11月26日 いい風呂の日
昨日がいい風呂の日だったということで、予定を変更してお風呂回をお届けします。
今日は十一月二十六日。ごろあわせで「いい風呂の日」だそうだ。ちなみにWHITE AL○UMの緒○理奈の誕生日でもある。だからなんだという話だが。いいじゃないか、好きなんだよ、CV水○奈々さんだぞ。
話はそれたが、どうせならば今日は風呂にでも行こうか、という話だ。最近寒くなってきたしな。
「えー、外出るの面倒じゃない?」
と、思ったのだが。案の定出不精の六畳間の住人たちからは不評のようだ。フェリシアに関しては返事すらしない。
「いいんじゃねーの。たまには外風呂ってのも。なんかそういう記念日みたいなのに踊らされてるみたいで癪だけどなー」
その気持ちは分からないではないが、こういうのはとりあえず素直に乗っかっておくのが人生を楽しく過ごすコツだと俺は思うぞ。とまあ年長者面しておく事にしよう。
「その理論でいくと十一月がめちゃくちゃイベントだらけにならねーか?」
「まあ確かに」
十一月はいい○○の日ばっかりだからな。毎日がイベントだらけだ。イベント好きの大学生とかは喜んでそうだな。
「まあフィールとフェリシアは放っておいて、俺たちだけで行くか」
こたつから顔だけだしてくたっとしているフィールと、スマホの画面に夢中のフェリシアを置いて、俺とリアだけで風呂に行くとするか。
「アズも行くのー!」
こたつの上でこれまたくたっとしていたアズが、人型に変身してしゅたっと降り立つ。フィールの頭の上に。
「ぐぇっ!」
ぐきん、という人体から鳴ってはいけないような音がしたような気がするが、まあ大丈夫だろう。
「フィール。そんな所で寝てると危ないのー。世は戦国乱世、常在戦場なのー」
相変わらずアズはフィールに対してあたりが強いな。何言ってるかよく分からないし。
リアがこちらの部屋で生活しているせいで、誰もいないリアたちの部屋は、もはや俺たちの衣裳部屋と化している。
そんなリアたちの家からコートを引っ張り出して着こんで外に出る。
「ふぃー、寒ぃーな」
濃紺のダッフルコートを着たリアが、腕を押さえて身を震わせる。
「そういや博士たちって今どこにいるんだ?」
「なんかこないだエジプトに居るってメールが来てたぜ。なんか新しい遺跡を発掘したからしばらくあっちに居るって」
「すげーな」
リアの保護者であるホーキンス博士と助手のエルキュールは、どうやら優秀な学者のようで、世界を渡り歩いては何やらいろいろとやっているらしい。
まあリアの居た世界は随分と技術の進んだ世界だったようだし、その世界の技術を使って様々な分野で活躍しているようだ。
「あ、ヘルフリッツなのー」
アズの声に反応して振り向いてみれば、アニメのトートバッグを抱えたヘルフリッツが古びた階段を下りてくるのが見える。
あいつがこんな時間に外出なんて珍しいな。
「おお! ソーイチロー殿ではございませんか。こんな時間に奇遇ですな」
「まあちょっと銭湯に行こうと思ってな」
「おお、これまた奇遇。拙者も丁度銭湯へと赴こうと思っていた所ですぞ」
なんだ、皆考える事は一緒だな。
「そういえばソーイチロー殿。そちらの可愛らしい幼女はどなたですかな? 何やらとてつもない量の魔力を感じるのですが」
ああ、そういやヘルフリッツは人間形態のアズと会うのは初めてだったか。飲み会の時も丁度アズはスライム形態で退避してたからな。
ヘルフリッツにアズの事を説明し、アズに自己紹介をさせる。
「ふむ、なるほど。人型になったスライム、と。これは中々興味深いですな。拙者も長いこと魔物の生態は見てきましたが、このようなスライムを見たのは初めてですぞ」
そういやヘルフリッツは異世界への転移魔法を作った張本人で、魔界屈指の研究者だったか。普段の振る舞いを見ているとそんな事忘れてしまうけど、こいつも結構凄いヤツなんだよな。
「これでソーイチロー殿の主人公属性がまた一つ増えましたな。昨今の主人公の相方はスライムと相場が決まっていますからな。まあスライムが主人公というのもありますが……」
「なんの話だよ」
そんな雑談をしているうちに、近くの銭湯までたどり着く。歩いて数分の距離に銭湯があるってのはいい事だよな。まあ田舎って事なんだけど。
「いらっしゃい。ああ、あんたかい。今日も一人も客は居ないからゆっくりしていきな」
相変わらず置物のように番台に佇むババアに挨拶し、リアとアズと分かれて暖簾をくぐる。ここの銭湯で他の客を見たことがほとんど無いんだが、大丈夫なのだろうか。
アズはこっちに来ようとしてたが、どうにかリアに押し付けた。ぱっと見小学校低学年だが、まあアウトだろう。
「ソーイチロー殿は相変わらずガリガリですなwwwもっと肉をつけた方が良いですぞwww」
「お前は太りすぎだろうが」
メタボ以外の何モノでも無いヘルフリッツの突き出た腹を視界に入れながら服を脱ぐ。まあ確かにちょっと情けない身体であることは否定しないが。
