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8. お金より大事なもの

 昼間の客のいない酒場に少女の楽しげな声が聞こえていた。


「それでね、お父さんが竜からわたしを助けてくれたんだよ!」


「へー、すごかったじゃない」


「うん! お父さんは強くてかっこよかったんだから」


 笑顔を浮かべるリズをみるマリーの目は優しげであった。


「ところでこれはなんだい?」


「わかんないけど、竜の巣穴のところに落ちててきらきらしててキレイだから、マリーさんにお土産にしようと思って拾っといたの」


「ふーん、ガラスでもないし、不思議なものねえ」


 マリーは日の光を浴びて透ける薄片を目の前にかざして見ていた。


「そういえば、お父さんが、それを持ってると体の調子がよくなるって言ってたよ」


「本当かい? あいつの言ったことだとあやしいねえ」


「わたしが赤ん坊だった頃ずっと握ってて、そうしたら病気しらずだったらしいよ」


「ふうん、なるほどねえ。それじゃあ大事にもらっておくよ。ありがとね、リズ」


 竜の鱗。それは竜の象徴といえるもので、手に触れているだけでも鱗に残された力の残滓によって活力を得ることができる。

 巣から連れ出した赤ん坊のリズをケインが育てることができたのは、ひとえにこの鱗のおかげであった。


「ねえ、マリーさん」


「なんだい?」


 リズはもじもじと気恥ずかしげに話しかける。


「マリーさんって、お父さんと結婚したりしないの?」


「ぶっ、あはははっ、それはないわね。まったく、いきなり驚かせないでおくれよ」


「マリーさんがお母さんだったら、いいのになって思って」


「……だめよ、それは本当に」


 大声で笑っていたマリーは寂しげな顔を数瞬だけ見せるが、すぐに笑顔にもどった。

 

「でも、あいつがまた何か困ったことしてきたらなんでも話しなさい。できる限り力になるから」

 

 しんみりした雰囲気を壊すように乱暴な足音が響く。

 

「おい! リズ、竜の鱗もってるか?」

 

「竜の鱗?」

 

 首をかしげるリズにケインが巣穴でひろったものだと説明すると、マリーが手にもっているものを指差した。

 

「マリー、そいつを渡してくれ。大事なものなんだ」

 

「いやよ、せっかくリズちゃんからもらったものなんだから」

 

「そいつはな、とんでもない高値がついている代物なんだ。とある物好きの貴族にもっていけば、一生遊んで暮らせるぐらいの金がもらえるっていう話をさっき聞いたんだ」

 

「えー、私はそんなお金よりもリズちゃんからの贈り物のほうがうれしいな」

 

 柳に風といった様子でまったく取り合わないマリーにケインが地団太を踏む。

 

「お父さん、巣穴の前にもっと落ちてなかったっけ?」

 

「それだ! 他のヤツラにとられる前にとりにいかないと!」

 

 ちょっと行ってくるからなという言葉を残し、ケインはあっという間に姿を消した。

 

「本当に慌しい男ね」

 

「うーん、しょうがないよ。お父さんだから」

 

「それもそうね」

 

 酒場に二人の楽しげな笑い声が響いていた。

 

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