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シスターズ編13 おじさんの異世界転移の話

「あのー、君が勇者ってやつなのかな?」


 俺たちがぐだぐだと作戦会議をしていると、気がつけば痺れを切らしたおじさんが傍まで近寄ってきていた。


「いや、勇者はこっちの二人です」


 もちろん俺は勇者なんて大仰なものではないので、凛とアリスの方を指差して説明する。というか、このおじさんが邪神なんだよな? なんか普通に話しかけてきてるんだけど。


「そっか。こんな女の子が……じゃあ君は一体何者なんだい?」


「俺はこいつらの兄です。なんか成り行きでついて来る事になって」


「成り行き……?」


 困惑するおじさんだが、こちらの事を色々と説明する前にこのおじさんの事をはっきりさせたい所だ。


「なあ、おっさんは何でこんなとこに居るんだ? おっさんが邪神なら倒さなきゃいけねーんだけど」


 ナイスだアリス。俺の聞きたかった事をよく聞いてくれた。


「おっさん……そうだよね。君たちみたいな若いコたちからしたら僕ももうおっさんか。まだ一応三十台なんだけどね……」


 マジかよ。ぱっと見た感じ四十台後半にしか見えんぞ。全体的にくたびれた感じとか、髪が薄くなりつつある感じとか。


「じゃあ僕の話を聞いてもらおうかな」


 






「まずは自己紹介をしようか。僕は山縣亮(ヤマガタリョウ)。山縣有朋の山縣に、諸葛亮孔明の亮で山縣亮だ。たぶん君たちと同じ日本出身の三十六歳」


 ぼそぼそと小さな声で話し始めたおじさんもとい山縣さん。近くに居る俺たちはいいけど、遠巻きに聞いてるミナリーゼとかヤスヒロは多分聞こえてない。


 後ろを見てみれば、既に諦めたのか精霊やゴーストのおばちゃんたちと遊び始めてるな。アズも山縣さんの話には興味が無いのかそちらに混じっている。


「東京で小さな不動産会社を経営していたんだけど、ある時を境に経営が傾いてね。まあ借金するような所までは行かなかったんだけど、会社は閉めることになって、しばらくフリーターをしてたんだ」


 三十台で不動産経営……意外とやり手なんじゃないかこの人。まあ倒産したってことはそうじゃないのか?


「ある日パチンコで大負けして、公園で安酒を飲んでる時に神様を名乗る人と出会ったんだ」


 あ、やっぱ駄目人間っぽい。


「その神様がね、異世界で転生して人生をやり直さないか、って言うんだ。まあ失うものも無かったし、その話に乗っかる事にしたんだ。最近アニメとかでよく見るから、僕にも出来るかな、と思ったんだ」


 しかも予想以上に軽い。というかもうちょっと悩んだほうがいいと思う。


「まあ結果からしたら、その神様は邪神ってやつで、僕はその邪神の身代わりとして選ばれただけだったみたいだけどね。逃げる邪神が笑いながら説明していったよ。『これからジブンじゃ絶対に勝てない勇者たちが来るみたいだから、一足先におさらばする事にしたよ。キミはジブンの代わりに邪神として討伐されてくれ』ってさ」


 自嘲するようにそう語る山縣さん。どおりで疲れた顔をしてる訳だ。自分の命を懸けた大博打がただの詐欺だった訳だからな。


「という訳だから、さっさと討伐しちゃって欲しいかな。あ、あんまり痛いのは嫌だから、さっと消し飛ばしてくれると嬉しいかな」


 いや、軽いな。今から討伐されようってやつのテンションじゃ無いぞ。


 凛の顔を見てみれば、毒気を抜かれた様な顔をしている。きっと俺も同じようになんとも言えないような表情をしている事だろう。


 まあ自己責任の面が多少強いが、山縣さんは被害者っちゃ被害者なんだよな。なんかこのまま討伐するのは気が引ける、というか後味がめちゃくちゃ悪そうだ。


「なあ、アズが竜之介と竜姫にやったみたいなのは出来ないのか?」


「あー、あれは邪神に洗脳されてただけだったからアズにも何とかできたけど……今回は邪神の力が断片的にとはいえそのまま残っちゃってるから……」


 厳しいよね、と語るフィール。ちなみにフィールならなんとか出来るんじゃ、と聞いてみたが、フィールの力と邪神の力は相性が悪く、下手すればこの世界ごと崩壊させかねないらしい。


