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Battle of the Devil  作者: Pippo
2/3

悪夢

 とても良い朝だ。


 過ごし易い気温と湿度である。

 朝食はトースト、サラダに豆のスープ、ごく一般的な家庭の朝食だ。

 美味いな、これはいける。


 しかし、この夢は何だ?

 主観的で、ずっと一人称視点だ。

 知っているような知らないような、誰かの記憶なのだろうか?


 まあいい、続きを見てみよう。


「お父様、今日は出かけます」


 僕はお父様なる人間に話しかけた。


「ん? またメリナちゃんとデートか?」


 恐らく父なのだろう。

 父は僕に訊く。


「ま、まあそんなところです」


 僕の答えから察するに、僕はメリナという娘と恋人関係なのだろう。

 答えを誤魔化すあたり、僕はまだ思春期の子供のようだ。

 僕は飯を食い終わると、すぐに支度を始めた。


 すると、父は僕に首飾りを差し出した。


「お前も明日で16だ。立派な成人として、メリナちゃんを守ってやらねばならんだろう? だからお前には、これを授けようと思う」


 僕は驚いて声を上げる。


「おおお父様、そっ、それは王国の秘宝『真魔の首飾り』ではありませんか! こんな大層な品物、頂けませんよ。」

「なに、明日の贈り物としてお前にあげる積もりだった物だ。今日も明日もそう変わらんだろう。」

「で、では、有難く頂戴致します!」


 僕はその首飾りを掛けると、力が満ち満ちて来るのを感じた。


「それでは、行って参ります!」

「ああ、気を付けるのだぞ」


 僕は、父に見送られながら家を出、この地域のシンボルらしき場所で待った。

 程無くして、小柄で可憐な女子が僕に話し掛けた。


「お待たせ。待った?」


 やばいよ、これ来ちゃったよ。

 このめちゃくちゃ可愛い女の子は僕の彼女だよ。糞、誰の記憶なんだ!

 こんなに可愛い女の子を独り占めするなんて、怪しからんな本当に!

 私が僕だったら婚約してるね!


「いいや、今来たところだよ。今日はフィーレア山脈の方へ行って、王国の景色を見に行きたいんだ」


 僕は目を輝かせて言った。


「いいね! 今日は天気も良いし、きっと素晴らしい景色が見れるね!」

「うん! じゃあ、早速出発しようか」


 メリナは嬉しそうだった。

 僕も喜んで貰えて嬉しかった。


 村を出て北東に1時間程行くと、フィーレア山の登山口があり、そこの休憩所で体を休めることにした。


「歩くとやっぱり暑いねえ」


 そう言いながらメリナが服をはたはたとさせるものだから、下着が見えて目のやり場に困った。


「あ、うん……そうだね」

「ねえ、胸に掛かってるのって真魔の首飾り? お父様から頂いたの?」


 メリナは物珍しそうに首飾りを見つめた。


「うん、そうだよ。明日の誕生日に頂ける予定だったらしいけど、メリナとお出かけするって言ったら頂けたんだ」

「へー、凄いね。やっぱ王国騎士団長の息子だし、これからその秘宝に見合う働きとか求められたりしないの?」


 メリナは寂しそうに言った。


「いいや、きっと大丈夫だよ。お父様は僕に剣を教えて下さるけど、戦士になることは望んでないみたい。いつも、メリナちゃんを守ってあげるのだぞって言ってるだけかな。だから、村から出ていくようなことはしないよ」

「良かったあ。結婚してすぐに王国へ、なんてことになるんじゃないかって心配してたんだよね。」


 私は驚いた。

 僕とメリナは婚約していた。

 何てことだ、取られた気分だよ。

 本当に怪しからん奴だな!


「安心して。これからも僕がメリナを護るから。」


 僕は鋭い眼差しで決意を固めた。


「末永くよろしくね、オスカー」


 ここで、漸く僕の名前がわかった。

 オスカーというらしい。

 誰なんだオスカーって?

 聞き覚えがあるような無いような……。


「ところで、これから山を登っていくけど、魔物とかが出るかもしれない。僕にしっかり掴まっておくんだ」


 オスカーは男らしさを見せる為、強気に出た。

 人間ごときが大丈夫なのか?


 フィーレア山というと、山頂にネクロマンティアムドラゴンが住んでいたはずだ。

 人間最強の魔法戦士でも最上中位魔法までしか使えないが、奴は上位魔法まで使える転生ドラゴンだ。

 いくら王国騎士団長の息子だからといって、勝てる相手ではない。

 が、これは夢だし、刮目するとしようか。


 オスカーとメリナは、腕を組んで山を登って行った。

 道中も特に異常は無く、スムーズに7合目の展望台へと到着した。


「着いたよ。見て、あれがヴァレリオ王国だよ!」

「うわあ、綺麗ね」


 2人は、目の前に広がる景色を見て、感動していた。

 私も素晴らしい景色だと感激した。


 しかし、ヴァレリオといえば先刻(さっき)特位魔法で滅ぼしてしまったよな。

 申し訳ないことをしたなオスカー。

 もうあの国は滅んでしまったよ。


 2人は、展望台でのひと時を満喫して、山を下りた。

 途中、非常に激しい風が吹いたが、ネクロマンティアムドラゴンに襲われることも無く、無事に村へと帰った。


「今日は楽しかったね!」

「ええ、あんな景色めったに見られないわ」


 2人は村の目印である女神像の前で別れた。

 お互い、非常に楽しかったらしい。

 本当に怪しからんよ本当に!


