魔法少女も楽じゃ無い
8月中にもう一話上げようと思ったけどぎりぎり間に合わなかった件。
魔法少女、後編です。
「とりあえずこの案件は保留ね」
ヘルフリッツの部屋から撤退してきた魔法少女御一行と俺たち。彼女らは元の世界に帰ってこの事を報告するらしいが、とりあえずは一息つこうという事で今は俺の部屋で休んでいる最中だ。まあそこまで急ぐ事もなかろう。
「にしても、あんな危険な存在が住み着いてるだなんて、この世界も中々大変なのね」
「あいつがそんなに危険に見えるのか。確かに犯罪者予備軍にしか見えないが、あれはあれで普通に社会に溶け込んでるぞ?」
「そっちじゃなくて……あんなに強力なアンデッド、なかなかお目にかかれるものでもないわ」
ああ、そういう事か。確かヘルフリッツのやつってフェリシアの配下の中でも一二を争う実力者とか言われてたな。
「まあああいうのが住み着いてるのはここらじゃこのアパートだけだけどな」
「そう、それよ。さっきは見過ごしてたけどこの建物おかしいわよ? 単独で世界をどうこう出来る様な存在がうようよしてるだなんて。しかもその中心がただの一般人。知れば知るほど訳が分からないわ」
俺も慣れてしまって別段おかしく感じなくなってきたけども、この状況って傍から見たらそう見えるのかもな。
「というか、別にお前らの世界の問題じゃないんだし放置していてもよさそうなもんだけどな」
「そうは言っても、ここは私たちの世界と繋がっちゃってる訳だし。なにより後々ばれたときに責任とか面倒じゃないの」
「間違いない」
どこの世界もそういうところは変わらないんだな。世知辛い。
先ほどからレッドばかりが喋っているが、他の二人、オレンジとブルーは先ほど俺が出した茶菓子に夢中になっている。というか、この二人はここに来てからほとんど口を開いてないな。
「ああ、そのことね。私たちの世界ってほとんど男がいないのよ。それこそ別の世界への扉が開いたりしない限り男と話す機会なんて無いから。二人は男に会うのが始めてだから、それで人見知りしてるのよ」
「何その同人誌みたいな設定の世界」
最近そういう設定流行っているよな。
「その割りに、お前さんは結構慣れているように見えるが」
「だって私は男だもの」
……マジか。
ここに来て明かされる衝撃の事実。目の前の真っ赤な魔法少女は、実は男の娘だったようだ。
「なあフィール。気づいてたか?」
先ほどまで興味無さそうにスマホをいじっていたフィールも、ここぞとばかりに寄ってきてレッドの観察を始める。こいつはこういうのが大好物だからな。
「いや……全然。というか言われた今でも信じられない。奇跡も、魔法も、あるんだね」
俺たちがじろじろと不躾に観察していると流石に恥ずかしくなったのか、レッドがコホン、と咳払いをして話を続ける。
「男だってバレると生き難い世界だもの。確かに最初は何で私がこんな事を、とも思ってたけど、段々と可愛くなっていく自分を見ていくうちに気持ちよくなってきたし。今では自分が男だってこともほとんど忘れてるしね」
とウィンクを決めてみせるレッド。キメている所悪いが、どう見ても性癖をこじらせたようにしか見えないぞ。
「じゃあ魔法少女なんてやってるのも……」
「趣味よ」
どうやら、異世界の魔法少女(男)は、強く、それは強く生きているようだ。この部屋に来るヤツってどうしてこんな癖の強いのばかりなんだろうか。
ほどよく歪んだレッドの性癖を聞いていると、ふとその隣から視線を感じた。そちらに目をやってみれば、オレンジとブルーがこちらをちらちらと見ている。
こちらから視線を向けてみれば、両者ともさっと視線を逸らす。うん、どうやって接していいか分からないな。そういえば、この部屋に来た女の子たちはどいつもこいつもコミュ力が高いというか、こうして接するのに困った事は無かった気がするな。
というか、誰も彼もが俺よりも大分年上だしな。そう考えてみると、女の子と例えるようなのはほとんど居ないかもな。
