シスターズ編6 姉妹と死者の平原
瘴気にまみれた、暗く深い森。それが一般的な迷いの森のイメージらしい。
『だからアタシは言ってやったのよ。オマケはさっきので終わりだってね』
「それマジでウケるなー」
そんな一般的なイメージとは裏腹に、俺たち一行はワイワイガヤガヤと、まるで行楽に向かう一団のように騒がしく森を進んでいた。
これだけの人数が集まって大騒ぎしながら進んでりゃ魔物の一つや二つ寄ってきそうなものだが、これがまたここまで一切魔物の類に遭遇していない。
「ねえソーイチロー。なんか私の思ってた異世界転移と違う」
「気にするな。俺もだ」
「私も色々と異世界を旅してきましたが、ここまで危機感の無い旅路は初めてですよ」
今の所戦いの類なんて一回も無いしな。というかアリス、お前さっきまで着てた鎧はどうした。もうその格好ほぼ普段着じゃねえか。
『あら、アナタこんな所で何してるのよ』
『イイ男の匂いがしたから来てみれば、何やら面白い事になってるじゃないの』
そして先ほどから、こんな感じでゴーストのおばちゃんは数を増やしている。今ではちょっとした師団規模のおばちゃんが集まっている。週末のコ○トコでもここまでおばちゃんが集まる事は無いぞ。
そんな感じでわいわいと進んで来た迷いの森であったが、迷うことも戦うことも無く簡単に抜ける事が出来てしまった。迷いの森とはいったい何だったのか。
「この森を抜けると、その先には死者の平原が広がっているらしいですね」
「死者の平原?」
またしても何やら物騒な単語だな。死者ってことはあれか、アンデッド的なのが出るって事か。
「アンデッドですか……あまり好き好んで戦いたいとは思えませんわね」
ミナリーゼの言葉には激しく同意だ。アンデッドってあれだろ、ゾンビとかそういうやつだろう? なんか腐ってそうだし精神衛生上あんまよろしくないな。
そんな会話をしている間に、森の終わりが見えてきた。まあなんにせよ、この暗い森を抜けるのは歓迎だな。
「おー、こりゃすげーなー」
真っ先に走り出していったアリスが、手を額に当てながら目の前に広がる光景を見渡してそんな感想を溢す。
遅れてついていった俺たちも、まったく同じような感想を漏らす。
「うわ、マジかよ」
視界が開けた先、広がった景色に移るのは、何千というガイコツが闊歩する平原だ。ともかく一つ言えるのは……
「ゾンビが居なくて良かった」
「ほんとそれですわ」
どうもこの中でグロ耐性が無いのは俺とミナリーゼだけのようで、他の面々は特に気になっていなかったようだが、俺と彼女だけはゾンビが居ないことに一安心していた。
「お兄様、一息ついているところ申し訳無いですが、気付かれました」
「え、まじかよ」
目の前を見てみれば、ガイコツたちがこちらを注視しているように見える。まあ目は無いんだけど。
というかこいつら目が無いのにどうやって物を認識しているんだろうか。
「お兄様、一度下がっていて下さい。ここは私とアリスで戦いますので」
「私は戦わなくて良いんですの?」
「……今の所私たちの見せ場がありません。このままだと何となく見せ場無しで終わりそうな気がしてきましたので、ここでできる限りお兄様に格好良い所を見せておきたいのです」
「よく分かりませんが……まあそう言うのであれば今回は見学させていただきますわ」
確かに今の所二人が勇者っぽい所は見てないが、これからいくらでも戦う場面はあると思うが。
「アリス、行きますよ」
「よっしゃ! 指が鳴るぜ!」
アリス、そこは腕が鳴るだ。指パッチンしてどうする。
死者の平原を舞台に幕をあけた二人の勇者の戦闘。騎士然としたアリスと、魔法使いの様な凛だが、その戦闘は非常に似通っていた。
「おらあ!」
腰に下げていた剣はどこへ行ったのか。どこからか取り出した巨大なハンマーを振り回し、群がるガイコツを砕いて回るアリス。
ハンマーが地面に打ち付けられる度に、震度3レベルの振動が俺たちの元まで伝わってくる。
「ってい!」
可愛らしい掛け声を上げながら、手に持った杖をガイコツに叩きつける凛。魔法はどこへ行ってしまったのだろうか。先ほどからアリスと同じように物理で殴る戦闘を続けている。
いつの間にかガイコツは数を減らし、地面にはその残骸が広がっている。
「なあ、俺の思ってる勇者とちょっと違うんだけど」
「なんかMMOのレベリングみたいだね」
やはり突き詰めていくと物理で殴るスタイルが一番良いのだろうか。
「お兄様、殲滅完了しました」
ぼけっと繰り広げられる戦闘を見ていたが、ものの十分もしないうちに千は居たであろうガイコツたちはその姿を消していた。
「なあ凛、お前魔法使いじゃなかったのか?」
「……? そうですが?」
「魔法は使わないのか?」
「使ってましたよ。身体強化と武器強化の魔法を」
なるほど。それで凛はあんな細い杖でガイコツを撲殺して、アリスはあんな巨大なハンマーを振り回してたのか。
「いえ、アリスには強化はかけていませんよ」
あ、そう。じゃあアレが素のアリスのパワーなのね。
「ねえ、アリスちゃんって腰に剣下げて無かった?」
隣にいたフィールが俺の聞きたかった事を聞いてくれた。俺の部屋に来た時からずっと下げてたよな。
「あれは飾りですね。アリスは剣の刃を立てる事が出来ないので」
飾りで剣を下げるのか。アリスの考える事はよく分からんな。
巨大ハンマーを地面に立て、何やらキメ顔で平原を見渡し仁王立ちしているアリス。余韻に浸っているのか、はたまたかっこつけてるだけなのか分からないが、さっさと戻って来い。
「というか凛も魔法使いならもっとこう派手な魔法とかあるんじゃないのか?」
「お兄様。攻撃を上げて物理で殴る。異世界転移の基本ですよ」
異世界転移ってMMOみたいな考え方でいけるんだね。あと凛、ドヤ顔するところでは無いと思うぞ。
なんかもうここから先苦労する未来が全く見えなくなってきたな。
更新頻度が落ち始めてます……頑張ります。
~そのころの魔王城~
シル「やはり繋がりませんか……」
アルト「やっほーシルヴィアちゃん」
シル「これは人界神様。どうされましたか?」
アルト「なんかソーイチロークンの部屋にいけないんだけど何か知ってる?」
シル「こちらも繋がらない状況でして……魔王様が向こうから帰ってこないのです。困りました」
アルト「フェリシアちゃんが……それは困ったね。仕事が進まないもんね」
ドM「ソーイチロー様からの罵倒が無いと欲求不満が抑えられません」
かみさま「えっ?」