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神様珍道中。  作者: 京祠
3/8

3葉


「えー、確か巨木(トレント)と呼ばれている魔物で、炎に弱いそうです。木にしか見えないので旅人が襲われる事も多く、討伐は簡単でも発見が困難だそうです。我々は幸運ですねっ。」



「爽やかな笑顔で語ってんじゃねぇぞ、小僧!お前も戦えや!」



国之常立(くにのとこたち)様、言葉が…。」



「余裕なんてあるかっ。天之御影(あめのみかげ)、許す。殲滅なさいっ!」



「……御意。」




ギシギシと鈍く軋む音を響かせながら巨木(トレント)は枝を振り被る。振り下ろされた枝を避ける三柱だったが割れた地面に目を見開く。

更に振り回される枝をどうにか避けている最中に淡々と説明する天表春命(あめのうわはるのみこと)国之常立(くにのとこたち)の罵声が飛んだ。


複数の巨木(トレント)の攻撃は四方八方から飛んでくる為に避けるのも容易ではない。更にその一撃が地面を割る程の威力と理解してしまった今、倒す以外に選択肢はないと判断した国之常立(くにのとこたち)が指示を出す。短く返答した天之御影(あめのみかげ)は刀を構えて振り下ろされる枝を睨み付ける。天之御影(あめのみかげ)がその場を(ほとん)ど動かずに居る事で巨木(トレント)の攻撃対象は彼に絞られたようだった。その為に国之常立(くにのとこたち)天表春命(あめのうわはるのみこと)巨木(トレント)の枝が届かない位置まで下がる事が出来た。


ほんの一瞬だけ天之御影(あめのみかげ)が他の二柱の安全を確認した際、巨木(トレント)の枝が彼の頬を切り裂いた。直撃は避けられたもののほんの(わず)か距離を見誤ったらしい。




「……おい、…下等な生き物の分際でこの俺に触れたな…?」



「あ、やだ。下がるわよっ。」




ギラリと瞳孔が開いたような凶悪な表情を浮かべた天之御影(あめのみかげ)に気付いた国之常立(くにのとこたち)天表春命(あめのうわはるのみこと)を引き摺るように更に距離を取った。

天之御影(あめのみかげ)は腰を落として構えると雨のように降り注ぐ枝の猛攻を全てギリギリのところで避ける。




「参る…っ!」




天之御影(あめのみかげ)が短く叫ぶと巨木(トレント)たちはバラバラと崩れ去る。

人間が瞬きをする程度の時間で何体も居た巨木(トレント)を切り刻んだのだ。刀を軽く振って汚れを落とした天之御影(あめのみかげ)は刀を鞘に収めながら二柱の無事を確認する。




「…そんなに遠く離れる程の脅威ではありませんでしたが?」



「脅威なのはアンタよ。…怪我、大丈夫?」



「この程度、怪我の内に入りません。」



「あー!やっぱりだ。」



「もう、何よ、大きな声出して。」




天表春命(あめのうわはるのみこと)が倒された巨木(トレント)の元へと向かうと既に姿はなく、先程のように金銭が散らばっていた。

しかし素材と呼ばれるアイテムは一つも落ちてはいなかったのだ。




巨木(トレント)は、素材を落とし難い魔物らしいんですよ。何でも、動き出す前に倒す事が出来ると珍しい素材を落とすんだとか。見てみたかったなぁ…。」



「そんなのどうでも良いじゃない。取り敢えずお金は拾っておいてね。こっちで使えるお金はあっても邪魔にならないだろうから。」



「はーい。…あ!忘れてた。天之御影(あめのみかげ)、お前身体大丈夫?」



「は?お前に心配される程弱くない。怪我だってしてな……あ?」



「やだ、どうしたの!?大丈夫!?」




巨木(トレント)が落とした金銭を拾っていた天表春命(あめのうわはるのみこと)が唐突に天之御影(あめのみかげ)の心配をした。大した怪我では無い上に戦闘能力の格段に低い天表春命(あめのうわはるのみこと)に心配された事が不快だったらしい天之御影(あめのみかげ)は彼を睨み付けるが、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。




「…おい、クソ眼鏡…どういう、事だ…。」



「金ばっかだと思ってたんだけどさ。ほら、これ…毒瓶。これがあるって事は、巨木(トレント)の突然変異体…毒の巨木(ポイズントレント)が居たんだなって。」



「あ…?」



「目が紫な魔物って、毒を持っている事が多いらしいんだ。さっきの中にも居たんだろ?多分。だから毒とか食らってたら大変だなーって心配してやってんだろ?ほら俺優しいから。」



「優しいと自分で言うなら、今度から先に言ってちょうだい。どう見ても回ってんでしょ、その毒がっ!」



「あれ?…こっちの世界だと、魔法ってやつで治す方法と…薬を飲む事で治るそうです。その薬も街に行かないといけないんですけどね。」



「……どうして街に降ろしてくれなかったのかしら。」




いきなり街に降ろして騒動になる事を避けたつもりの神は文句を言われている事に気付いてはいなかった。

倒れてしまった天之御影(あめのみかげ)を一番背の高い国之常立(くにのとこたち)が背負う。休息は出来なかったが街に急ぐ理由が増えてしまった為に歩き始めた。


その直後、少し強い風が吹いて三柱は反射的に目を覆った。目を開いた先には見知らぬ人物が立っていた。猪、巨木(トレント)と続いていた為に警戒をした国之常立(くにのとこたち)だったが、目の前の人物は深く礼をした。




「警戒させてしまったようで申し訳ない。私はイリス。国の騎士をしている。駆け出しの冒険者にしては貫禄があるが…。」



「ちょっとお願いされた事を叶えようと思っているのだけど、街に行く前に色々あって困ってるところよ。不躾で悪いんだけど、解毒出来る薬とか持ってないかしら?」



「毒を受けたのか。…触れても、構いませんか?」



「……下等な、生き物…が、触る、な…。」



「もう、大丈夫よ。彼は魔物なんかじゃないわ。人間よ…多分ね。」




国之常立(くにのとこたち)の目に映る騎士は人間とは思えない程清廉な人物のように見えていた。神のような気配を強く感じる程に。

その騎士が天之御影(あめのみかげ)に謝罪をしてから触れるとふわりと柔らかな風が起こった。緑色の混じる光が周囲を包むように輝くと天之御影(あめのみかげ)の身体に吸収されるように消えていった。




「私でも使える魔法で良かった。もう大丈夫ですよ。」



「お前…、…お前が候補生か。」



「え…?」



「候補生は俺ー。イリスさんは普通の人間だよ。」



騎士の纏う神気に天之御影(あめのみかげ)が探している神候補かと感じたが、騎士の後ろからひょっこりと現れた小柄な人物が間延びした口調で否定をした。

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