「ソーイチロー。その考えは良くないと思うよ。うん」
「勝手に人の心を読まないでくれるか」
この天使も一言で表すならばロリバ……いや、これ以上はやめておこう。隣から突き刺さる視線が痛い。
とにかくまあ今は目の前の二人だ。別に仲良くしなきゃいけない訳でもないが、このままというのも何か寂しい。
とりあえずもので釣ってみようという事で、戸棚から買いだめしていた袋菓子をざっと開ける。二人とも遠慮がちにちらちらとこっちを見ているので、その目の前に菓子の乗った盆を差し出してみる。
少し警戒していたようだが、甘いものの誘惑には勝てないのかやがておずおずと手を伸ばす二人。嬉しそうに口へ運び、二人とも満面の笑みを見せる。
「ねえ、私にはないの?」
「ああ、すまんすまん」
ねだるレッドにも同じように。
「んー! 久しぶりの甘味! これだけでもこの世界に来たかいがあったわねー」
カントリー○アムとブ○ボンの袋菓子でそんなに喜ばれてもなんか申し訳なくなるな。しかもスーパーの特売で買ったやつだし。
「私たちの世界じゃこれでも高級品よ? この世界は裕福なのね」
どうやら彼女らの世界は、俺が思っていたよりもディストピアなようだ。普段の食料、といってレッドが出したのは、なんの変哲も無いカロリーバー。一口齧らせてもらったが、なんというか無味無臭の砂の塊だった。
こんなものを毎日主食にしてたら、そりゃカントリーマ○ムもさぞかし美味く感じる事だろう。
「ほら二人とも、遠慮せずどんどん食べなよ」
遠慮がちな二人が不憫になってきたので、どんどん食べるように促す。
「いいのですか……?」
「わたくしたちのお給料ではとても手が出ないような高級品ばかりですの」
ここに来てやっと口を利いてくれた二人。ちなみに、小さな声で遠慮がちに喋っているのがオレンジで、お嬢様口調なのがブルーだ。オレンジは小学生かと見間違えるような小さな体躯のショートボブの子で、ブルーはロングヘアーのお嬢様チックな子。どちらも髪の色が名前と一致している。
「いいからいいから。若いもんが遠慮するんじゃないよ」
思わず爺さんの様な口調になってしまったがしかたあるまい。
それでも遠慮がちな二人だったが、フィールとレッドがバリバリとお菓子の山を攻略し始めたのを見て、このままじゃ全部食べられてしまうと思ったのか急いで手を出す。
これを計算してやっているのであればこの駄天使を褒めたいところなのだが、残念ながらただ食い意地が張っているだけというのが物悲しい。
「ん……ふぁに? ふぉうふぁした?」
「いや、なんでも無いです」
「それじゃあ。また来る事になるとは思うけど」
「ああ、またな」
手土産に棚にしまってあった袋菓子をたらふく持たせてやって、魔法少女に別れを告げる。オレンジよ、ばか○けを受け取って涙ぐむんじゃ無いよ。なんか申し訳なくなってくる。
若干名残おしそうな表情をみせた少女たち。いや、少年少女だったが、それぞれ手を振って押入れの奥へと帰って行った。
今度来るときは、ここらで有名なケーキでも買ってきてやろう。
「ねえソーイチロー」
「どうした?」
「結局フェリちゃん一言も喋らなかったね」
今の今まで存在すら忘れてたわ。今も部屋の隅で麻雀ゲームに夢中のようだが。
「そういえば、フェリシアはレッドたちの目には脅威として映らなかったみたいだな」
「そうだね。この部屋にいるときは魔力とかも練ってないし、周りの警戒もしてないみたいだからぱっと見たら一般人と変わらないからじゃない?」
気を抜ききっているから、ということか。それでいいのか魔王。
「まあ安心してるって事じゃないの?」
「それならまあいいか」
もうぼちぼちリアも帰ってくるだろうし、シアもフェリシアを迎えに来る頃だろう。夕飯の準備でもするか。
皆さんコメント等ありがとうございます。あんまり気の利いた返事を返せなくてごめんなさい。本当に嬉しく思ってます。
次回は久しぶりにヤスヒロのお話の予定。ヤツがヒロインを連れてくるお話です。