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シスターズ編10 二人目の四天王(上)

「四天王っすか? むぐ、ほふはあんひゃり」


「いいからその口の中のものを飲み込んでから喋れ、ほら水」


「んぐ……っはあ、あざっす。僕はまだ一人しか会った事無いっすね。なんか竜人族っぽい女の子でしたよ」


 竜って事は、竜之介たちの妹かな?


「なんかすごい性格の子でしたね。その子ならこの先で待ち構えてると思いますけど」


 そういや竜之介も言ってたな、なんか凄い性格をしてるって。


 アズが取り出した菓子パンをむしゃむしゃと貪るヤスヒロからは特に有益な情報を得ることは出来なかったな。


「そういやお前は邪神に洗脳されて無いのな」


「なんか一定以上の力を持ってると洗脳が効きづらいらしいっすよ。四天王は多分全員洗脳されてないんじゃないですかね」


 なるほどね。ともかく今は前へ進むしかないな。








「待っていたぞ勇者よ。我が下へと辿り着いた事を不運と嘆くが良い」


 はい、という訳でやってきました、二人目の四天王が待つという砦に。

 

 そこに現れた四天王。聞いたところによると竜之介たちの妹らしいのだが……


「なあ、女の子なんだけど」


「だから言ったじゃないっすか。竜人族の子だって」


 ああ、そういう事だったのね。てっきり竜()族とかそういう感じだと思ってたよ。


「……ん? って事は竜之介たちも人型になれるって事か?」


『ええ、まあそういう事ですね』


『面倒だしメリットも無いからあんまりやらないけどね』


「おいお前ら、この我を無視するとは良い度胸では無いか」


 ……と言われましてもねえ。


 目の前で仁王立ちしている少女だが、その尊大な態度もそうなのだが、その姿もかなり特徴的だ。


 黒を基調としたロングコートに、指貫のグローブ。そして片目を隠す眼帯。そして極めつけは右手にぐるぐると巻かれた包帯。


 言われなくても分かる。こりゃあれだ、中二病だ。身内にも一人居るからよく分かる。


「お兄様? 何故私を見てるのですか?」


 隣に立つ凛が中学の時していた格好とそっくりだ。凛の場合はそれに加えて十字架のネックレスと、羽根をモチーフにしたイヤリングやカフスをつけていた。


 ……何度生活指導の先生に呼び出されたか。主に俺が。あの頃の凛はほとんど会話にならなかったし、アリスはアホだしな。


 俺たちの反応が芳しくなかった事に痺れを切らしたのか、四天王の少女が勝手に自己紹介を始める。


「我が名はルージュ・フォン・テネブラエ・ニーズヘッグ! 始原の竜にして悪と紅蓮を司る竜王である! 貴様らを我が漆黒の炎で浄化してやろう!」


 はい出ました中二病あるある。やたら自己紹介に要素を詰め込みすぎて分かりにくくなってるやつ。しかも突っ込みどころ満載だ。


「なあ、始原の竜とか言ってるんだけど」


『妹が始原になると自分たちは一体何になってしまうんですかね』


『私たちって竜じゃ無かったのね』


 他にも気になる点がいろいろとあるな。名前に関してもフランス語とラテン語が混ざってるし、テネブラエって確か悪じゃ無くて闇って意味だし。悪を司ってるのに浄化とか言っちゃってるし。


「ちなみにニーズヘッグって言うのは?」


『自分たちのご先祖ですね』


 始原の竜なのに名前に先祖の名前を組み込んでるのか。これもうぐだぐだだな。せめてもうちょっと設定を練ってから出直して欲しい。


「それで、どうするんですかソーさん。実力的には多分僕より弱いんで僕でもなんとか出来ると思いますけど」


「いや、多分その必要は無いと思う」


 疑問の表情を浮かべるヤスヒロであるが、俺が疑問に答えるより前に隣に立っていた凛が一歩前へと踏み出す。


「ふん、その程度の力で始原を語るとは片腹痛いわ! 我が根源の魔術で塵に返してくれよう!」


 ローブをばさりと翻し、右手を顔の前に構えて堂々と言い切った凛。そうだよな、中二病って連鎖するんだよ。


 という訳で二人目の四天王ルージュ・フォン・テネブラエ・ニーズヘッグ(笑)の相手は、同じく中二病患者である凛が相手をする事になった。これはこれで面白くなるかもしれないな。







