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シスターズ編15 おじさんのリスタートおまけつき

二話連続投稿、第一弾です。

 神様というのが意外と俗っぽいというのはアルトの件で分かってはいたが、アルトの場合は少なくとも神っぽい威厳はあったような気がする。


 それに比べてこちらの女神様は、腰は低いし見た目は野暮ったいし、神様だってのは言われてみなくちゃ気づけないくらいだ。


「ええと、一先ず皆さんお疲れ様でした。凛さんとアリスさんはこれにてこちらの世界でのお役目は終了となります」


「それならそろそろ日本に帰りたいのだけれど。それは構わないのかしら」


「いえ、そのですね……」


「何? まだ人員が足りていないとでも言うつもり?」


「ええ、はい。すいません。そのとおりでして……」


 大げさに、嫌みったらしく溜息をついてみせる凛と、やたら恐縮そうに身を縮ませる女神。どうやらこの二人の力関係はこういう感じらしいな。


「まあまあ凛、別にいいじゃねえか。だってアタシたち今回ほとんどなんもしてねえじゃん。このままじゃ諸葛亮だしよ」


「消化不良って言いたいのかしら。わざとやってるならアリスはラッパーになるべきね」


 アリスの言葉選びの間違え方に関してはもはや異次元だからな。あ、このやり取り上手い事捻れば小説内で使えそうだな。メモっておこう。


「それに追加人員ならそこに丁度いいのがいるじゃない」


 指をさした先には、ようやく意識を取り戻し力なく花壇に腰掛けている山縣さんだ。


「元邪神である所のあのおじさんをこの世界に置いておく訳にはいかないでしょう。で! あれば私たちの身代……代打として異世界転移してもらえばいいのでは?」


 こいつ今身代わりって言おうとしたな。言い換えてもあんまし変わってないけど。


「いえ、あの方にはもちろん交渉はしますが、それでも人員不足には変わりませんが」


 頑張って理論武装したみたいだけど、ばっさり切り捨てられたな。


「そもそも何で二人は異世界で勇者なんてやってるんだっけ?」


 前々から気になってはいた事を凛にぶつけてみる。


「そりゃー兄「アリス! シャラップ!」むぐっ」


 アリスが答えてくれようとしたが、凛に口を押さえつけられてしまった。何か聞かれると不都合な事でもあるのだろうか。


「私たちは、純粋な善意により勇者をやっています」


 無表情、かつ棒読みの凛の説明。なんか胡散臭いネット広告みたいな文面だな。


 何やらごまかしたみたいだけど、その言葉でもって女神に説き伏せられた凛は、またしても異世界へ向かう事になってしまったようだ。まあ無事が確認できただけでもよしとしよう。


 その気になればいつでも会えるしな。







「という訳で、またしばらく妹さん達をお借りする事になりますが、よろしいでしょうか?」


 いまだぶつくさと文句を言っている凛を放っぽり出し、何故か俺に許可を求めてくる女神。


「……ん? 別に俺の許可なんて必要ないんじゃないか? あいつらが納得してるならそれで十分だろ」


「いえ、上司のほうから蒼一朗様に対しては最大限の敬意を持って接し、絶対に機嫌を損ねる事がないようにと通達が来ていますので」


 なんじゃそりゃ。いつから俺は神々の間ですら名が通るようになったんだ?


「そりゃそうでしょ。わたしたちの世界だって、この世界だって、ちょっと前に救った世界だってもはや蒼一朗の支配下みたいなもんなんだから」


「いやいや、そんな事ないだろ……無いよな?」


「いやあるでしょ。この世界なんて今ここに居るだけの戦力で十分世界を支配できるし、わたしたちの世界だって人界、天界、魔界のトップがあの部屋にいるんだよ? というかあの部屋に集まってる戦力だけで見ても十分他の世界から見たら脅威だし」


