シスターズ編7 ファンタジーといえば
ガイコツの残骸が散らばる平原を見渡しながら、俺は思った。
「もうちょっと王道ファンタジー成分が欲しい」
「それな」
隣に立つフィールも全く同意見の様で、腕組みをしながら同じ景色を見つめている。
ここまで進んでは来たが、今まで見てきたものといえば、チャラい王様に、おばちゃんゴースト、そしてガイコツを撲殺する妹勇者たち。このままでは持ってきた一眼レフの出番が全く無いぞ。
「ねえ、ふぁんたじいって何のこと?」
ルミエーラから疑問の言葉が投げかけられるも、上手く説明できない俺たち二人。困ったときの妹様ということで、説明を凛に丸投げする。
「わたしはともかく、ソーイチローは作家じゃん。しかもファンタジー書いてる。なんで説明できないのさ」
「いや、そんな事言われても。現実的じゃなければ大体ファンタジーだし」
「なんか多方面を敵に回しそうな発言だねそれ」
『あらソーイチローちゃん。面白いものがみたいのかしら?』
まあありていに言えばそういう事になるな。そもそも異世界に行こうと思った動機が小説のアイデア集めだったしな。
『それならこの先にドラゴンがいるわよ。しかも二体セットよ。これは絵になるんじゃないかしら』
「それはいいな」
ドラゴンか。ファンタジーの王道モンスターだな。しかも二体となれば、これはかなり良い戦いが期待できるだろう。
「ドラゴンかー。ちょっとは骨のあるやつだと良いんだけどなー」
アリスよ。お前はいつからそんな武闘派になったんだ。いや、昔からこんな感じだったか。よく近所のガキ大将をボコボコにしてたしな。
んで、平原を抜けてドラゴンが居るという渓谷までたどり着いた訳なんだが……
「なんか思ってたより禍々しいな」
渓谷の底に佇む二体のドラゴン。漆黒の身体からは何やら黒いもやの様なものが立ち上っている。
「あー、ありゃ邪神に侵食されてるねー」
「邪神?」
「そうそう。邪神ってのはその世界の原生生物を操ったりするわけ。邪神の瘴気に犯されると理性とかそういうのがぶっ飛んで、目に映ったものを手当たりしだい攻撃したりするようになるの」
説明ありがとうフィール。どうもこのドラゴンはバーサク状態になってるって事か。
確かに良くみてみると、どちらのドラゴンも苦しそうに唸りながら地面に這い蹲っている。本人の意思とは無関係に暴れさせられるって訳か。なんか可哀想だな。
まだこちらには気づいていないようだが、場所の関係上気づかれずに素通りという訳にもいかないが……なんかやりづらいな。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! 困ったときはお任せ、アズの登場なのー!」
おかしな口上と共に、俺の頭の上にいたはずのアズが、人間形態に変身して俺たちの目の前に降り立つ。とりあえず……
「アズ。いいから服を着なさい」
「はーいなのー」
体の中からTシャツを取り出していそいそと着込むアズ。どうでもいいが、その『圧倒的将来性』って書かれたTシャツはどうなんだ。絶対フィールの私物だろう。
「えっと、お兄様。この子は……?」
そういや凛やアリスは初めてだったな。アズが人型になるのを見るのは。
「アズはパパの娘なのー!」
「娘!?」
ああ、またなんか面倒な事になりそうな予感がするな。
ぶつぶつと独り言を言いながら自分の世界に入ってしまった凛への説明は後々するとしよう。
「というかアズ。その喋り方はどうした。そんな変な語尾だったか?」
「最近パパの周りに女の人が増えてきてアズのキャラが弱くなりそうだったから急遽変更したの! キャラ付けの一環なの!」
なんじゃそりゃ。
「ねえアズ。そういえば何で今まで出てこなかったの? この世界なら魔力に満ち溢れてるし普通に出てこれたでしょ?」
「しっくり来る語尾を考えてたのと、ここぞっていう登場シーンが無かったの! どうせなら活躍できる場面でばばっとかっこよく登場したかったの!」
まあ確かに印象的な登場だったよ。すっぽんぽんだったしな。
「ん……? というか今活躍できるって言ったよな。ということはアズがあのドラゴンをどうにかするって事か?」
「そうなの。なんとなくパパがあのドラゴンが可哀想って思ってたような気がしたの。だからアズがなんとかするの!」
なんというよく出来た娘だろうか。涙がこぼれそうだ。
「おい兄ちゃん。何泣いてんだ?」
「ソーイチロー……アズの事となると急に喜怒哀楽が制御できなくなるよね……」
うるさい。ほっとけ。
一悶着あったが、無事凛にも説明を終えることが出来た。アリスは初めから気にしていなかったようだが。
そして今、俺たちの先頭で仁王立ちしたアズが、渓谷のドラゴンを見下ろしている。
「お兄様、大丈夫なのでしょうか? 相手は邪神の眷属ですよ? それに引き換えアズさんはスライムですよね。とても太刀打ちできるとは思いませんが……」
「まあアズが大丈夫って言うんだから大丈夫だろう」
納得しきれていないような凛だが、まあ普通はそうなるわな。だってスライムだもの。
「おっ、気づかれたねー」
どこから取り出したのやら、パイプ椅子に腰掛けて見物しているフィール。お前はもうちょっと緊張感を持ったほうがいいと思うぞ。
フィールの言葉を聞くまでも無く、こちらに気づいた二体のドラゴンがこちらを睨みながら低い唸り声を上げる。
それに相対するアズはといえば、こちらは余裕の表情だ。右手をくいくいっと動かして「かかって来るがいいの」と挑発している。
その効果があったのか無かったのか。血走った目をこちらに向け、大きな咆哮とともに両翼を広げ、とてつもない勢いでこちらへと突進してくる二頭のドラゴン。
「かかったの」
「……は?」
疑問の言葉が口から漏れたのは俺だっただろうか。
俺の目に映ったのは、両手を前に突き出したアズと、その両手から広がったスライム、そしてズポっという音と共にそのスライムへと吸い込まれたドラゴンたちだ。
「ふう、いい仕事したの」
右手で汗を拭う振りをしながら、やりきった表情でこちらを振り向くアズ。
「……いやいやいや、何なんですか今のは!?」
声を上げたのは凛だ。ちなみにミナリーゼはぽかんと口を開けたまま虚空を見つめている。絶句ってこういう事だな。
「まあアズならこれくらいするでしょ。それで、この後どうするの? 吸収して終了って訳じゃ無いんでしょ?」
「フィールはせっかちなのー。だから原稿から誤植が無くならないのー」
「なっ」
図星をつかれた形になったフィール。本当の事だから言い返すことも出来ない。
「ちょっと待つの。具体的にはカップめんの待ち時間くらいなの」
三分待てと。はいはい。
その間にミナリーゼの意識をこっちに引き戻すか。
ご覧頂きありがとうございます。
~その頃の六畳間~
リア「まあ流石に直ぐ帰ってくんだろ」
フェリシア「そうね。あと二千円残ってるし大丈夫よね。そういえば、リアってアンドロイドなのに食事するのよね」
リア「まあな。一応ガソリンでも動くけどな」
フェリ「じゃあ最悪リアはガソリンでエネルギー補給ね」
リア「いや、自走しない車両や携行缶への補給は法律で禁止されてるから無理だぜ」
魔王「あ、その辺はしっかり守るのね」