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魔法少女は唐突に

久しぶりに異世界からの来訪者です。

 物事というのは何事も唐突に、前触れ無く起こるものであるという。特にウチのような奇天烈を混ぜ合わせたような場所ではそういう傾向が強い。


 まあ魔王やら天使やらアンドロイドなどというファンタジー溢れる存在が住み着いている現状、俺の度肝を抜く、というのはなかなか難しいというのが現状だ。慣れとは恐ろしいものだ。


 とまあたまには物書きらしく、真面目な語り口調で始めてはみたが、今日の訪問者はそれなりに俺の度肝を抜いてくれた。


「だから、魔法少女バーストトゥインクルプリズマレッドよ!」


「ちょっと何言ってるか分からないっす」


 どこぞの芸人の様な返しになってしまった。

 





 時が過ぎるのは早いもので、気がつけば年の瀬。世間では正月の準備やら大掃除やらで忙しなく人が動く中、我が家は何時も通りだらだらと各々が過ごしていた。


「なあソー兄ぃ。これって別にレールガンじゃ無くねえか? どこにレールがあんのさ。どっちかってーとコイルガンじゃね?」


「レールガンと超電磁砲は別モンだろ。アニメで物理法則がどうとか言ったら駄目だろ。それ言ったら宇宙で戦うアニメの大半が無音になるぞ」


「なんだかなー」


 何となく納得のいかないような表情のリア。アンドロイドとしてはその辺をはっきりさせたいのだろうが、この世にはロマンの一言で納得する人種も居るのだよ。


 アニメを見るリアとフィールを横目に、パソコンと睨めっこをしながらキーボードを叩く俺。残念ながら、作家という職業に年末の休みなど無い。まあ上手い事作業の調整をしている人たちはしっかり休んでいるのだろうが、ちょっと最近遊んでばかりだったからな。やらなくてはいけない事が溜まっているのだ。


 そんな訳で、俺は仕事で忙しいのだが、そんな時に限ってウチの押入れというのはどこかに繋がってしまうようだ。


「ここが反応のあった場所ね。確かに闇のオーラが渦巻いてるわね!」


 がらりと引き戸を引いて現れたのは三人の少女。一目見て分かる、今回はあれだ。


「「魔法少女だ……」」


 リアとフィールの声が重なる。


 目の前に並ぶ三人の少女は、まさしく魔法少女といった風貌だ。ご丁寧に赤、青、黄色で分かれている。勝気な表情の赤、クール系の青、ロリ巨乳の黄色。この手の魔法少女あるあるのキャラクターに分かれている。


「あの……あかりちゃん。ここ人の家の中みたいなんだけど……」


 黄色い少女がおどおどと赤い少女に声をかける。


「あら、こんな事もあるのね。まあいいわ! 私は魔法少女バーストトゥインクルプリズマレッドよ!」


「はい?」


 そして冒頭のやりとりに続く訳である。






「はあ、それでそのバーストトゥインクルの皆さんがウチになんの御用で?」


 どうもこの少女達は、バーストトゥインクルという魔法少女グループらしい。ちなみに、赤がプリズマレッド、青がスペクトラブルー、黄色がシャインオレンジだとか。どう見ても黄色なのだがオレンジらしい。解せぬ。


「妙に落ち着いてるわね……まあいいわ。私たちは闇のオーラを追ってここまで来たの!」


 なんとも要領を得ないが、色々と聞いて見た所こういう事らしい。


 彼女たちは日々町の平和を守るために悪の秘密結社やら組織やらと日夜戦う魔法少女である。そんな彼女たちがある日発見したのは、別の世界に繋がっていると思われる謎の扉であった。


 その扉の奥からは、強大な悪のオーラが計測されたらしい。悪のオーラがなんなのかは知らないが、彼女たちの世界ではそのオーラを計測する事が出来るようだ。


 その調査の為に、この三人が調査の為に派遣されたようだ。


「まあ何となく事情は分かったけど、その悪のオーラ? だったか。ってのは一体なんなんだ?」


「悪のオーラは悪のオーラよ。知らないの?」


 知らないから聞いてるんだが。


 俺が若干イラっとしたのを察したのか、隣で傍観していたブルーが説明してくれる。


「悪のオーラは主に悪人から観測される波動の事でして……邪な心や怠惰な心が生む波動だとされています。私たちの世界ではそれを観測し、未然に犯罪を防いでいるのですわ」


「なるほど」


 邪な心、怠惰な心……ねえ。


 俺とフィール、それからリアの視線が一点に集まる。もちろんその向く先は、こたつに潜り込んで一心にスマホを見つめるフェリシアだ。ちなみに昨日からは一心不乱に麻雀アプリをしている。


