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シスターズ編最終話 たびのおわり

本日二話目の投稿です。

「それじゃー兄ちゃん、またなー」


「お兄様、行って参ります」


 なんだかんだと色々あった異世界転移ももう終わりだ。凛は最後までごねていたが、最終的には折れて次の世界へと向かう事になった。


 とはいえ未だにちょっと不機嫌ではあるのだが。


「次で最後ですからね。次の世界を救ったら絶対日本に帰りますから」


 凛よ、それは大きなフラグになりかねないぞ。俺の数少ない友人は、この案件が終わったら休みを取るといって帰ってこなかったぞ。会社から。


「蒼一朗君。いろいろと世話になったね」


「山縣さんも頑張って下さいね」


 先ほどまでのくたびれた表情とはうって変わって、何やらわくわく感の隠しきれていない山縣さん。まるでクリスマスにサンタを待つ子供のようだ。


 女神に案内され、新たな異世界へと向かう面々。凛たちと山縣さんはそれぞれ別の世界に向かうようだ。


 巻き込まれた形になったヤスヒロも「まあそこそこ楽しめたんで。まあ帰ったら不在にしてたツケが回ってきそうっすけど……」とぼやきながらも帰っていった。


 この世界で知り合ったやつらも、各々自分の住処へと帰るようだ。おばちゃんたちは森へ、竜之介と竜姫は家出中だったらしいルージュを連れて実家へ戻るようだ。ルージュは最後までごねていたが、凛の一声で従っていた。


 王様たちへは女神のほうから神託という形で報告が行くようだ。


「じゃあわたしたちも帰ろっか」


 残されたのは俺とフィール、アズの三人。精霊たちはその辺をうろついているが、彼らは決まった住処を持たないので放っておいて大丈夫なようだ。


「じゃあ門を開くよー」


 フィールが力を使って、俺たちの部屋へと繋がる門を開く。疲れたのか、すっかり眠りこけてしまったアズを抱えて門をくぐる。


 色々とあったが、良い経験になったな。魔法とかドラゴンとかを間近で見ることが出来たのは今後の作家人生にとって大きなプラスになる……と思いたいな。








「ただいま」


「たでーまー」


 若干トラウマになりつつある暗闇を通り抜け、俺の部屋へと戻ってきた。たかだか十日程度だったが、随分と懐かしく感じるな。


 引き戸を開ければ、何も変わらない我が家……が……


「なんじゃこら」


 家の様子は何も変わっていない。俺たちが出発した時のままだ。ただ……


「目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……目標をセンターに入れてスイッチ……」


 まず目に付くのが、画面を前にぶつぶつと呟くフェリシアの姿。その姿だけでも不気味なのだが、さらに怖いのは画面には何も映っていないことだ。彼女は何と戦っているのだろうか。


 そして部屋の奥へと目を向けてみれば、リアが力なく横たわっているのが見えた。ぱっと見死体だが、アンドロイドなので死んではいないはずだが。


 おそるおそる近づいてその腕に触れてみる。


『致命的なエネルギー不足により、メモリ保護の為休眠モードに移行しています。再起動には十分なエネルギーが必要となります』


 八月末に聞いたような自動音声が流れる。エネルギー不足だって?


「ねえソーイチロー。これ」


 フィールの声に引かれ、ちゃぶ台の上を見てみると、数枚の硬貨が転がっている。その金額八円。どうやら置いていった金をほぼ使い切ったようだ。


「なあ、確か三万は置いていったはずだよな?」


「そうだったはず……あ」


 フィールが部屋のゴミ箱から発掘したのは、宅配寿司の使い捨て容器だ。しかもあの金の縁のヤツって近所のすし屋で一番高いやつじゃないか。


「多分すぐ帰ってくると思って無計画に使っちゃったんじゃないかな」


「さすがに三万もありゃ大丈夫だと思って途中で帰ってこなかったんだが……リアはともかくフェリシアがそこまで無計画だとは……というか、魔界に帰ればよかったんじゃないのか?」


