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蒼一朗のいない日

久しぶりの更新ですが、なんと主人公不在。フィール視点のお話です。

 今日は、いつもより部屋が広く感じる。ソーイチローが地元で同窓会があるとかで、明日まで留守にしているからだ。


 テレビの斜め前、押入れの正面のソーイチローの定位置には、今日はアズが鎮座している。


 それにしても、ソーイチローがいないとやる事が無い。まあ居たとしてもだらだらしているだけなんだけどさ。フェリちゃんは今日もゲームに夢中だし、リアは学校。どうせ暇なら、と原稿に手をつけてみたんだけど、これがどうも筆が乗らない。


 思えば、ソーイチローがいないのは初めてかもしれない。たまに打ち合わせとかで出かけたりする事はあるけど、基本的に家に居たがるソーイチローは用事が終わったら直ぐに帰ってくるから、こんな風に数日に渡って家を空けることはほぼ無いんだよね。


「んー、パパがいないとつまんないのー」


 こたつに肘をついてくるくると髪の毛をもてあそんでいるアズも暇そうだ。アズはソーイチローにくっついてるのが唯一の趣味みたいなところがあるからなー。


「ねえフェリちゃん。そろそろキャラ全部出た?」


「今丁度出し終わったところよ」


 先日発売された、ス○ブラの最新作。最近のフェリちゃんはこれに夢中で、早くも対戦の動画をヨーチューブにアップしているみたいだ。


「じゃあ対戦しよーよ」


「いいわよ。あ、動画にしてもいい?」


「いーよ」


 部屋の隅のゲーム箱から、わたし用のコントローラーを取り出して、ゲーム機に繋げる。一つだけあるゲー○キューブのコントローラーはソーイチロー専用なので使わない。普段は滅多に怒らないソーイチローだけど、何故か自分のコントローラーを使われると怒るんだよね。


 このオレンジのコントローラーに何か思い入れでもあるんだろうか。


「昔と比べてキャラ増えたねー。昔なんて隠しキャラ入れても十二体とかだったのに」


「あんた初代とか知らないでしょう。急に通ぶるのやめなさいよ」


 まあわたしも前作からのにわかだけどね。


 アズは基本的にゲームを自分でプレイする事は無いので、こたつに肘をついたままぼけーっと画面を見つめている。ソーイチローがプレイするときは絶対膝の間に収まってるんだけど、ゲームが好きというよりソーイチローが好きなだけだからな、この子は。










「はい下投げからの空上が繋がる!」


「フェリちゃん強くなりすぎじゃない?」


 一時間ほどプレイしたが、今の所は一勝五敗。初めてやったときは……いや、あの時も負けたんだっけ。結局アイスを持ってかれたような気がする。


 がっつり煽ってくるフェリちゃんを見ながら、この娘はいつからこんな娘になってしまったのかと思案を巡らせる。こうしてみると、動画投稿を薦めたのは失敗だったかもしれないな。まさかこんな廃ゲーマーになるとは。


「たでーまー」


 そんな事をしているうちに、リアが学校から帰って来たようだ。


 ランドセルを部屋の隅に放り投げ、素早くこたつに潜り込んでみかんに手を伸ばす様は、とても異世界から来たアンドロイドには見えないね。


「あー、あったけー。あ、届かねえ、フィー姉ぇみかん取ってくれよ」


「へいへい」


 こたつの脇に置いてあるダンボールから一つ取り出してリアに放り投げる。フェリちゃんは今撮影した動画の編集を始めたみたいだ。


 わたしもみかん食べよう。


「なあフィー姉ぇ。ソー兄ぃは?」


「朝言わなかったっけ? 同窓会で地元に帰ってるから明日までいないよ」


「あー、そんな事言ってたような気がするなー。このプリント渡したかったんだけど」


 リアが放り出したランドセルに手を伸ばす……が、あと一歩届かずに悪戦苦闘している。どうしてもこたつから出たくないみたいだ。


 あ、腕を変形させて無理やり手繰り寄せた。そこまで出たくないのか。まあ気持ちは分からなくもないけども。


「なになに……授業参観のお知らせ?」


「そうそう。博士たちは帰ってこねーし。ソー兄ぃ来てくんねーかなーって」


 日程は……来週か。ずいぶん急な話だね。こういうのって一ヶ月くらい前には告知するんじゃ……ああ、なるほど。


 プリントに書かれたことを読んでみるに、これは大分前に配られたプリントだね。よく見てみればこのプリントくしゃくしゃだし。大方机の奥に丸まってたんだろう。


「まあ別にどっちでもいいんだけどなー」


 いつもと同じ、ぶっきらぼうな口調だけど、出来れば来て欲しいっていう魂胆が丸見えだ。きっとこのプリントもソーイチローにみせるかどうか悩んでたんだろう。変なところで気を使うよね、リアって。