「この人は違うわね。確かに多少の悪のオーラを感じるけど、一般的な引きニートレベルよ」


 手元のスマホの様な機械をフェリシアに向け、そう言い放つレッド。なるほど、スカウター的なものがあるわけか。


 それにしても、一般的な引きニート……か。まあ間違っちゃいないが、これでも一応は一国を統べる王のはずなんだがな……


「反応が出てるのは……この上みたいね」


「上というと……ああ、ヘルフリッツの事か? つってもあいつもただの引きニートと変わらない筈だけどな」


「ねえソーイチロー。そのスカウター的なヤツって、多分アンデッドとかにも反応してるんじゃないかな」


 アンデッド……そういやヘルフリッツってリッチだったっけか。


「アンデッド!? そんな危ない存在を放置していて大丈夫なの?」


「まあ普通に生活してるだけだし、問題ないんじゃないか?」


 信じられない……と呟くレッド。どうも彼女らの世界ではアンデッドはかなり危険な存在として知られているようだ。


「しかも言葉を話す知能あるアンデッドなんて、私たちの手には負えないわ。一度帰って報告しないと危険手当も出ないし……」


「危険手当って、なんかお役所仕事みたいだな」


「みたいも何も、魔法少女は公務員よ」


「マジでか」


 魔法少女が公務員。なんとも夢の無い話だ。


「というか公務員って、どう見ても未成年だろうお前ら」


「何言ってるの。私はもう十九だし、ブルーとオレンジも十五歳よ」


 どうやら彼女らの世界では十五歳で成人を迎えるようだ。なんとも世知辛い世の中なようで。というか十九って、どう見ても中学生にしか見えないが……主に胸とか。


「何か失礼な事考えてない?」


「いや、別に」


 む、意外と勘は鋭いのか。


「とにかく、一応そのアンデッドの確認だけしておきたいわ。このまま帰ったらまた上司に文句をつけられそうだしね」


「あかりちゃん。この間も調査不足って怒られてたもんね」


「ちょっとオレンジ、仕事中に名前で呼ばないでっていつも言ってるでしょう?」


 怒られるオレンジ。そちらに視線をやってみると、サッと視線をそらされる。人見知りか、はたまた男嫌いか。


「とにかく、案内してもらえるかしら。ささっと確認だけしたら直ぐにお暇するから」


 まあ別にそれくらいならいいか。







 相変わらずぼろい階段を上り、ヘルフリッツの住む二階へ向かう。俺の後に続く魔法少女三人と、何故かついてきたフィールとリア。普通におかしい光景だよな。近所にあんまり人が住んでなくて良かった。


「そういやソーイチロー。二階ってヘルフリッツ以外は住んでないの?」


「あー、他のやつらには会った事無かったか。まあその内紹介するわ」


 このアパート全部で六部屋。一〇一号室が俺の部屋で、その隣の一〇二号室がリアと博士たちが住んでいる。一〇三号室は空室だ。


 二階にも三部屋あるが、一応すべての部屋が埋まっている。二〇一号室にはご存知ヘルフリッツが住んでいるが、他の部屋にも個性的なメンツが揃っている。まあ一つの部屋に関しては住んでいる、というか憑いているって感じだが。


 そんな事を話しているうちに、ヘルフリッツの部屋の前に着く。


「あれ、チャイムが鳴らないな。壊れてるのか。おーい」


 築何十年かのアパートなので、設備うんぬんもそれ相応にぼろい。チャイムが鳴らないなんて事は日常茶飯事なので、ごんごんとドアを叩いてヘルフリッツを呼び出す。


 しばらくして、どすんどすんという音を立ててヘルフリッツが現れる。


 まあこの時俺は失念していた訳だが、ヘルフリッツは筋金入りのオタクな訳で、そのオタクの前にまるで二次元から飛び出して来た様な魔法少女を連れてきてしまったのだが……


「おっふ、ソーイチロー殿お久しぶりで……ヌフッ! これはこれは……小生も長いこと生きて参りましたが、これほどの魔法少女がこの世に存在していたとは! いえ、しかし拙者は二次に生きるもの、三次にときめいてはこれは大惨事に、しかして……」


 とまあこうなってしまう訳で。もはや一人称も定まってないし、なんか上手い事言おうとしてるし。


「え……」


 魔法少女三人組もこれにはドン引きである。


「しかしこれは見事な魔法せうぞですなあwww。まるで二千年代初頭のプ○キュアの様な完成度。実にプリティであらせるwww」


 バタン、と音を立てて閉められるドア。見るに耐えかねたレッドが閉めたようだ。


「……見なかった事にするわ」


「それがいいと思うよ」


 こうして、魔法少女たちは収穫なしで元の世界へと帰る事になったのであった。 

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