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5 六畳間と冒険者 後編

思ってたよりも長くなりました

今回はちょっと真面目な感じ。

 前回のあらすじ。俺の部屋に新たな異世界人である冒険者のクロッゾというおっさんが現れた。なんやかんやでフィールが彼の願い事を一つ叶える事に。




「それで? 願い事は何? ちゃっちゃと叶えてあげるから言ってみなよ」


 一応クロッゾ(おっさん)はここが神域という場所で、俺達の事を神様だと思っているらしいから、もうちょっと神様っぽい雰囲気くらい出してくれ。


「あの、俺の仲間達を、生き返らせて欲しいんだ……です」


「あーなるほどね。んで? 仲間ってのは何人居たの?」


「俺以外に、五人居たんだ。でも皆死んじまった……」


 悲痛そうな顔をして、そう言うおっさん。なんか空気が重いな。


「なんかその人たちの持ってたモノとか無いの? それが無いと流石にきついんだけど」


 場の空気とは対照的に、フィールは軽い。もうちょっと空気読むとかしないのかねこの子は。


 それを聞いたおっさんが、何やら首にじゃらじゃらと掛けているネックレスを外し、フィールへと差し出した。


「これは、あいつらの冒険者タグです」


 なんかこのおっさん。敬語を使おうと頑張った結果、和訳した英語みたいな喋り方になってきてるな。


 おっさんの差し出したのは、五枚の銀のプレート。その一つ一つに何やら文字が刻まれている。ドックタグのようなものだろうか。


 傷だらけのそれらを受け取ったフィールが、畳の上に等間隔に並べていく。


「んじゃやりますかー。魔法カード発動! 死者蘇生!」


 手元からカードを出して、何やらおかしなポーズをとりながらそう叫んだフィール。


 こいつ……!? どこからそのカードを出した? とか、いちいちネタを挟まないと気がすまないのか? とか色々突っ込みどころが盛りだくさんすぎる……!


 そんな何から突っ込んでいいのやら悩んでいる俺をよそに、フィールの魔法が発動し、部屋の一角が激しく光を放つ。


「ここは……一体……?」


「私は、あの時死んだんじゃ……?」


 部屋の中に現れた五人の人物。それぞれファンタジーに出てくるような衣装に身を包んでいる。おお、ビキニアーマーなんてのが実在するとは……!


 異世界ファンタジーってすげえ、と感動している俺をよそに話が進んで行く。彼らに事情を説明しているのはフェリシアだ。口調も初めてあったときのような凛とした口調で彼らに順序立てて説明をしていく。


「それじゃあ、クロッゾは最後までたどり着けたのね……」


「おい! クロッゾ!」


 おっさんがダンジョンの最深部まで踏破し、願いを彼らの蘇生に使ったところまで説明すると、五人の中の一人の男が立ち上がり、おっさんの襟元を掴み詰め寄った。


「てめえ! 何でこんな事の為に願いを使った! 俺達の目的を忘れたのかよ!!」


 なんだなんだ? なにやら揉めている、というか男の方が一方的に怒りをぶつけているようだ。


「でも、俺はお前達が居ないと……一人では生きていけないから……」


「そんな事言ったって、このままじゃ世界が滅んじまうんだぞ! 俺達は世界を救うためにダンジョンに挑んだんだろうが!」


 なんだか壮大な話になってきたな。世界を救う? どういうことだ?


 フェリシアが憤る男を宥め、事情を聞く。


 どうやら、彼らの世界は今、滅びに瀕しているようだ。


 きっかけは全く分からないが、あるときを境に世界中の気温が減少を初め、作物が育たなくなったようだ。最近では世界中で天変地異が起き、もはや人間の生活できる範囲は世界中の十分の一に満たないようだ。


 それで神様に何とかしてもらおうと前人未踏のダンジョンに挑んだ……と。




 何これ、めちゃくちゃ壮大な話になりつつあるんだけど。物語だったら最終章じゃねえか。


 仲間を犠牲に、ダンジョンを踏破した主人公の前に、ついに神が姿を現す……! みたいなシーンじゃないの。なんか申し訳なくなってきたわ。


 しかも主人公が世界よりも仲間達を復活させる事を願ってしまった為、世界を救う事が出来なくなった。おかげで目の前の六人はお葬式状態だ。誰も彼もが下を向いて絶望しきっている。


「なあ、これめちゃくちゃ後味悪くないか?」


「悪いわね、この後気持ちよくゲームが出来そうにないわね」


 じー。


 俺とフェリシアの視線がフィールに刺さる。


「……あー分かった分かった。世界のほうもおまけで何とかするよ。まあ出来るか分からないけど、やるだけやるよ」


 その言葉に、がばっと顔を上げる冒険者達。


「んじゃあ行ってくるから。フェリちゃん留守番よろしくー。ほら、ソーイチローも行くよ」


「え、ちょっと待った! 何で俺まで」


「だって一人で行くとかちょーつまんないもん。ほらほら行くよー」


 俺の手を引きながら逆の手で押入れの扉を開けるフェリシア。ちょっとまだ心の準備ってのが! つうか手ちっせえ!