「さあ始まりました奇跡の中二病決戦。始原の竜ルージュに対するは、根源の魔女凛。実況は私、オークのヤスヒロがお送りします。解説には中二病評論家のソーイチローさんにお越し頂きました。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 急遽作成した実況席に座り、相対する二人を見渡す俺とヤスヒロ。


「そしてゲストには、ルージュさんのお兄さん、竜之介さんにお越しいただいています。よろしくお願いします」


「よろしくお願い致します」


 俺の隣には、人化した竜之介が座る。人化した竜之介は、赤髪長身のイケメンだ。竜之介という名前をつけた事が申し訳なくなる。


 そんな俺たちが何を始めたのかといえば、中二病二人の戦いの実況中継だ。ただ見学しているのも面白くないのでこうして実況と解説をしながら見守る事にした。


 ちなみに俺たちの後ろでは、フィールが一眼レフを構えて戦いの様子を撮影している。


「それでは解説のソーイチローさん、早速ですがこの戦いの見どころを教えていただいてもよろしいですか?」


「そうですね。今は二人とも無言で向かい合っていますが、直ぐに口上合戦が始まるでしょう。ここのマウントの取り合いが勝負の鍵ですね」


「マウント、ですか」


「はい。中二病どうしの戦いは、いわばマウントの取り合い。相手の設定の矛盾を突き、より深く壮大な設定を展開していく。精神的優位をどう勝ち取るかが見所ですね」


「そうですか。おっと、先手を取るのは凛選手のようです」


 丁寧に俺らの会話を待っていた訳では無いだろうが、丁度良いタイミングで凛の口上が始まる。


 いつのまにか右目にはルージュと同じように眼帯を装備し、手に持つ杖も意匠の凝ったものに変わっている。


「ふん、この程度のひよっこに我が力を使うのは業腹だが、我が輪廻の契約者も見ている事だ。圧倒的な我が魔力によって屈服させてやろう」


「ちなみにソーイチローさん。輪廻の契約者というのは?」


「それは私のことですね。どうも彼女は輪廻転生を繰り返しているらしく、その度に巡り合う運命の相手が私、という設定らしいですね」


 そんな凛の口上に対し、これまたマントを翻し言葉を返すルージュ。そのマントの動きって毎回やらないと駄目なのだろうか。


「ふん、随分と曇った目をしているようだな。三百の年月の終わりを見届けてきた我をひよっこと弄するとは」


「これは……三百歳であるという事でしょうか。彼女はそう述べていますが、真相はどうなのでしょうか」


「いや、普通に十四歳ですね」


 ゲスト席に座る竜之介にばらされるルージュの実年齢。十四歳か、丁度中学二年生だな。


「三百程度の年月で我と同じ舞台に立とうとは……幾度の輪廻を重ね、星の始まりをこの目にした我にとっては三百年など文字通り一瞬の事よ」


「星の……始まりだと……?」


 凛が口にした壮大すぎる設定に、ルージュがたじろぐ。というかなんだ、星の始まりって。


「おっと、これは凛選手が一本取った形でしょうか」


「これは技ありですね。相手の想像を上回る壮大すぎる設定を突きつけることで、相手の次の一手を封じる事が出来ました」


 ルージュが返しの言葉を考えるよりも先に、凛が口を開き畳み掛ける。


「自己紹介が遅れたな。我が名はリンドブルム=オーヴァチュア! 開闢の魔術師である。我が魔術で、世界の始まりを見せてやろう」


「おっと、ここで凛選手の名乗り口上が入ります!」


「あえて名乗りを遅らせることによって、口上のインパクトを増幅させる。使い古されていますが良い手ですね」


 まあ口上自体は何を言ってるのか訳が分からないが。ルージュと同じように名前に多言語が混ざってるしな。ちなみにリンドブルムはドイツの伝説の竜。オーヴァチュアは多分フランス語の開闢だろう。


「これは口上合戦は凛選手の圧勝でしょうか」


「勢いがありますね」


 二人の戦いは、ここから中盤戦に突入だ。


「ねえソーイチロー。何この茶番」


 茶番って言うなよ。俺たちにもあの二人にも失礼だぞ。

  

ここまでご覧頂きありがとうございます。


思っていたより長くなってきたシスターズ編ですが、あと四話程度で終わりそうです。そこまでお付き合いいただければと。

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