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エルフとオークが来た

 エルフといわれれば、皆さんはどのような存在を想像するだろうか。物書きを生業としている人間としては、やはり最初に思いつくのは指輪物語に登場するエルフだろうか。


 美しい外見、永遠にも近い命を持ち、魔法を得意とする種族。一般的なエルフのイメージはこのような感じだろうか。最近のファンタジーモノの小説では度々登場し、その亜種であるダークエルフやハーフエルフ等も親しまれる存在となっている。


 ここで、い○ゞのトラックを想像した人、お仕事お疲れ様です。


 まあ何故そんな話をし始めたのかといえば、遂にこの部屋にもエルフの来客が出現したからである。今まで、天使だの魔王だの、アンデッドやら神様やらがやってきていたが、ここにきて王道ファンタジーの登場種族が現れたのである。


 話は数十分前に遡る。







「それでですね、ウチの兵団のモチベーションを保つためになにかイベントでもしたいと思いまして、ソーイチロー様なら何かいいアイデアでも無いものかと」


 入れたてのお茶を飲みながら、シルがそんな事を口にした。一応こんなでも、フェリシアは魔王な訳で、それなりの数の兵士を保有している。この兵士たち、ほとんどが魔族という種族で構成されているのだが、魔族というのはあちらの世界では最強種。つまるところ魔王軍に敵などいないのだ。


 そんな訳で、そんな世界最強の軍を擁する魔王国にケンカを売る国などおらず、ここ数百年と戦争など起こってはいないのだ。そのため兵士達に緊張感などまるでなく、その彼らのモチベーションアップに繋がるイベントを企画したい、という相談だ。


「んな事言われてもな。そういう政治とかに関しては素人だしな」


「ですよね」


 シルとしても特に気の利いたアイデアなど求めちゃいないのだろう。ただの茶請けの話としてあげただけだ。


 久しぶりの休みが取れた、という事で今日のシルはウチでのんびりと過ごしている。せっかくの休みなんだからこんなしけたところで過ごさなくてもいいと思うのだが。


 そんな風にのんびりとした午後を満喫していた訳なんだが、そんな時に限って押入れの扉は開くもので、がたがたがたがたと音を立て始める。


「こんちわっすー。ソーさんお久しぶりです」


 その巨体を縮めながら現れたのは、今や見慣れたオーク面、ヤスヒロだ。


 今更なんだが、そのソーさんって呼び方もやっと来るな。マイティな雷神様だったり、釣り好きの老人を想像させる。


「おう、久しぶりだな。妹たちの件では世話になったな……ん? 今日は一人じゃないんだな」


 今まで一人で来ていたヤスヒロだったが、今日はなにやら人を連れてきたようだ。その巨体の裏から姿を現したのは、何やら甲冑の様なものを身につけた少女だ。こちらの風景がものめずらしいのか、きょろきょろと辺りを見回している。


「あ、えーとですね。実は前々から話していた……」


「ヤスヒロ、自己紹介くらいは自分で出来る。申し遅れた、妾はエステル=グランティア。グランティア王国第二王女、といってもそなたらには意味の無い事か。日ごろからヤスヒロが世話になっておるようなので、今日は挨拶に伺わせていただいた」


 ……ああ! この子が例の女騎士か!