「お父様、只今戻りました!」


 オスカーは家に着くなり、大きな声で挨拶した。


「ああ、お帰り。どこまで行ってきたんだ?」

「フィーレア山で王国の景色を見てきました」

「そうかそうか。途中、変な風が吹かなかったか?」


 父は心配そうに訊いてきた。


「いえ、山ですから風に吹かれることもありましたが、特に気になることはなかったと思います」

「そ、そうか。まさかな……」


 オスカーは疑問を抱えたままだったが、そんなことよりも飯だった。


「お父様、とてもいい香りですが、今日のご飯は何でしょう?」

「はっはっは。育ち盛りはすぐ飯だ。待ってろ、すぐに用意する」


 晩飯は猪肉のステーキだった。

 今日は体力を使っただろうと父が気を回してくれたらしい。

 とても美味い。

 味覚が私にまで伝わってくる。

 やはり夢ではなく記憶なのだろうか。


 風呂を済ませ、寝間着に着替えて自室に向かうオスカーが窓を見ると、赤い月が出ていた。

 そして、ドラゴンが空を舞う姿を目撃した。

 あれはネクロマンティアムドラゴンだ。

 赤い月の日には餌を求めて人里に降りてくるが、オスカーは無事で済むだろうか。

 私にはそれが気掛かりだ。


「赤い月にドラゴンか……怖いな。早く寝よう」


 そう呟くと、オスカーは布団に入り、目を瞑った。




 暫く経った明朝、オスカーは父に叩き起こされた。


「オスカー起きろ! 大変だ!」


 父は狂ったように大声を出している。

 何事なんだ一体。

 オスカーは腑抜けた声を出した。


「オスカー、よく聞け。メリナちゃんがドラゴンに攫われた。しかも、長老の話では、とんでもなく強いらしい。なんでも、上位魔法を使えるらしい。」

「何だって!? 上位魔法なんて、人間では束になっても勝てないよ!」


 オスカーは驚愕し、涙を流した。

 メリナを連れ去ったのは恐らくフィーレア山のドラゴンだ。

 メリナは下山中に吹かれた風にまともに当たっていた。

 あれはドラゴンが使う獲物感知のスキルに違いない。


「しかし安心しろオスカー、いや、安心はできないが、一つだけメリナちゃんを救える方法がある。それは、お前の魔法力と、お前が持つ首飾りの力だ。真魔の首飾りは、一時的に魔法力を限界突破して上昇させられる物なのだ。お前は素で中位魔法を扱える。真魔の首飾りと呼応すれば、最上中位、いや、上位魔法も使えるだろう」

「しかしお父様、私にできるでしょうか」

「できるかどうかじゃない、やるんだ。今日、お前は十六になった。メリナと結婚するんだろう? だったら、シュトラウトの名を持つ者として、いや、男として、惚れた女をその手で救うんだ!」


 父の熱い眼差しに勇気を貰い、オスカーは男としての覚悟を示す。


「分かりましたお父様。この手でドラゴンを打ち倒し、必ず、メリナを助けるとここに誓います!」

「できるだけ騎士団の皆も援護する。前衛は我々に任せておけ」


 父は王国騎士団『青葉木菟』を率いて援護してくれるらしい。

 これほどまでに頼もしいことはない、とオスカーは思った。




 フィーレア山、ドラゴンが巣くう山頂に着いたオスカー等は、ドラゴンのあまりの気迫に圧倒されていた。


「我が縄張りに何用だ、人間共」


 ドラゴンは堪能な人間語で問い掛けた。


「貴様が攫った娘を返してもらいたい!」


 父は威厳のある声で言った。


「ふふふふふ、はははははは!」


 ドラゴンは高笑いを上げた。

 父はそれに激昂した。


「何が可笑しい!」

「この状況の全てだよ。人間ごときがこの気高きドラゴンに逆らうとは、どういう料簡なのだ。そして、折角攫った者を素直に渡す訳無かろう。返して貰いたくば、力尽くで奪うが良い!」


