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シスターズ編5 迷いの森2

『それにしてもこんな陰気臭い森にこんな大所帯が来るなんてねぇ』


『あれじゃないのほら、勇者パーチーとかなんとか』


『そういえばそろそろそんな季節かもねぇ』


 適当感あふれるゴーストおばちゃんたちの会話。季節モノじゃないんじゃないかな、勇者ってのは。


「ねえソーイチロー。なんか私の思ってた異世界転移と違う」


「大丈夫だ。俺も同意見だから」


 遠い目でわいわいと騒ぐおばちゃんたちと、それに加わって騒ぐアリスを見つめるフィール。


「主にお兄様が原因のような気もしますが……それにしても、話に聞いていたゴーストとは大分違いますね」


 そういやそうだな。ここのゴーストってのは立ち入る人間を迷わせる、とかって話だったような気がするが。


『ワタシたちが人間を?』


『そんな事しないわよ。ここに来るのなんてゴリゴリの冒険者だけじゃない。そんなの興味ないもの』


『まあある意味ワタシの魅力で惑わせちゃってるかもねえ』


『それは無いでしょ。誰がアンタみたいなババアで惑うのよ』


 一を聞けば十で返ってくるとはこのことだろうか。一言話しかけるだけで数人のおばちゃんたちが返事をしてくる。というかいちいちボケを挟まないと会話できないのかこの人たちは。


「では何故皆迷って帰ってくるのでしょうか」


 確かに。凛の疑問ももっともだ。


『それならあれよ。この森は瘴気が濃いからねえ』


『普通の人間だと方向感覚とかが狂っちゃうからねえ』


「なるほど。ん? じゃあ俺たちもこのままじゃ危ないって事なのか?」


 他のやつらはともかく、俺は瘴気に耐性なんて持ってないぞ?


『それなら大丈夫よお。ソーちゃんが瘴気に当てられないように皆で周りの瘴気を散らしてるから』


 一人のおばちゃんが指差す先を見てみれば、四方八方で何やら作業をしているおばちゃんの姿が見えた。


 なるほど、俺たちの為にやってくれていた訳か。どおりで何も感じなかったわけだ。


「ありがとな。助かるわ」


『あらあらいいのよお。ワタシたちが好きでやってるんだから。それにこんな若い男の子に会える機会なんてそうそうないから皆張り切ってるのよ』


 まあなんにしてもありがたい話だ。これならこの迷いの森も楽に踏破できそうだな。








「なんか大所帯になってきたねー。まあ概ねソーイチローが原因だけど」


 確かに。俺、フィール、アズ。それから妹二人とミナリーゼ。さらに百を越える精霊に、二十人近くまで膨れ上がったゴーストのおばちゃんたち。


 大所帯を引きつれ、迷いの森を進んで来た。道中であったゴーストを吸収し、いつの間にか森の最深部までやってきた。ここまででやっと半分か、長かったな。


 森の最深部、要は中心は、ぽっかりと穴が空いたように更地になっている。どうやらここでは瘴気も発生しないようなので、ここで一旦キャンプを張って野営をするようだ。


「凛ーそっち持ってー」


「はいはい」


 テントの設営を進めるアリスと凛。てきぱきと手際よく設営は進んで行く。ここに来るまで様々な世界で冒険をしてきたようだし、こういったことは慣れているのだろう。


 俺はといえば、凛から料理当番に任命されたので、今こうしてせこせこと食材の準備をしている。


「アズ、米を出してくれるか」


 俺の言葉に応えたアズが、その身体からプラスチックの米びつをぬるりと出して俺に手渡す。


 最近知ったのだが、アズの体の中は亜空間のようになっているらしく、色々とモノを詰め込めるようになっている。ファンタジーではよくあるアイテムボックスに良く似た機能だ。


 今回はそれを利用して、部屋の中にあった食材を粗方詰め込んできた。異世界の食事にも興味はあるが、それでも不安なものは不安だからな。


 食材を切り分け、即席のかまどに乗せた鍋に次々とぶち込んで行く。


「凛ー火ってどうやってつければいいんだ?」


「それなら私が魔法で点けますよ」


 魔法か。便利だな。


 そういや凛が魔法を使ってるのってみた事無いな。こんな魔法使いみたいな格好をしてるんだからさぞ凄い魔法を使うんだろう。まあ今は火をつけるだけだけど。


始原の焔よ(ルセアート)この手に灯れ(フラーマ)