「多分来てくれるんじゃないかな。どうせ暇だし」


 ソーイチローはああ見えて仕事はすぐに済ませるタイプだから、締め切りに追われている姿も見たことないし、いつも暇をもてあましているから。


「そういやフィー姉ぇ。夜メシとかってどうすんだ?」


「あ、そうだ。ソーイチローがなんかお金と一緒にメモを置いてったんだった」


 すっかり忘れてたそれを、部屋の隅から引っ張り出す。一万円札が一枚に、メモ書きが一枚。


 こたつの上に置いたそれを、リアが手にとって読み上げる。


「何々……『俺が居ない間、家の事はよろしく。冷蔵庫は空なので、出前を取るなりなんなりしてくれ。暇なら風呂掃除と溜まった洗濯物よろしく』だってさ」


「えー、それは面倒だなー」


「何言ってんだ。一応あーしらは居候なんだからそんぐらいはやんなきゃ駄目だろ」


 正論だね。


「じゃあリアは洗濯物よろしく。わたしは風呂掃除するから」


「あいよ。フェリ姉ぇは……放っておくか。アズ、洗濯手伝ってくれ」


「はいなー」


  








「にしても、ソー兄ぃが居ないってのはアレだな。なんか調子狂うな」


 ソーイチローの指令をしっかりこなし、出前で取ったピザを食べている時。ふっと思い出したようにリアがそう溢した。


「確かに、なんか落ち着かないわよね」


「フェリちゃんが会話に参加するなんて珍しいね」


 普段ならご飯中もゲームで、碌に人の話も聞いていないフェリちゃんも珍しく会話に参加している。


「やっぱしさ、あーしらってこの世界にとっちゃ異物なわけじゃん? 本来ならこの世界には存在しないわけでさ。ソー兄ぃがいるからこうして違和感なく生活できてるけど」


「なんか急に真面目な話になったね」


「あーしだってたまには真面目な事を考えたりもするさ」


 今日はソーイチローがいないので、リアの髪もストレートのまま。その髪をくりくりと落ち着かなさげにいじりながらそう語るリア。


 そんなリアを見ていて、ふと前から聞いてみたかったことを思い出した。


「ねえ、リアってさ、ソーイチローの事好きなの?」


「ぶっ! 急に何を言い出すんだよ!」


「いやなんとなく。どーなのかなーって」


 吹き出したコーラを拭きながら考え込むリア。フェリちゃんも興味津々だ。アズは眠くなったのかちょっと前に寝ちゃったけど。


「いや、なんつーか。ソー兄ぃはそーいうのじゃなくて……まあ好きっちゃ好きだけど、あーしは人間じゃねーし」


「ソーイチローはそういうの気にしないと思うけど」


「いやまあそうなんだけどさ。あーしにとってソー兄ぃは、居場所っていうかさ」


 あー。リアの言いたい事は凄くよく分かる。多分フェリちゃんもそう。


 ソーイチローの周りにいる子たちは、基本的には他に居場所のない子が多い。元の世界から逃げてきたリアはもちろんそうで、わたしもあっちの世界じゃ基本的には一人ぼっちだった。


 フェリちゃんも、魔王っていう立場上対等に付き合える友達とかはいないし。


「ソー兄ぃはさ、異世界人とか、人種とか、そーいうの全然気にしないじゃんか。あーしらがどんな非常識な事をしても『すげーな』くらいしか言わねーし」


「もうちょっと驚いてもいいと思うけどね」


 わたしが天使だって最初に教えたときも『へーすげーな。アイス食うか?』みたいな反応だったし。


「だからさ、ソー兄ぃはきっとあーしがどこで何をしてて、どんな存在でもきっとここに帰ってきたらおかえりって言ってくれると思うんだ。だからソー兄ぃと一緒にいて安心できるし、一緒にいたいと思う。なんつーか、でっかい樹みたいな感じかな」


 どこにいても帰る目印になって、いつでも寄りかかれるでっかい樹。リアはソーイチローの事をそう表現した。


「何それわかりみが深い」


 どこで覚えてきたのか、フェリちゃんがよく分からない同意をしているが、わたしも同感だ。


「あーやめやめ、なんかハズイわ! ス○ブラしよーぜ!」


 髪の色みたいに顔を真っ赤にしたリアが、ゲーム機の電源を入れる。


 なんかソーイチローに会いたくなってきたな。早く帰ってこないかなあ。  

お久しぶりです。少し多忙で更新が遅くなりました。十二月いっぱいは少し頻度が遅くなりそうです。


次回は授業参観の予定。リアの小学校に突入です。


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