「確かに、何でだろーね」


「そうでなくてもヘルフリッツとかに助けを求めりゃいいんじゃ……っと来客か?」


 リンゴーンと古びたチャイムが、この部屋への来客を告げる。誰だこんな時に。


 若干イラつきながら、乱暴にドアを開ける。開いたドアの先には、久しぶりに見るヘルフリッツのオタク顔があった。


「おお、ソーイチロー氏。お久しぶりですぞ。ちょっと聖地巡礼の旅に出ていたもので土産を持ってきたのですぞ。ほら、ガ○パンクッキーとワキガの飴ちゃんですぞwww」


 ガ○パン、Wake Up G○rls!となると、北関東から東北の方を旅してきたって事か。それであの二人は助けを求められなかったわけか。


 あとどうでもいいけどWake Up G○rls!をワキガって訳すのやめろ。ぶっ飛ばすぞ。


「それでは小生溜まっていたクエスト消化がありますので、それではww」


 俺に土産物を押し付けるだけ押し付け、足早に階段を上がっていったヘルフリッツを見送り、部屋へと戻る。


 相変わらずぶつぶつと独り言を呟くフェリシアと、休眠中のリアを横目に、頭の上で寝ているアズを出窓に置く。


「とりあえず、飯の材料を買いに行かないとな」


 飯、という言葉に反応したフェリシアがぐりん、とホラー映画の様にこちらへ振り向く。血走った目が怖い上に無言でこちらを見つめている。超怖いから向こうを向いていて欲しい。







「……ふう、死ぬかと思ったわ」


「生きてるってすげー事だぜ」


 大食いファイターもかくや、という勢いで俺がいつもの倍以上の量で作った夕食をものの数分で完食した二人が、腹をさすりながら呟く。


 エネルギーがないと動かない、と自動音声で告げたリアだが、飯の匂いに反応して自分から起動した。一体なんだったんだよ休眠モードとやらは。


「やっぱし計画性ってのは大事だって身に染みたぜ」


「というか何であれだけあった金を使い切ってるんだよ」


「若気の至りだな」


「なんじゃそりゃ」


 綺麗に食べつくされた食器類を片していると、充電していたスマホの画面がつく。


「んげ」


 画面には、担当編集さんからのメールの通知がずらりと並んでいる。おかしい、ちょっと旅行に出るとは伝えていたはずだし、今回の締め切り分の原稿は上がっている筈だが……


 画面に収まりきっていないその通知を、古い順にチェックしていく。


『お疲れ様です。一つ報告があります。コミカライズが決定しました。その事で打ち合わせがしたいので連絡下さい』


『旅行中で申し訳ないのですが、早めに連絡いただけると助かります』


『電話でいいので出てください』


『おい』


『電話でろ』


 ……ヤバイ。ヤバイヤバイ。これマジで怒っている時のヤツだ。どうしよう、携帯を落としていた事にしようか。いや、そんな嘘は直ぐにバレる。


 かといって異世界に行ってましたーなんて言おうモノなら処刑されることは間違いない。あの編集さんは怖いのだ。


 ……とにかく、まずは電話だ。開口一番謝ろう。


 恐る恐るスマホの電話帳から、編集さんの名前を押し、電話をかける。コールが鳴るたびに、処刑台を一歩づつ上っていく幻影が見える。


 丁度三コールでコールが終わる。


「あの……」


「明日、午後二時、いつもの場所で」


 それだけ言うと、無慈悲にも切れる電話。どうやら明日が俺の命日になりそうだ。


「どうしたのソーイチロー」


「異世界に行きたい」


「何言ってんの。今帰ってきたばっかじゃん」


 人生ってヤツは、上手く行かない事ばかりだ。まあ今回は自分が悪いんだけど。


 いつもどおり食後のゲームを始めたフェリシアと、横から茶々を入れるリアを見ながら、日本に帰ってきたことを実感しつつも、何故かあの異世界が懐かしく感じるのであった。



これにて、シスターズ編終幕です! 結局六畳間の住人は増えませんでした。とはいえちょくちょく顔を出すキャラもいそうですが。


次回からまたいつもどおりの日常に戻ります。


冬が近づき、寒くなってきました。六畳間でもそろそろ暖房器具を出すようです。


次回「六畳間とこたつとホラーゲーム」


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