 話に聞いていた限りじゃ結構ぶっ飛んだ性格っぽい感じだったが、こうして相対してみるとなかなか礼儀正しい感じじゃないか。


 ヤスヒロの言っていた通り、金髪の美人さんで、どことなくセ○バーっぽい感じの雰囲気だな。


「あれ、ソーさんどうしました?」


「いや、エルフってのは初めて会ったなーと思ってな」


「ああ、耳が気になってたんですね。グランティア王国の王族はエルフなんですよ」


 その尖った耳、いわゆるエルフ耳をじろじろと眺めていたのが気になったのだろう。姫様が恥ずかしそうに耳を隠す。


 エルフの姫様と共に世界を救う冒険者。やっぱりヤスヒロって俺の知り合いの中じゃ一番ファンタジーの主人公してるよな。オークだけど。


「まあ二人とも座りなよ。そっちの姫様もそんな重そうな甲冑も脱いで」


「……!? ま、まさかこんな出会って直ぐにそんな……こんな場所で脱げだなどと命令されるとは……くっ!」


「おいどうした急に」


「すいませんソーさん。この子は年がら年中頭の中がピンク色でして……」


 あー。なんかそんな話もあったな。そういや出会うまではこの子のイメージってくっころ女騎士だったな。


 顔を赤らめながらちらちらとこちらを見てくる姫様ことエステル。本当にうちに来るのってこんなんばっかだな。


「なんかヤスヒロを見てると安心するわ」


 見た目以外はごくごく普通だし。


「なんですかそれ」












 ひと悶着あったが、どうにかエステルに装備を解除して座らせる事に成功した。なんでこんな事に手間取っているのかは全く分からない。


「ソーイチロー様、お茶が入りましたよ」


「ありがとな」


 いつもはこういうのは俺がやるんだが、シルが居るときはこうして雑用を率先してやってくれる。いつの間にかメイド服に着替えてるし。

 

 ちなみにフィールは興味無さそうにアズを枕にしてスマホをいじってるし、フェリシアもその隣でSWI○CHでスマ○ラをしている。一応邪魔にならないように部屋の隅に移動している所を評価すべきか。


「あ、そうだ。これソーさんたちに渡そうと思って」


 そういってヤスヒロが差し出したのは、シンプルな装飾の鞘に収まった短剣だ。


「何これ」


「邪神を封印した短剣っす」


「なんつーもん持ってくるんだお前は」


 言われてみればなにか禍々しい雰囲気があるような気が……するようなしないような。うん、よく分からないな。


「いやー。この間魔王と戦ったじゃないですか。その時に出てきた邪神を封印したんですけど、どうしても持て余してまして……それでミリアムさんに相談したんですけど、そしたらソーさんに渡しておけって言われまして」


