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シスターズ編8 スライムとドラゴン

「できたの!」


 アズがドラゴンを取り込んでからきっかり三分後。どうやら何かが終わったらしい。


「それじゃあ早速出すのー」


 俺たちの言葉を待つことなく、両手を前に掲げるアズ。ドラゴンを取り込んだときと同じようにその腕が変形し広がっていく。


 そこからずるり、と排出された先ほどのドラゴンは、その姿を大きく変えていた。


「おおー。なんか普通のドラゴンって感じになったなー」


 アリスの言葉の通り、先ほどまで漆黒だったその体表は赤色に変わり、立ち上っていた黒い靄は消えている。


「ねえソーイチロー。ホントにアズってスライムなのかな?」


「どうしたフィール」


「いや、あのドラゴンたちってさっきまで邪神に侵食されてたワケなんだけど、今は完全にその侵食が解除されてるじゃん」


「まあ確かに、禍々しさは完全に無くなってるな」


「それってアズが邪神の瘴気を完全にあのドラゴンから引き剥がしたって事でしょ。普通のスライムに出来ることじゃ無いよね」


 最もな話ではあるな。とはいえ……


「アズが普通じゃ無いのは今更の事じゃないか?」


「それもそっか」


 と、そんな会話をしている間に、ドラゴンたちの目が覚めたようだ。地べたに放り出されていた身体を起こし、目を開く。


 バチリと大きく瞬きをして、こちらを見る二頭のドラゴン。その視線が俺の前で止まると、徐に俺の下に頭を垂れる。


「なあ、これどういう事だ?」


「取り込んでいる間にこの中のボスはパパだって調きょ……教育したの!」


 今絶対調教って言おうとしたよな。なんかもうやりたい放題だな。


『そういう訳ですボス。助けていただいた事、誠に感謝しています』


 しかも喋るのか、このドラゴン。


 目の前で頭を下げる二頭のドラゴン。うん、改めて見て見ると凄い迫力だな。とりあえず写真に収めておこう。


「この状況で写真を撮ることを思い出すソーイチローも結構おかしくなってきてるよね」


 隣でフィールがそう呟いているが、なんというかもう慣れたよ。








「まずは名前を付けるの!」


 俺の下へと戻ってきたアズが肩車を所望するので、いつものように担ぎ上げていると、いきなりそんな事を言い始めた。


「名前?」


「飼い主とペットの信頼は名づけから始まるの!」


 飼い主て。俺はドラゴンを飼う予定なんか無かったんだが。まあいいか、適当につけておこう。


「じゃあ竜之介(りゅうのすけ)竜太郎(りゅうたろう)で」


「うわー」


「ダッサ」


 俺の考えた名前に対して辛辣な反応を返すフィールとアリス。しょうが無いだろ、苦手なんだよ、名前とか考えるのって。


『あのーボス。一応私はメスなんで竜太郎は……』


 右側のドラゴンからも抗議が入った。というかメスだったのかコイツ。


「じゃあ竜姫(たつき)にしよう」


「まあそれならまだマシでしょうか」


 普段は俺のすることをだいたい肯定してくる凛でさえも、俺の名づけに対しては苦い顔をしている。


「ちなみに凛だったらどんな名前にするんだ?」


「アインとツヴァイですかね」


 はいはい中二病乙。すぐドイツ語とか出してくる。


 ともかくこの二頭のドラゴンの名前は竜之介と竜姫で決定した。これ以上は考えるのも面倒なので異論は認めません。








『ええと、ボス。改めて感謝を。邪神の侵食から助けていただいたばかりか、名まで与えていただけるとは』


 左側に座っていたドラゴン、竜之介が言葉を発する。ドラゴンから伝わってくる言葉は頭に直接話しかけてくるタイプのやつだな。念話ってやつだろうか。


「まあ別に俺は何もしてないんだけどな」


「アズの活躍は全部パパのものなのー」


