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神様珍道中。  作者: 京祠
4/8

4葉



「あら可愛い。貴女が候補生なの?」



「うん。でも帰るつもりはないから、他の人探して欲しいな。」



「どうして?神様が探してたわよ?」



「イリスさんと離れたくないしー、ご飯はこっちの方が美味しいんだよね。あと、イリスさんの前でそんな話して良いの?」



「あらやだ、ごめんなさい。場所を弁えるべきだったわね。」



「いえ、ユララからある程度は聞いています。…良ければ街までご案内しましょう。此処は安全とは言えませんから。」




神候補生だと勘違いする程にイリスの神気は高かったが、イリスは候補生ではなく小柄な少女が候補生のようだった。国之常立(くにのとこたち)はその神気を感じて思わず話を進めかけたもののユララと紹介された候補生の言葉で口元を押さえる。

神の存在やその候補生の話をただの人間の前ですべきではないと遅ればせながら判断したようだったが、候補生本人からある程度聞いていると答えるイリスに三柱は目を丸くした。




「話してはいけません、なんて言われてないもん。イリスさん、抱っこ。」



「はい。…では皆様も御手を。」



「どういう事?」



「移動魔法を使います。術者である私に触れていて頂きたいのです。…すみません、ご存知ありませんでしたか。」



「これで良いかしら。」



「はい。…あぁ、直接触れていなくとも移動出来ますのでご安心下さい。では、行きます。」




国之常立(くにのとこたち)がイリスの手に触れ、続いて天表春命(あめのうわはるのみこと)が触れる。天之御影(あめのみかげ)は手を伸ばしたが触れる距離まで届かなかった。しかしイリスは間接的にでも触れているから大丈夫だと告げて聞き慣れない言葉を紡ぎ始めた。それは風となり光となって全員を包み、次の瞬間には草原に居た彼等は一人も居なくなっていた。




「魔法ってすごいのねぇ。」



「恐れ入ります。…あぁ、ただいま。」




三柱は光の強さに目を閉じたが目を開くとそこはもう草原では無かった。

彼等が目指した街がどうかはまだ分からないが一つの街である事は間違いなさそうだった。


日本とは明らかに違うその風景を物珍しそうに眺めている三柱だったが、イリスに向かって来る人の多さに驚いてそちらへと意識を向ける。騎士の帰還を歓迎している様子の人々だったがそれだけではないように感じたからだ。




「イリスさんは、この国の騎士様。強くて優しくて皆大好きなんだよね。俺も好きー。」




イリスに抱えられて移動したユララが何時の間にか三柱の傍に来て口を開いた。

人々から声を掛けられているイリスを少し離れた位置から眺めるユララの表情は穏やかだった。




「あの神気…、本当に人間なの?」



「うん、人間だと思う。…で、そちらさんは?この世界の神様じゃないよね?」



「えぇ、別の世界…日本っていうところで神をやっているわ。わざわざ世界を越えてまで候補生を探して欲しいって頼まれたの。」



「ふぅん…、師匠も焦ってるんだ。でも俺はイリスさんから離れたくないから、帰らないよ。」



「どうしてそこまで気に入ったのかしら?ずっとは一緒に生きられないのに。」



「んー…、イリスさんが死んだら帰るかも。だけど殺そうとしたら俺も怒るよ?」



「そんな事しないわよ。それより良いの?あのままで。」




人々に群がられているイリスは笑顔で優しく対応してはいるものの人は減るどころか増える一方。このままでは話が進まないと感じたユララが溜息を漏らしてイリスに歩み寄った。




「イリスさん、お腹空いた。帰ろ。」



「あ、そうだな。…では、失礼します。また相談があるようでしたら何時でもいらして下さい。」



「そんな事言うから何時も混むんだよ。イリスさん、優し過ぎか。」



「困った人は一人でも多く救いたいから。私で出来る事なら幾らでも力になるさ。」



「はぁ、やっぱり優し過ぎだ。」



「そうかな?国を、民を守るのが騎士なんだから当然だと思うけど…。あ、すみません。どうぞ此方へ。」




ユララがイリスの手を掴んで半ば強引に人垣から連れ出すと街の人達は追ってはこなかった。

イリスに促された三柱は二人の後を追うように足を進め、イリスの自宅に案内された。ユララとの会話からただの冒険者でも旅人でもないと判断したらしい。




「どうぞお寛ぎ下さい。今飲み物を用意しましょう。」



「あらありがと。…さてユララちゃん、帰りたくないのは分かったけど今は貴女しか手掛かりはないの。ちょっとお話聞かせてくれない?」



「えー…、イリスさんと二人きりの時間が減るー。」



「もう、本当に大好きなのね。けどこっちとしても手掛かりなしじゃ日本に帰れなくて困るのよ。」




質素ではあるが落ち着いた雰囲気の自宅。キッチンにほど近いテーブルに着いた神と神候補生は話を始めた。

ユララから多少話を聞いていたイリスは全員に紅茶を出してから椅子には座らずに口を開く。




「神様のお話でしたら席を外します。此処は好きに使って下さい。」



「イリスさんなら良いよ。居て?」



「けどユララ…。」



「ちょっと、どれだけ話しちゃってるのよ。」



「え?全部。だってイリスさんに隠し事したくないし。」



「あのね、いくら何でも…。」



「俺、天表春命(あめのうわはるのみこと)。ユララちゃん、宜しくしてね。」



「おい、こんなチビまで口説くのかよ、クソ眼鏡。」



「だって可愛い子は口説かないと失礼じゃん。」




黙って聞いていた筈の二柱だったがユララの顔立ちが可愛らしいからなのか天表春命(あめのうわはるのみこと)が口を挟む。

天之御影(あめのみかげ)が制止するものの気にしていない様子の彼に国之常立(くにのとこたち)は大きな溜息を吐き出した。




「ごめんなさいね。名乗らないのも失礼だったわ。私は国之常立(くにのとこたち)。可愛い子には直ぐ声を掛けるこのクソ眼鏡が天表春命(あめのうわはるのみこと)で、小さくて口は悪いけど頼りになるのが天之御影(あめのみかげ)。」



国之常立(くにのとこたち)様までクソ眼鏡は酷くないですか!?」



「いくら貴方でも小さいは撤回して頂きたい。」



「イリスです。此方が次期神候補のユララ。……えぇと、コタさんとウワハルさんとミカゲさん…?」



「簡略化された。…お兄さん頭悪い感じ?」



「すみません、聞き慣れないお名前で…。もう一度お伺いしても?」



「良いじゃない、何か新鮮で面白いわ。それと失礼よ?ウワハル。」



「ちょ、慣れるの早過ぎですよ。国之常立(くにのとこたち)様が何でコタさんなんだとか思いません?」



「面白ければそれで良いのよ。ちょっと黙ってなさい。」




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