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シスターズ編14 異世界転移の女神サマってヤツ

「もうね、なんだか色々と上手く行き過ぎて怖くなってきたよ」


 ミナリーゼの衝撃のカミングアウトの後、花壇の縁に腰掛けたフィールがぼやく。


「まあお兄様が来た以上、こうなるのは分かってましたけどね」


 義妹よ、その信頼は兄として喜んで良いのか?


「えっと、ルミエーラが精霊王なのはいいとして、どうやって山縣さんを邪神で無くすんだ?」


「あのスライムの子の力で邪神の力を分離させるわ。その後私がその力を浄化して、再びその男の中に戻す。これだけよ」


 そんな簡単な感じでいいのか。


「言うのは簡単だけどね。ちなみにアズだけでやろうとすると分離した邪神の力に飲み込まれるね」


「我が威光にひれ伏すがいいのー!」


「お前今の話ろくに聞いてなかっただろ」


 どこからともなく飛び込んできたアズが何やら香ばしいポーズをとっている。ともかくそこは花壇の中だから降りような。ほら、綺麗な花壇がくしゃっとしちまってる。


「ちゃんと聞いてたの。アズがそこのしょっぱいおっさんを丸呑みにすればいいの?」


 しょっぱい言うな。歳を取ってくると子供の何気ない一言でえげつないダメージを受けたりするんだから。ほら、山縣さんが胸を抑えてうずくまってるし。


「まあそうなんだけど、やってくれるか?」


 俺の質問に、腕を組んで難しい顔をするアズ。


「うーん。おじさんを飲み込むのは絵面的にあまりよろしくないけど、ここはパパの好感度アップの為に嫌な顔一つせずやってあげるの!」


「うん、その一言が無ければ好感度特大アップだったんだけどな。というかアズ、やたら俺の好感度を気にするけど、何か欲しいものでもあるのか?」


 欲しいなら普通に欲しいって言ってくれれば手に入るものなら買うけどな。


 というかどうしたアズ、急に黙り込んで。


「うーん。何も思いつかないの。なんかここで面白い事の一つや二つ言えるようなお笑いのセンスはアズには無いみたいなの」


「お前は何を目指してるんだ」


「しいて言うなら、フィールの人権剥奪なの」


「ねえ、アズってばなんかわたしに対する当たり強くない?」


「人が気持ちよく出窓で寝てるのに、無理やり引っぺがして抱き枕にする人に人権なんて必要ないの」


 あー。確かにその光景はよく見るな。アズは嫌な時は二回震えるんだけど、フィールはお構いなしだからな。


「ごめんなさい」


 素直に謝ってみせるフィール。流れるような土下座だ。地面には先ほどから五体投地を続けるミナリーゼと、土下座をするフィールが並ぶ。なんだこれは。







「じゃあさっそく始めるわよ」


 山縣さんの前に並ぶのは、大きくなったルミエーラと、人型になったままのアズ。二人ともぱっと見は子供なので、疲れたおじさんと幼女が向かい合っている。日本なら事案だな。


「それじゃあスライムの子、よろしく」


「任せるのー」


 高々と上げられたアズの右手から元の姿へと変わっていく。ぐんぐんと膨張していくアズの身体が、山縣さんを覆い尽くしていく。


 アズの身体は半透明だが、完全に飲み込まれた山縣さんの姿は、アズの姿に隠れてみる事は出来ない。


「あれはアズのやさしさだよ。おじさんのスライム責めとか誰も見たくないしね」


「スライム責めとか言うんじゃないよ」


 ちょっと想像しちゃったじゃないの。


 そんな間にも、俺にはよく分からないが邪神の力の分離に成功したらしい。そして一歩前へと踏み出すルミエーラ。その両手は水の様に流れる光を湛え、背中から生える妖精の羽根も、金色の光に包まれている。


 野暮な話だが、カメラの電池が無い事が非常に悔やまれる。


『邪なる魂よ、光の加護にて正しき姿へと』


 普段の話し声とは違う、世界から直接響くようなルミエーラの言葉。浄化よりも、祝福という言葉が似合う言葉だ。


 そういったものに疎い俺ですら分かる。ルミエーラを中心に力が広がり、再び収束する。手に湛えられた光が形を変え、杯を模る。


『違えた道を、再び一つに』


 杯には黒と金の液体がどこからともなく流れ込み、交じり合っていく。混ざり、交じり、やがて杯の中身は光り輝く白金の液体であふれ出す。


 溢れた液体はアズの中へと流れ込み、やがて杯もその姿を消す。


「……ふう。久しぶりにまともに力を使ったわね」


 気がつけば、妖精サイズまで縮んだルミエーラがふらふらと俺の胸ポケットまで戻ってくる。なんかここが定位置になりつつあるな。


 未だうねうねと蠢いていたアズの方も、作業が完了したようで、ずるずると山縣さんが排出されてくる。酷い絵だな。


「そういえば、力を戻す必要ってあったのか?」


「そうしないとあのおじさんが人間の形を保てなくなるわ。もうあの人はあの力ありきで存在しているのだから」


 なるほど。


「という事は山縣さんは普通に力を持ったおじさんになったワケか」


「力を持ったおじさんは普通じゃないけどね」


 ルミエーラは突っ込みもクールだな。







「これで一先ず俺たちの旅は終わりになるのか。というかこういうのって終わったらどうなるんだ? エンドロールが流れるわけじゃ無いんだろ?」


「そうですね……いつもならそろそろ女神が現れるはずなのですが……ああ、来ましたね」


 凛が指差す方向を見てみれば、何やら地面が光輝いているのが見える。幾何学的な文字が散りばめられた、所謂魔法陣というヤツだな。


 魔法陣といえば、ファンタジー作家の誤字ベスト5に入るヤツだな。普通に打つと魔方陣って出るからな。


 その魔法陣から出てきたのは、女神……でいいのか? いかにも女神、っていう豪華なドレスの女が出てくるのかと思えば、出てきたのはリクルートスーツに身を包んだ地味な顔の女性だ。


「ああ、凛さん、アリスさんお疲れ様です。他の皆様は初めまして、私こういうものでして」


 スーツの女が手渡してきたのは、どうやら名刺のようだ。なになに?


『異世界部門 異世界転移課 課長 ミリアム』


 その場に居る皆に名刺を配って歩いているやたら腰の低い女を見ながら、ともかく凛に説明を求める。


「あの方は私たちの転移を担当している女神のミリアムさんです。どうも最近は異世界へと転移する人員が足りていないようで、課長自ら営業に回っているようです。一応そこそこ偉い女神様らしいですよ」


 なんか聞きたくない神様たちの裏事情を聞いてしまった感じだな。というかなんだ課長って。


「なあフィール。あの女神様が課長だとすると、アルトとかってのは何になるんだ?」


「あー、あの女神は企業勤めのサラリーマンで、アルトとかは自営業の社長って感じかな。神様にもいろいろあるんだよ」


 なんかいちいち例えが俗っぽいな。分かりやすくて助かるけど。


 それにしても、あのヤスヒロにすら頭を下げて回ってるヒトが神様なのか。とてもそうは見えないな。


 

シスターズ編も残すところあと二話。

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