 ドラゴンはそう言うと襲い掛かって来た。

 スピードもパワーもやはり人間が相手にできるレベルでは無い。

 目の前で倒れて逝く騎士を見遣り、オスカーは絶望を感じた。


 すると、オスカーの脳に何者かが直接語り掛けた。


「力が欲しいか?」


 オスカーは不思議な出来事に困惑し、耳を塞いだが、その何者かは言葉を繰り返し語り掛け続ける。

 オスカーはこの声が首飾りの魂だと悟り、覚悟を決めて答えた。


「欲しいとも。あのドラゴンを蹂躙できる、強大な力を!」


 オスカーが叫ぶと、首飾りが眩い紅光を発し、オスカーの周りに悪のオーラが溢れ出した。


「き、貴様何をした?」


 ドラゴンは少し余裕が無さそうに言った。


「簡単さ……少し頭に来ただけだよ……私の愛する人を攫い、敬う人を殺し、それでもへらへら笑うお前の姿に堪えられなくなっただけだ!」


 オスカーの人格は豹変し、最早悪魔のようだ。

 まるで私の姿にそっくりだ。

 父は息子の変わりぶりに驚き、ドラゴンもこれには冷や汗を掻いた。


「我は上位魔法を使いし転生した身。人間ごときに勝てる訳が無かろう!」

「強がって居られるのも今の内だ。そろそろ終わりにしようか」

「何だと!」

上位魔法(エピスタシススペル)死の(デスティニー)運命(・オブ・デス)!」

「ぐっ、上位魔法だと!? き、貴様何者だ!」

「ただの悪魔だよ!」


 オスカーが手を叩くと、ドラゴンから精気が失われ、死体は塵となり消滅した。

 オスカーは魔力を使い果たし、その場に倒れた。

 父が駆け寄り、介抱する。

 メリナも無事なようだ。


「お、オスカー……大丈夫なのか?」

「大丈夫ですお父様。ドラゴンは倒せたのでしょうか?」

「覚えて……いないのか?」

「ええ……」

「お前は上位魔法を発動させ、ドラゴンを一撃でやっつけたのだ。見事だった。メリナも無事だ」

「良かったです……」


 親子は抱き合い、安堵の表情を浮かべた。

 しかし、安心するのは早かった。


 空に穴が開き、そこから目玉が浮かび上がり、野太い声が辺りに響き渡った。

 父はオスカーを体で隠した。


「上位魔法を使ったのは貴様か?」


 私は耳を疑った。

 この声は間違いなく魔王様である。

 何故こんなところに魔王様がいらっしゃるのだろうか。


「ぼ、僕が魔法を使った……みたいです」

「みたい? ふんっ、面白い。その歳にしては見事な魔法だ。我が眷属よ、奴を捕らえて城の牢に入れておけ」


 魔王様がそう仰ると、ヴァンパイアが空から現れ、オスカーを連れ去られた。


「待て! 息子を放せ!」


 父の嘆きも虚しく、魔王様は御姿を消された。




 次にオスカーが目を覚ました時、そこは魔王城の玉座前だった。

 手足を魔法の糸で縛られ、ヴァンパイアに取り押さえられていた。


「さて貴様はこれから我が軍の戦士として働いてもらう」

「ど、どういうことだ! メリナは!? お父様は!?」


 オスカーは泣き叫んだ。


「安心しろ。お前が手に入ったのだ。あの村に手出しはせんよ。」

「僕をどうするんだ! 糞! 放せよ!」


 オスカーが暴れると、ヴァンパイアが喉を掻き切った。

 オスカーは、痛みを声にならない声で表現した。


「同じことを何度も言わせるな。私に逆らえば貴様の命は無い。貴様は今から我が軍の戦士だ。私が貴様に新たな名を授けると、貴様は服従せざるを得なくなる。そうだな……貴様の名前はヴァルテンだ。最上位魔法(マキシマムスペル)神への(ピエティ・)恭順(オブ・デウス)

「うわっ!」


 私は大声を上げて飛び起きた。

 寝汗が酷く、混乱して頭が痛い。


 何ということだ。

 夢に出てきたオスカーとは、私のことだったのか。

 しばしば感じられた既視感は、神への(ピエティ・)恭順(オブ・デウス)による記憶操作の痕だったのか。

 魔王様は、私の力を見据えて、軍に入れて下さったという訳か。


「ヴァルテン、どうしたのだ。いきなり大声を出して」


 エルンストが様子を見に来た。

 ここで思い出したことをそのまま伝えれば、ややこしいことになるに違いない。

 ここは上手く誤魔化さなければ。


「いや、少しばかり悪夢を見ていたようだ。気にするな」

「そうか、わかった。どんな夢か訊きたかったところだが、私も用事があるので失礼する」


 エルンストは去って行った。

 上手く誤魔化せたようで良かった。

 元は人間の村に住んでいたなど、口が滑っても言えない。


 しかし、本当に悪夢だった。

 まさか自分が人間だったなんて、どう受け止めれば良いのだ。


 私は鏡を見て考えた。

 先刻、同種を2千万も殺したところだぞ。

 殺し合いをしたとなると、流石に心が痛む。

 これも人間の心が所以なのか?


 そういえば、私とオスカーの顔立ちが似ているように感じたのも、同一人物だからか。

 体つきは……今や筋骨隆々になったものだな。

 しかし、修行をした覚えは全くない。

 何故ここまで筋肉が付いているのだろう。


 やめだやめ。

 考えても始まらない。

 仕事をしよう。

 



 鎧を着たヴァルテンは、さっさと城を出て、魔王の命じるままに、人間を屠るのであった……。

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