 ……うん、この辺を見るに凛の中二病は未だに完治の兆しすら見えないようだ。なんだ今の、語感から見るにラテン語か何かか。


 その手に燃える炎をかまどにくべられた薪に移し、ドヤ顔でこちらを見る凛。ああ、この顔はあれだ。昔自作の詩を見せてきた時と同じ顔だ。


「さすがは凛。凄い魔法だな。詠唱もかっこよかったぞ」


「ありがとうございますお兄様。それでは私は設営に戻ります」


 うん、分かってるよ。こうやって手放しで褒めるから治らないんだって。でも可愛い妹が頑張ってるんだから褒めてあげたくなるじゃん。


 誰にしているのかも分からない言い訳を心の中でしながら、鍋をぐるぐるとかき混ぜていく。


「ねえ、これ何? 私見た事無いわ」


 ふらふらと近づいてきたルミエーラ。それにつられてか、あたりをふらふらと漂っていた精霊たちも集まってくる。


「おいこら、危ないから鍋を覗き込むんじゃない。落ちたらやけどするぞ」


 好奇心のあまり鍋に落ちそうになっていた精霊たちを除けてやる。


「これはな、カレーって言って、俺たちの世界の料理なんだ」


 特売で大量に買ったカレールーがあったからな。丁度いいので今日の飯はカレーにする事にしたんだ。妹たちもカレーは好物だったしな。


「へー、いい匂いね」


「お前たちの分もあるからちょっと待っててな」


「私たちの分も、って……やっぱ貴方変わってるわね。精霊に食事を出すなんて」


「そうか?」


 何か変なことなのだろうか。


「ねーソーイチロー。お腹減ったー」


「お前は文句を言う前に働けよ」


「ちゃんと結界は張ったしわたしの仕事はもう無いってー」


 フィールはこの野営地に魔物が入ってこないように結界なるものを張る担当らしい。まあ自分から言い出した事なんだけども。


 どうせ力仕事をしたくないからだろうがな。


 鍋の中身は粗方完成。欲を言えばもうちょっと煮込みたいが、フィールも待ちきれないようだし、その横では空腹に耐えかねたアリスが切り株に突っ伏しているのも見える。


 米も炊き上がったし、そろそろ飯にするか。


「じゃあ飯にするぞー。ミナリーゼ、精霊と戯れるのもいいがそろそろ帰って来い」


 事あるごとに精霊との会話に挑んでいるミナリーゼだが、今のところ進捗状況はよろしくないようだ。


 家から持ってきた紙皿に、カレーとご飯をよそって皆に手渡していく。


 精霊たちの分は、持ってきた食パンをちぎって、カレーをつけて渡してやる。ナンじゃ無いのが申し訳ないが、これはこれでアリだろう。


「そういや、おばちゃんたちは飯とか食べれるのか?」


『ワタシたちは食事は出来ないわぁ』


『でもこうやって通り抜ければ食べた気分にはなるわあ』


 そういいながら、次々と鍋を通り抜けていくおばちゃんたち。シュールだ。


「それじゃ皆さん。今日はお疲れ様でした。このペースで行けば明日には森を抜ける事が出来るでしょう。ゴーストの皆様には感謝してもしきれません。今日はしっかり休んで明日に備えましょう。それでは、頂きます」


「「「いただきます」」」


 相変わらず堅苦しい凛の挨拶で食事が始まる。テーブルや椅子なんてものはないので、皆思い思いの場所に腰掛けて食事を楽しんでいる。


「兄ちゃんのカレーはやっぱ美味ぇなー」


「さすがはお兄様です」


 市販のカレールーだが、満足してくれたなら何よりだ。


 精霊たちも、即席カレーパンを楽しんでくれているようだ。何やら皆羽根が光ってるな。


「精霊は気分が高まるとああやって羽根が自分の属性の色に光るのよ」


 そう言うルミエーラの羽根も、金色に色づいてきらきらと光り輝いている。光の軌跡を描きながら飛び回る精霊たちの姿は幻想的で、後の俺は写真に収めなかった事を後悔するのであるが、このときはただただその光景に目を奪われていた。


 食事の報酬としては、この上無いな。




ご覧頂きありがとうございます。感想や評価を貰えると嬉しいです。


~そのころの六畳一間~


リア「残金1977円。何故か部屋の中の食材もほとんど無え……やべえぞこれ」


フェリシア「……背に腹は変えられないわね。ヘルフリッツの所に行きましょう」


リア「いいのかフェリ姉ぇ。部下に金を借りるなんて……」


フェリシア「……背に腹は変えられないわ……」


リア「……フェリ姉ぇ」


~201号室前~


リア「おーいヘルフリッツのおっさん! いねーのかー?」


フェリシア「居ない見たいね。電話してみましょう」prrrrrrr


ヘル「おっとwwwフェリシア様ではありませんかwwwどうしましたかな?」


フェリ「ねえヘルフリッツ。貴方今どこにいるの?」


ヘル「拙者は今秩父でオフ会中ですぞ。同士達と聖地巡礼がてら集まっていましてなwwwいや中型バイクの免許を取ってツーリングがてら秩父まで来たのですが、このバイクというのはいい物ですなwwwああ、聖地巡礼というのはここ秩父はあの花」プツッ


リア「……フェリ姉ぇ」


フェリ「詰んだわ……」


リア「マジか」

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