡り的には正しいが、事態が事態なだけに、俺は明人の肩に手を置いた。
「落ち着け、明人」
「何だよ! クロも異世界転移なんてバカみたいな話を信じるのかよ!」
「信じるも何も、一回落ち着けって言ってんだよ。そして、ちょっと考えろ。どうして、俺達はここにいる?」
「どうしてって、それは、あの女神とかいう女がやったんだろ?」
「そうだ。つまり、あの自称女神には、このありえない事態を引き起こせる力があるんだ。ということは、神かどうかはおいておいて、あいつには、そんな魔法みたいな力があるってことだろ」
「それは……」
「だから、あの自称女神は、あそこにいるんだよ。俺達が束になっても敵わないから、加害者のくせに、被害者の目の前で、笑って座っていられるんだ」
「じゃ、じゃあ、どうすればいいんだよ。あの女神の言いなりになるしかないってのか?」
「今のところはそれしかない。だから、古射手は聞いたんだ。今から何をするのかって。だって、おかしいだろ。さっさと異世界転移させればいいものを、こんなところに俺達を引き留めている。それは、ここで俺達に何かをやらせるつもりってことだろ」
俺は、現状の説明をすることで、明人を落ち着かせた。同じように熱くなっていたクラスメイトもクールダウンしたようだ。
そこまでして、俺は一息つく。そもそも、俺は、クラスの中で、こんなでしゃばるキャラではない。できるだけ、明人と二人で話している風を装ったが、もしかすると、面喰っている奴もいるかもしれない。
やっとクラスメイトのざわめきが治まったところで、女神が口を開いた。
「いやぁ、説明ご苦労様です。お察しの通り、皆さんには、異世界転移する前にやってもらうことがあります。それはですねぇ」
女神は、一拍ためつつ、指を一本立てて、にんまりと笑った。
「チートスキルガチャです!」




