柿ピーと漫画と
大変お久しぶりです。
「なあフィールさんや」
とある日の昼下がり、いつものようにごろごろと自堕落に過ごすフィールに声をかける。
「んあ?」
スマホを片手にうつらうつらとしていたフィールが、ふらふらとこたつの上に片肘をついて座る。そんな彼女の前に、今日の議題であるとある袋をどんと置く。
「これはお前の仕業だな?」
「……イエ、ヒトチガイデス」
つつつ……と目を逸らしてそうのたまうフィール。はい犯人確定。
「お前なあ……柿ピーの柿の種だけを食べてピーナッツだけを残すのはやめろっていつも言ってるだろうが」
机の上に置かれた袋には、見事にピーナッツだけとなった悲しい柿ピー。前からちょくちょくあるのだが、如何せんフィールは偏食的なところが割とあるんだよな。
「だってさー。柿ピーのピーナッツはオマケでしょ。というかピーナッツの入ってないやつ買ってきてっていつも言ってるじゃんか」
こいつ……居候の分際で好き勝手言うじゃないか。
「というかそもそもウチの近くのスーパーじゃ柿の種オンリーのヤツって何故か売ってないんだよ。あきらめろ」
このまま残しておくのもなんなので、ぼりぼりとピーナッツを食べながらフィールに言い訳するが、何故俺が責められているのだろうか。
なんか最近いつもこうやってフィールの食べ残しの菓子を食べている気がするな。味○のみの煮干とか、そういうしょうもないヤツ。
「というかピーナッツの何が嫌なんだよ。美味いじゃないか」
「別に嫌って訳じゃ無いんだけど……これといって美味しいとも思わないし、存在意義を感じないというか……」
お前、千葉県の人たちに怒られるぞ。
「にしても随分と余ってるな……俺もこんなに食わないし、放っておくとしけって駄目になりそうだな」
「あ、その点は問題無しだから」
ちょいちょいと出窓に向けて手招きをするフィール。今日は日当たりの良い場所でのんびりとしていたアズがふよんふよんと身体を揺らしながらこちらへとやって来る。
「おいしょ、と」
そんなアズを抱きかかえると、袋に入っていたピーナッツをザーッとアズに向けて振りかけていくフィール。
おいおい……とは思ったが、俺の思いとは裏腹にアズの体表に触れるやいなやその水色の身体に溶け込んでいくピーナッツ群。そうか、賞味期限ギリギリのお菓子がある日を境に急に無くなっていたのはこれが原因か。
「アズを残飯処理みたいに使うんじゃないよ」
「えー。アズも満足してそうだし別にいいじゃん」
「不服なの。アズもピーナッツより柿の種の方がいいの」
にゅるん、と人型に変化したアズがフィールに不平をもらす。アズの人型形態は久しぶりに見たな。
胡坐をかいた俺の膝の上に陣取ったアズはというと、まだまだ不平不満が溜まっているようで、次々にフィールに対する文句が出てくる。
「だいだいフィールはアズの事を便利に扱い過ぎなの。抱き枕にしたり、漫画を書くときの肘置きにしたり。アズはフィールのペットじゃないの」
「はい……すいません」
「それにこの間だって……」
いつになく強気なアズに圧倒されるフィール。まあこれを機に反省してくれればいいか。若干話の趣旨は変わってそうだが。
そんなこんなでアズのお説教が始まった訳だが、我が部屋の他の住人はというと、全く持っての我関せず。リアに関しては学校の友達から借りたらしい漫画を山積みにして読み漁っている。
……今時の小学生はBL○ACHとか読むのか。
どちらかというと俺の世代の漫画だと思うが。
「なあソー兄ぃ。あーしも卍解とかした方がいいかな?」
「何を言ってるんだお前は」
「いやさ、あーしも必殺技的なものが欲しいなーと思って」
必殺技、ねえ。まあ小学生は誰しも一度は考えるよな。必殺技。俺だってそこからこじらせて小説家なんてやってるわけだし。というか物語を書こうなんて人間は大概そんな感じだと思うが。
まあそんな事は置いておき、いつに無く真面目な顔で必殺技について考えるリアに一言いってやろう。
「リアよ、俺は一角さんが好きだ」
俺も好きだよ。BLE○CH。破道の九十だって空んじられるよ。
「あー、三節棍はあーしのライブラリーにはねーなぁ。つーかあーしの武器って大概が銃器なんだよなー」
まあそりゃアンドロイドって言えばそういう感じだよな。
まずは詠唱から考えるかーと一言呟くと、また漫画に没頭するリア。完成したら見せてくれ。
なんか話してたら俺も読みたくなってきたな。どうせ全巻揃ってる事だし、俺も最初から読み直してみるか。
……久しぶりに読んでみると、やっぱり面白いなこの漫画。気がついたら二十巻近く読んでしまった。一部じゃ絵つきポエムだなんて呼ばれてるみたいだが、そこがいいのだ。
すっかり日も暮れて暗くなり始めた外を見て、そろそろ夕飯を作らなくてはと重い重い腰を上げる。手の込んだものを作るような気分でもないし、余った食材で鍋にでもするかな。
とりあえず米を炊かねば、と立ち上がった俺の耳に、残り一人の呟き声が入ってくる。
「右手の丘に三人、一人アーマー割ってます。裏のケアだけしときます。W223方向から銃声。安置収縮来ます。S寄りです移動した方が丸いと思います」
ぶつぶつと呟きながら目を皿のようにしながらコントローラーを握るフェリシア。うん、こいつは平常運転だな。
やってるのは……ああ、FPSか。ボイスチャットをしてるって事は、誰かと通話してるのだろうか?
少し気になって画面を覗き込んでみる。が、どうもチャットはオフになっているようだ。じゃあこいつの呟きはなんなんだ?
「ワンダウン。右側ロー。あー、漁夫来ましたこれは無理ですねー。GG」
どうやら全滅してしまったようだ。ふう、と溜息をつきながらヘッドセットを外すフェリシア。随分長い時間やっていたからか、髪に変な癖がついてしまっている。
「なあフェリシア。なんでチャットもしてないのに喋りながらやってるんだ?」
「そんなの練習に決まってるじゃない。普段から喋っておかないとなかなか喋れないものよ」
「そういうものか」
「そういうものよ」
この魔王様は一体どこへ向かっているのだろうか。あの頃の凛とした姿はどこへやら。よれよれのTシャツに、ボサボサの髪。あっちの国民がこんな姿を見たとしたらどう思うのだろうか。
その魔王様はと言えば、P○4の電源を足で落とすと今度はスマホの方に集中し始めた。もはや王族としての気品などどこへやら。
と、そんな時、押入れの扉ががらりと開く。
「魔王様、お仕事の時間です」
「……」
現れたシルに対しても反応することなく、スマホを横持ちしたまま画面から目を離さない。あ、しれっとイヤホンをつけたな。完全に現実逃避してやがる。
「はあ、ソーイチロー様、これ持ってきますね」
「おー」
シルもそんなフェリシアには慣れたもので、首根っこを掴むとずるずると引きずって連れて行く。最近じゃよく見る光景で、フェリシアももはや抵抗はしないようだ……いや、一応足は踏ん張ってるな。
そんなかろうじての抵抗もなんのその。力強く引きずるシルに連行されていき、引き戸の奥に消えていくフェリシア。
「どなどなー」
アズ、それはやめてやれ、帰って来れないやつだからそれ。
約半年振りの投稿です。まだ待っていてくれた皆さんありがとうございます。不定期にはなりますが、投稿を再開したいと思います。