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神様珍道中。  作者: 京祠
2/8

2葉



「ちょっとぉ!何なのよっ、こんなに酷いなんて聞いてないわよぉーっ!!」




美しき縁結びの神、国之常立(くにのとこたち)。特別美しさに気を遣っている訳では無いのにそこに居るだけで周囲の目を惹くその姿、今は盛大に乱れてしまっている。

綺麗に着付けられた着物が崩れてしまっている程に広大な草原を走っている…全力で。


猪に似た姿をしている巨大な生き物に追い掛けられているのだ。




「俺だって聞いてないですからねっ!?というか、も…走るの辛い…、死ぬ…。」



「走りなさいっ!本当に死ぬわよっ!!」



「……致し方無い。殺生は好まんが…、……斬るっ!」



「あぁ、ちょっと!他の世界の生き物なんだから……遅かったか。」




祖母の代わりにと出立を志願した武神、天之御影(あめのみかげ)国之常立(くにのとこたち)とはまた別の美しさを持っている。男性らしく整った容貌は人目を惹くだろう…此処が草原でなければ。


三柱の神が巨大猪に追われて無様にも草原を駆けていたのだが、逃げる事を止めた彼は巨大猪に向き直る。国之常立(くにのとこたち)の言葉を無視して腰の日本刀を抜くと襲い来る巨大猪をしっかりと見据えた。

突進してきた巨大猪に()ね飛ばされるその瞬間に地を蹴り、その巨大な鼻を足場にして更に高く跳び上がると落下する速度を利用して巨大猪の首を一太刀で斬り落とす。


絶命した巨大猪は大きな音を立ててその場に崩れ落ちた。

それとほぼ同時に倒れた男が居た。世界を越えた三柱の内の一柱、天表春命(あめのうわはるのみこと)である。学問の神である彼は他の二柱よりも体力が低いのだろう。

普段は女性に好まれる甘い顔立ちもすっかり青ざめてしまっている。




「あら…、ちょっと、こんな場所で倒れないでよ。私背負えないわよ?」



「…俺が運ぶ。」



「………え、身長差的に難しくない?」




1間(約180cm)を越える天表春命(あめのうわはるのみこと)を5尺(約150cm)を越えた程度の天之御影(あめのみかげ)が背負うのは難しいのでは、と国之常立(くにのとこたち)は二柱を見下ろす。




「…こんな男、引き摺っても構わん…が、これなら運べる。」



「うん…そうね、運べるわね。でも男として屈辱的だと思うわよ?」




小さな天之御影(あめのみかげ)が大きな天表春命(あめのうわはるのみこと)を姫のように抱き上げた。力のある天之御影(あめのみかげ)にとって重さは問題ではないのだろうが、ぐったりとしている天表春命(あめのうわはるのみこと)は弱々しく首を振って嫌だと訴えている。




「では立て、こんなところで立ち止まっている暇などない。」



「ぐふぇっ!」



「あらあら、優男が台無しね。…でもまたあんな生き物に出会う前に…あら?猪が居なくなってる。」



「これが…あの神の言っていた事…だ、よ…。」




天之御影(あめのみかげ)に落とされた天表春命(あめのうわはるのみこと)は背中を打ち付けて間抜けな声を上げる。

国之常立(くにのとこたち)が振り返った先に倒した筈の巨大猪が居なくなっている理由をゆっくりと立ち上がった天表春命(あめのうわはるのみこと)が答えた。




「此方の世界には魔物と呼ばれる化け物が居て、人間を襲う。倒すと金銭や道具を落とす。…よいしょ、と。ほら、これだろう。……日本の貨幣とは違うけど、きっとこれが此方の世界の貨幣なんだろうね。こっちは…、…猪の肉と毛皮、それとポーションってやつかな。」



「説明は聞いてたんだけど、良く分からなかったのよね。流石(さすが)学問の神、良く理解してるじゃない。」



「理解はしたけど、実際に見るとやっぱり違いますよ。魔物という生き物が妖怪のようなものだと仮定したとして、倒すと色々落とすなんて理解出来ない。…国之常立(くにのとこたち)様、頂いた袋を貸して頂いても?」



「あぁ、何でも入る袋ね。なんて言ったかしら…あい…。」



「アイテムボックス。持ち主の魔力に因って容量が変わり、袋の中では劣化も止まる。生物以外は何でもしまっておける、死体ですらも。…中がどうなっているのか気になるところですね。」



「お前、入ってみろ。どうなってるか分かるかも知れないぞ?」



「死体になったら解明出来ないでしょうが!生物は入れないの、俺は生きてるの、入れないの!」



「はいはい、じゃれてないで進むわよ。此処から東の街に行ってくれって事だったわよね。」




此方の神に此方の世界の事を聞いた三柱だったが天表春命(あめのうわはるのみこと)だけが素直にその情報を吸収しているらしく、疑問にはつらつらと答えてくれていた。




「東…此方か。」



「いや、東と聞いたけどそっちだとは決まってないよ。」



「太陽の位置を見れば東はあちらだろうが。」



「此処は日本ではないんだ。太陽の位置だって違うかも知れない。この世界の人に道を聞くのが得策だと思うんだけど…。」



「何処に居るのよ、そんな人。」




この広大な草原に人間どころか生き物の姿は見当たらない。

仕方なく三柱は歩き出した。太陽の位置から方角は分かるもののこの世界が日本と同じか分からない為に、取り敢えず日本と太陽の位置が同じだと仮定した上で東に進んだ。

目的は街を目指す事では無く、落下してしまった神候補を探す事。最初に向かった方が良いという街に辿り着けなくてもどうにかなるだろうと進む事にした三柱。




「でも怖かったわぁ。あんな大きな猪が襲ってくるなんて……あら?此処って草原よね?この辺りから林になるの?」



「いや、地図だと草原の先は街になってるけど…。」



「地図あんのかよ!」



国之常立(くにのとこたち)様、お言葉が…。」



「あ、あらやだ、つい。でも天表春命(あめのうわはるのみこと)、地図あるならその方角に向かえば良かったじゃない?」



「ですから、太陽の位置関係からの方角が信用出来ない以上、この地図の方角も分からないのですよ。こう見るのか、こう見るのか…はたまたこう見るのが正解か…ね?分からないでしょう?」




天表春命(あめのうわはるのみこと)は地図を横にして、縦にして、最後には斜めに持ってみて説明してみせる。確かに方角が分からないのであれば地図があっても進む方向は分からないのだが。

しかしその地図に林は存在していなかった。森は書かれていたが、草原の真ん中に木が幾本か乱立する林は記載されていなかった。




「まぁでも折角の日除けだし、少し休憩しましょうか。随分歩かされたもの、ね?」



「袋の中に水が無いか探してみます。」



「ありがと。じゃあ休憩って事で……あ、あら?ねぇ、こっちの木って移動するの…?」



「いいえ、木は木です。動くのであれば魔物の一種ですね。」



「さらっと言ってんじゃないわよ、このボケぇぇぇぇ!!」



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