 俺が何も考えずにあの部屋でぐだぐだと過ごしている間にそんな事になっていたのか。


「あと、あの冒険者たちの世界あったじゃん? あの世界だとわたしとフェリちゃん、ソーイチローは最高神として祭られてるらしいよ」


 しかも神様になってたらしい。


「加えて、蒼一朗様は特異点として登録されていますので」


「なんじゃその特異点って。F○Oかよ」


「機密事項です」


 そのセリフは未来人専用だ。


 なんか俺の知らないところで話がどんどん大きくなってきている気がする。俺はだらだらと過ごしていたいだけなのに。


「よく分からんが、まあ特に俺が何かしなきゃいけないわけじゃないのなら別にいいか」


「話が面倒になると直ぐ放り出すソーイチローのそういうとこ、わたしは嫌いじゃないけどもうちょっと考えた方がいいと思うよ」


 それこそ神々の次元の話なんて考えたって無駄だろう。






「あとは何だっけ? ああ、山縣さんの処遇か」


「あ、そろそろ僕の話?」


 先ほどまで完全に蚊帳の外だった山縣さんは、気がつけば花壇に腰掛けてスマホをいじっていた。何をやってるのかと覗き込んでみれば、スロットアプリだ。しかもま○マギのスロットのシュミレーター。何やってんだこの人。


 おいしょっと、とおじさん臭い掛け声で立ち上がり、ズボンについた汚れを叩き落とす姿からは、邪神っぽさは全く感じない。


「ええ、あなたには異世界を救うための勇者として働いて頂きたいと思っているのですが」


「いいですよ」


 随分と軽いな。まあ他に選択肢が無さそうってのもあるんだろうけど。


「一応僕にも邪神の力ってのが残ってるんでしょ? って事はチートを持って異世界転移って事だよね。僕もオタクの端くれだからね、ちょっと夢だったんだよ」


 なんか不安だなあこれ。何となく不動産が潰れた原因も予想できてしまうな。人の事は言えないが、もうちょっと深く考えた方がいいと思う。


「なにか不安そうな顔ね」


「まあな」


 そんな俺の心情を読み取ったのか、胸ポケットで休んでいたルミエーラが飛び出してきた。


「なら私もついていくわ。それなら大丈夫でしょう?」


「たしかにそれなら安心だが……いいのか? 精霊王が自分の世界を離れても」


「それなら……じゃあそこの精霊。アナタが今日から光の精霊王よ」


 あたりにたむろっていた精霊を一人呼び出すと、その場で精霊王に任命してしまった。そんなんでいいのか?


「丁度光の精霊がいて助かったわ」


 使命された方の精霊はといえば、ルミエーラから力を移譲されたのだろうか。今まで仄かだった羽根の輝きが急激にその光を増している。


 当人も驚いているのか。わたわた、きょろきょろと辺りを見渡すばかりだ。


「ねえ、本当にいいの? てっきりソーイチローについてくると思ってたんだけど」


 そもそも自分の世界を離れる選択に意外性はないのか。異世界のやつの考える事は分からん。


 フィールのそんな疑問に対して、ルミエーラは飄々と答える。


「もちろんずっとあの男について回る気は無いわよ。しばらく様子を見て大丈夫そうならアナタの下に行くわ」


 くるくると飛び回ると、俺の顔の目の前で制止するルミエーラ。差し出された右手から光が放たれ、俺の額に当たる。じんわりと暖かい、気がする。


「これでどこにいてもアナタの居場所が分かる。世界を跨いでもね」


 なんでここまで懐かれたのだろう。なんか特別な事をした記憶は無いんだが。


「だからじゃないの? わたしたちみたいな特異な存在ってのは普通に扱われるほうが少ないから」


「そういうもんかね」


 ルミエーラは女神の方へと飛んでいっていた。これから山縣さんの異世界転移についての話を詰めるのだろう。


 その話し合いの場に、気がつけばミナリーゼが混じっていた。


「なんだ? ミナリーゼもついていくのか」


「精霊王様が行くのであれば! と息巻いていましたよ」


 どいつもこいつも、自分の世界から飛び出す事に迷いが無いな。


「はい、それでは他にこの方についていく方はいませんかー?」


 女神が残ったやつらに声をかける。もはや居酒屋のキャッチレベルの軽さだ。


『アタシも行くわ』


 しかもそれに乗ってくるやつが居たと来たもんだ。


 というか、まさかゴーストのおばちゃんからも立候補者が出るとはな。


『アンタ本気なの?』


『意外とタイプなのよ。ああいう駄目男って』


『それにしても歳行き過ぎじゃないの?』


『男は三十後半から味が出るもんなのよ』


 もう異世界に行こうって人たちの会話じゃないな。


 そんなこんなで、山縣さんには元妖精王のルミエーラ、エルフの精霊魔術師のミナリーゼ、それからゴーストのおばちゃんが一人ついていく事になった。


「タイトルをつけるなら『元邪神のおっさん、精霊とエルフとゴーストを引き連れて異世界へ』って感じか」


「壊滅的に売れ無そうなタイトルだね」 


 確かに。需要は無いな。



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