「というかそもそも山縣さんを討伐する必要ってあるのか? ヤスヒロを召喚したり魔族とかを洗脳したのって前の邪神なんだろ? この人は今の所人畜無害じゃないか?」


「お言葉ですがお兄様。邪神はそこに或るだけで周囲へ悪影響を及ぼします。現に前の邪神が逃走したにも関わらず、魔族の方々の洗脳は解けていません。邪神の討伐は絶対条件です」


 まあそうか。難しいな。話が難しくなってきたので、アリス(アホのほう)は精霊たちの方へと遊びに行ってしまった。そもそも何であいつはこの話に参加してたんだろうか。


「あの、山縣さんはその辺どうなんですか? このまま討伐されちゃってもいいんですか?」


「うーん。そりゃ嫌だよ。日本に残してきた家族は……あ、居ないか。あとは、そう、最後のギャンブルで負けたのも心残りだし。あと異世界で物語みたいな冒険が出来ると思ってたのにこんな事になったのもアレだし……」


 なんかこの人思った以上にアレな人だな。


「でもまだ死にたくは無いかな。まだ人生やりきったって感じはしてないし」


 ふわっとしてんなぁ。


「ねえ、この人が邪神で無くなればいいのよね?」


「ん? まあそうだな」


 今まで俺の胸ポケットで大人しく話を聞いていたルミエーラが話しかけてきた。つまらなそうに話を聞いていたのに急にどうした。


「それなら私がなんとか出来るわよ。まああのスライムの子の協力が必要だけど」


「マジか」


 ふわふわと羽ばたいて俺の胸ポケットから抜け出したルミエーラが、胡坐を組んで座っていた俺の膝の上に位置を移す。


「そんなまさか! 中位精霊様とはいえ邪神の力に干渉するなんて事が!」


 いつの間に戻ってきたのか、血相を変えたミナリーゼが声を荒げる。こいつホント精霊以外の話に一切興味を持たないよな。


「……中位精霊? ああ、ヒトが定めた力の区分の事ね。それなら私は中位精霊なんかじゃ無いわ」


 ふわり、と空中に飛び上がったルミエーラが、その場でくるりと回ってみせる。その瞬間、俺の目の前が光り輝く。


 目も開けられないほどの眩い光が収まると同時に、軽い重さが俺の両膝にかかるのを感じた。目を開けてみれば、アズと同年代くらいの女の子が俺の胡坐の上に座っているではないか。


「ルミエーラ、か?」


「それ以外何があるのよ」


 ああ、このツンとした感じはルミエーラで間違いないな。


「というかミナリーゼ、お前何してんの?」


 身の前のミナリーゼはといえば、何故か目の前の床で五体投地状態だ。


「アナタ、頭が高いですわよ! その方は光の精霊王様ですわ!」


 いや、何でもいいけど顔を地面につけたまま喋るのはどうかと思うぞ。聞き取りづらいし汚いし。


「なに、ルミエーラって偉いの?」


「光の精霊の中じゃ一番偉いわね」


「敬語とか使ったほうがいいの?」


「別にいいわよいまさら」


 どうやらルミエーラは光の精霊王なるものだったらしい。マジかよ。

  

~その頃の六畳間~


フェリ「……」(虚ろな目で画面を見つめている)


リア「……」(エネルギー減少で強制スリープモード中)

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