 ミリアムというと……ああ、妹たちと旅したときに会った女神か。


「でもこれめっちゃエモくないですか?」


 出たよ最近の若者の万能ワード、エモい。


「エモいな」


 まあ俺も使うんだけど。伊達にファンタジー作家とかやってないから、こういうのは大好物なんだけどさ。


「まあいざとなればフィールもフェリシアも居るし大丈夫だろう。なんかあったらミリアムに文句の一つでも叩きつけてやろう」


「ご迷惑おかけします」


 とりあえずこの短剣は出窓に飾っておこう。外から見えるのはまずいような気がしないでもないが、まあ別に見られるといってもこのアパートに住んでるやつなら問題ないか。


「あの、大賢者殿。一つお願いがありまして」


「……その大賢者とは俺の事か?」


 いつの間に俺は賢者を通り越して大賢者になったのだろうか。そもそも賢者になった記憶も無いんだが。


 どうせこいつがあること無い事吹き込んだのだろう、とヤスヒロを睨みつける。案の定目を逸らしやがった。


「いやー、色々説明が面倒だったんであの爆弾とか。全部ソーさんに貰ったって事にしちゃったんすよねー」


 爆弾というと、リアがヤスヒロに渡してたやつか。他にもフィールが大層な剣とかを渡してたような気がするが。


「今じゃソーさんの名前はあっちの世界で有名っすね。魔王討伐の為に宝具を授けてくれた異界の大賢者として」


「なんて事をしてくれたんだお前は」


 異界の大賢者って。こちとらごくごく普通の一般人やぞ。


「まあいいや、んでどうした?」


「大賢者殿はその比類なき知識の他にも、戦闘技術にも通じて居ると聞きまして。妾に訓練をつけていただけないかと思いまして」


「おいヤスヒロ」


「すみません盛りすぎました」


 素直に謝るのはよろしいが、それにしてもこれはやりすぎだろう。何度も繰り返すが、俺はごくごく普通の一般人やぞ。


「いいじゃんソーイチロー。多分ソーイチローの方がそっちのエルフより強いと思うよ」


 今まで興味が無さそうだったフィールが唐突に口を挟んでくる。何を適当な事を言い始めるんだこいつは。


「そうですね。私もそう思いますね」


 シルまで便乗してくる。どうしたこいつまで。


「何を言ってるんだお前ら。俺に戦った経験なんてないし、怪我もしたくないから嫌だぞ」


「いやだって、ソーイチローには私から加護を与えてるし、フェリちゃんの眷属としての力もあるから。普通にそこらの魔王とか勇者より強いと思うよ」


「……なぬ?」


 ちょっと初耳の情報が多数飛び込んできて処理が追いつかないんだが。


「加護? 眷属? ちょっと訳が分からないんだが」


「あれ、言ってなかったっけ? わたしってばほら、こんなんでも一応神格のある大天使様だからさー、人に加護とか与えられるの。まあソーイチロー以外には与えた事とか無いから、現状わたしの加護はソーイチローに全振りしてるわけで、まあかなり強力な加護になってるわけよ。具体的にはその気になればパンチ一発で山とか吹き飛ばせる位には」


「なにその物騒な情報。今まで全然そんな感じ無かったんだが。日常生活に支障なかったし」


「そりゃまあ加護は意識しないと発動しないからね。あ、防御面に関しては常時発動してるから、核兵器がここに落ちてきてもソーイチローは無傷だと思うよ」


 いつの間に俺は人間兵器になっていたんだ。


「その気になればベクトル反射とかも出来るよ」


「どこの一方○行さんだ」


 レベル6を目指したりしないよ。


「まあソレはいいや。んで後はなんだっけ? フェリシアの眷属……だっけ?」


「そうですね。魔王様は魔王種、という魔人の中でも高位の存在ですので、ある方法によって己の眷属を作り出す事が出来ます。主な効果としては眷族に対して魔王種と同等の身体能力と魔法制御能力を与える事ですね」


 これに関してはシルの方から説明が入る。いつの間に、と思ってフェリシアの方を見てみれば、何やら首筋まで真っ赤にしながら目をそらされる。どうした。


「ちなみにその方法なのですが、粘膜の接触、まあありていに言えばキス、ですね。そのためもっぱら魔王種の眷属はその魔王の伴侶として扱われる事になります」


「……なぬ?」


 全くそんな記憶なんて無いんだが……


「……酔っ払った時に……つい……」


 顔を真っ赤にして、しおらしくそう答えるフェリシア。なんだ……その、急に恥ずかしくなってきたんだが。


「おいヤスヒロ、何ニヤニヤしてんだよ」


「いやー。ソーさんもなかなかヤリ手だなあと」


「うるさいよ」


「ひゅーひゅー」


 にやにやとこちらを見るヤスヒロと、安っぽい冷やかしを送って来るフィール。


「まあそんな訳で、ソーイチローってば普通に結構強い訳よ。その気になればあのドラゴンの兄妹とかも召喚できるしね」


 ドラゴンというと、竜之介と竜姫の事か。どうやら俺が名づけをしたことで魂のつながりがあるとかで、魔力を使って呼び出せば応えてくれるらしい。もうここまで来ると俺も理解するのを諦めた。そういうものだと思っておこう。


「そうか、大賢者殿からは不思議と強者のオーラを感じることが無かったが、まさかそこまでの実力者であったとは! あまりに強大な力ゆえ、妾程度の力では感じ取る事も出来なかったという事か。これはぜひとも稽古をつけて頂きたい!」


 ああ、エステルもいい感じにノリノリだ。というかなんだ、この姫様は戦闘狂いか何かなのか。


「ちなみに姫様の二つ名は『血塗れ戦姫』です」


「なんかもうそれだけで察したよ」


 戦闘狂いで、くっころさんで、エルフと。おじさんもうおなか一杯だよ。


「いや、まあでも場所とか無いし、まさかここらで戦うわけにも行かないし……」


「場所であれば魔王城の訓練場を提供しますよ」

 

 おいシル、急に何を言い始めるんだ。


 シルのほうを見れば、何やら企んでいる目だ。


「おい、お前まさか例の魔王軍のイベントとやらに使おうとしてないだろうな」


「いえいえ、たまたまですよ。まあ我らが軍の中にも興味がありそうなのが沢山いますので、観戦の許可は出そうと思ってますが」


 やっぱりか。何故かとんとん拍子で進んで行くこの話。


 何やら日程等を相談し始めたシルとエステルを尻目に、俺はがっくりと肩を落とした。もう勝手にしてくれ。

なんか急にラブコメが始りましたが、別に続きません。


次回から、なんかいろんな人がまた出てくる予定。

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