前回来た時と何一つ変わらない古風な浴室に入り、ざざっと身体を洗う。
「なんかOLみたいなシャンプーとリンス使ってるのな、お前」
「お、気づきましたかソーイチロー殿。これは声優の……」
「ああ、なんとなく言いたい事は分かったからもういい」
どうせ声優の使ってるシャンプーとかだろう。なんか最近じゃ推しの声優やアイドルが使ってるシャンプーやらリンスを飲むやつすらいるらしいからな。
「素直にヒかれるとキツイものがありますな。ネタのつもりだったのですが」
「分かりづらいわ」
「ちなみにシャンプーを飲むことを飲シャンといいまして、最近コミケで飲シャン本なるものが頒布されてましたな」
「どうしたらそんな業を背負って生まれてこれるんだ」
愛か、愛のなせるワザなのか。
「そういえばソーイチロー殿」
「なんだ?」
「ヒロインと銭湯に来た時のお約束として、石鹸を壁の向こうに投げ渡す、というのがありますな」
「ああ、それなら前回来た時やったわ」
「なんと。流石はハーレムの主、きちんと踏むべきイベントは踏んできてるという訳ですな」
ハーレムとか言うな。ラノベ脳か。
「ああー、やっぱ風呂はいいな。凝り固まった腰がほぐれていく」
「同感ですな」
家の風呂じゃ足を伸ばして入れないからな。たまにはこうして身体をほぐさないと、おちおち仕事も出来ないくらい腰が痛くなる。
「そういえば、今期の――」
「ああ、すごい作画だったな」
しばし、ヘルフリッツとアニメ談義をしながら銭湯を楽しむ。たまにはこういう男だけの空間というのも気を使わなくていいかも知れない。
「あーすまんソー兄ぃ、アズがそっち行ったー」
突然リアの声が聞こえてきたが……そっち行ったってどっから来るんだ?
「ここなのー!」
どこから来るのかと思えば、風呂の中で女湯と繋がってるのか。足で探ってみれば、直径三十センチくらいの穴が開いているのが分かった。
ばしゃん、と水しぶきを上げながら現れたアズ。当然ながら素っ裸だ。まあいまさらか。
気になってヘルフリッツの方へ視線を向けてみれば、何やら抗議の目を向けてくる。
「ソーイチロー殿。アニオタが皆ロリコンというのは偏見ですぞ」
「ああ、すまん。別にそんなつもりじゃ無かったんだが」
「それに拙者、二次元専門ですので」
ああ、さいで。
まあ来てしまったもんは仕方が無いし、このままでいいか。
風呂から上がり、いつもどおりババアから飲み物を買う。今日は俺はコーヒー牛乳にしてみた。リアとアズは普通の牛乳だ。
「ああー、この一杯が銭湯の楽しみの一つですなぁ」
ヘルフリッツはといえば、ちゃっかり缶ビールを飲んでいる。そういやこいつ結構な酒好きだったな。
「ソー兄ぃ髪やってー」
「パパー」
洗面台でリアとアズが呼んでいる。一応こっちは男湯の更衣室なんだけど……まあ客もいないしババアも何も言ってこないので別にいいか。
上半身裸のまま二人の下へ向かおうとしたが、ババアがこちらを凝視していたのでTシャツを着ることにする。あ、今舌打ちしやがった。
まずはリアの髪を乾かし、いつものツインテールではなく首元で軽く二つにまとめてやる。これから帰って寝るだけだし、これでいいだろう。
アズの背中にかかる程度の長さの髪は、綺麗に梳いて首の下辺りで一まとめにする。意外と癖っ毛だから、しっかり梳いてやらないと直ぐに跳ねるんだよな。
「手馴れたもんですな」
ジャ○プを片手にヘルフリッツが話しかけてくる。
「まあな」
二人とも地がいいから、どんな髪型でもしっかり決まるんだけどな。
二人の髪も終わったので、荷物をまとめて銭湯を後にする。一足先にヘルフリッツは外に出て煙草を吸っていたようだ。
空には満点の星が広がっている。こうしてみるとやっぱ田舎な感じがするな。一応東京都なんだけどな、ここ。
なんかヘルフリッツを見てたら俺も吸いたくなってきたな。
「なあ、一本貰っていいか?」
「別にかまいませんぞ。ソーイチロー殿も煙草を嗜むのですな」
「まあ、昔ちょっとな。今はほとんど吸わないけど」
ヘルフリッツがポケットから取り出した、白地に赤い丸の箱から一本取り出し、ライターも借りて火をつける。
「あ、ソー兄ぃ煙草吸ってやんの」
「たまにはな」
意外にも、リアとアズは煙草に嫌悪感は抱かないタイプのようで、そのまま喫煙所で少し駄弁る。
空には満点の星空。やっぱり田舎なんだよなあ。一応東京都なんだけどな、ここ。
しばし空を眺めながら、久しぶりの煙草を楽しむ。リアとアズはコンビニにアイスを買いに行った。この寒いのによく食べる。
ヘルフリッツと二人で無言の時間が続く。煙草の煙がぷかりと浮かんでは宙に消える。
「月が綺麗ですな」
「お前それ分かってて言ってるだろ」
昨日投稿しようと思ってたのですが間に合わず、一日遅れのお風呂回です。
お風呂回といいつつおっさんと主人公が駄弁るだけの回。誰得といわれても仕方ないですね。