 本人は満足そうなので別にいいけど。


「というかアズ、邪神の瘴気……だっけ? アレはどこへ行ったんだ?」


 アズが竜之介たちから引っぺがしたって事は、まだアズの中に残ってるって事だろうか。


「あっ! 忘れてたの!」


 俺の言葉を聞いたアズが何やらもぞもぞと動き始めると、ポケットからゴミをポイ捨てするような感覚で懐から黒い塊を取り出し、ぽいっと地面に投げ捨てる。


「うわっ」


 足元に転がってきたそれを、何を思ったのか踏み潰すアリス。踏みつけられたその塊はパリンと小気味いい音を立てて割れ、そのまま消滅する。


「何だ今の」


「邪神の瘴気をぎゅっとしてぽいしたの!」


 危なっ! そんなもの適当にポイ捨てするんじゃ無いよもう。


「瘴気ってそんな簡単に物質化するようなものじゃ無いと思うのですが……」


「深く考えるのは辞めよう。アズに関しては考えるだけ無駄だよ」


 そんな感じで瘴気も消失した事が確認され、退避していたおばちゃんたちと精霊たちが戻ってくる。


 彼らは邪神の瘴気に近づきすぎると邪神の眷族になってしまう恐れがあった為、一応遠くへ避難してもらっていた。


 真っ先に戻ってきたルミエーラが、俺の肩がアズに占領されているのを見て、どこに止まればいいのか分からずあっちへふらふらこっちへふらふらしているので、シャツの胸ポケットへ入れてやる。


「ここはここで落ち着くわね」


「さいで」


 何故コイツは毎度俺の下へと寄ってくるのだろうか。他の精霊は気まぐれにどこかしこで飛び回ってるんだけどな。


『えっとボス。お取り込み中の所申し訳ないんだけど、私たちはこのままボスについていけばいいのかしら?』


 そういや何も決めて無かったな。


「お前たちはアズたちの足としての活躍が期待されてるの!」


 そうだったのか。


 アズに促され、竜姫(たつき)の上へと上っていく俺。


「他の皆は竜之介に乗るの!」


「なあこれ落ちないか? めちゃくちゃ不安定なんだけど」


 今はなんとかバランスを取れてはいるけれど、飛び立ったら一瞬で落ちる自身があるぞ。


『風に関しては魔法で遮断するから心配しなくていいわよ』


 魔法ってのは便利だな。


 竜姫の方に乗った俺とアズ、そしてルミエーラ。竜之介の方に乗ったフィールと凛、アリス、ミナリーゼ。そして周囲を漂うゴーストのおばちゃんたちと精霊たち。


「ド、ドラゴンに乗るなんて初めてですわ……」


「兄ちゃんと同じ方が良かったぜー」


「まさかドラゴンに乗る日が来るとは……お兄様には感謝しなくてはいけませんね」


 各々思い思いの感想を口にしている。


「というか何でこっちは俺たちだけなんだ? 半々で分ければよかったんじゃないか?」


「それはパパの為なのー」


 ……? どういう事だ?


「ほら、向こうを見るの。かっこいいドラゴンに美少女が四人。とても絵になるの。シャッターチャンスなのー」


「確かに」


 アズの言うとおり、非常にファンタジックかつ素晴らしい絵が完成していた。とりあえず離陸する前に一枚撮っておこう。


『えーとボス。もう出発していいのかしら』


「ああすまん。いいぞ」


 そんな訳で、気づいたら俺たちの旅はドラゴンに乗っての空の旅になった。








「あれ、そういえばソーイチローって高い所駄目なんじゃ無かったっけ……」


「そういえば、昔から高い所はお嫌いでしたね」


 二人がその事に気がついたのは、離陸してすぐの事だった。

尺の関係上、今回はそのころの六畳間はお休みとなります。ご了承下さい。


感想や評価など貰えると嬉しいです。


次回投稿は明日の夜になります。しばらく更新頻度が上がりそうです。

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