 そんな心の声を無視して押入れに広がる真っ黒な空間に飛び込んでいくフィール。手を引かれた俺も同様に。


 ――落ちる。


 ――――落ちる。


 無限に落ちていくような感覚。暗闇のせいで怖さが数倍になっている。


 ――実は俺、異世界に行くのは初めてなんだよなあ。


 




 途端に暗闇が終わり、視界が開けた。


 だが浮遊感と落下感が終わらない。あたりを見渡してみれば……はあ!?


「おい! ここ空なんだけど! 落ちてるんだけど!」


「そりゃあ空に転移するようにしたんだから空に決まってるじゃん」


 決まってるじゃん、じゃ無いっての! お前はともかく俺は普通の人間なんだから!


 雲を突きぬけ落下し、地上の景色が見えてくる。そのとき、隣でバサっという音がしたかと思えば、フィールの背中に三対六枚の羽が現れていた。


 純白に輝く天使の羽。普段は仕舞っているそれが目の前に現れ、綺麗だとかそういう感想より前にこう思った。


 ――ああ、そういやこいつって天使なんだよなー


「あ、そういやソーイチローは飛べないのかー。んじゃほいっと」


 フィールの指先がまたしても光に包まれ、その光が俺を包む。ふわりとした浮遊感が強くなり、代わりに落下感が弱まった。


 これは……飛んでる……のか?


 地上が近づく速度がどんどんと緩くなり、やがて景色が動かなくなる。


 落ちていない、良かった。人生初の感想が俺の頭に走った。








 上空に漂いながら、フィールとともに世界を望む。


「んー。一応球体の惑星みたいだねー。ただぱっと見た感じ世界としての格がかなり低いね」


「世界の格?」


「なんて言えばいいのかなー。世界にも格ってのがあって、格の違いによって管理者である神の力も変わって来るわけ。この世界はかなり格の低い世界だから、ここの世界の神はたぶん私よりも力が弱いんじゃないかな」


 世界にも格付けがあるのか。


「ちなみに地球のある世界は?」


「かなり上位だね。私たちの世界をコンビニに例えると、地球はスーパー。この世界は野菜の無人販売所、的な感じ?」


 たとえがイマイチ分かりづらいな。とにかくこの世界は格が低いという事だけは分かった。


 それから二人で空中を飛び、この世界がどういう状況なのかを見て回る。聞いていた通り、世界中の半分近くが雪に埋まってしまっている。どうやら本当に気温が下がっているようだ。


「そういや俺寒く無いんだけど」


「そりゃわたしの魔法でちょちょいと」


 魔法、便利だな。


 




「ざっくり見てみた感じ、魔力の流れが上手く行っていないみたいだね。そのせいで星自体が機能不全を起こしてるみたい。だけど気温が下がってる理由がわかんないなー。ソーイチローなんかない?」


「なんかって。そうだなー、気温が下がっている、という事は熱源になっているあの太陽っぽい星から離れてるって事だろ」


「ふんふん、それで」


「星から離れてるってのは公転が上手く言ってない、って事だ。たぶん地軸がずれたとかそんな感じじゃねえかな」


「なるほどねー。ちょっとそこらへん洗ってみるかー」


 両手を広げて、何やらまた魔法を発動させているフィール。


「やったじゃんソーイチロー。あたりっぽいよ。数年前と比べて明らかに星の地軸が変わってる。魔力の流れを調整して、地軸を直して公転の軌道を戻してやれば解決だね」


「解決だねって、そんな簡単な事なのか?」


 星を一個動かすって事だろう? そんな簡単に出来るのか?


「まあここはわたしから見てかなり下位の世界だからでーじょーぶ。ゲームの中で星をどうこうするみたいなもんだよ」


 へー、世界の格差ってのはすげーな。


「そんじゃーめんどいけどやるかー。っとーせいっと!」


 フィールが気の抜けた声で何やら魔法を行使する。


「はい終わりー」


 え? 今ので終わりなの?


 手をぱんぱんとはたき、やりきったぜーみたいな表情のフィールを見ながら拍子抜けする俺。


 そんな俺の上空で、今まで分厚く世界を覆い尽くしていた雲が、文字通り霧散していく。


 太陽光が消えていく雲の間から降り注ぎ、世界を明るく照らす。


 ――なんつーか、ファンタジーって感じだ。







「んじゃソーイチロー。帰ろっか」


「それはいいけど、何で俺を連れてきたんだ? フィール一人でなんとでもなったんじゃないか?」


 徐々に晴れていく世界。その上空で漂いながら、羽を広げたフィールと向かい合う。


「んー。一人で来るのはつまらないし、めんどくさいじゃん。ソーイチローと一緒なら、何してても楽しいから」


 ……不意にそういう事を言われると、なんだか照れるな。


 真っ直ぐな笑顔でこちらを見ているフィールを見て、なんと返したらいいか分からずに居た。初めて会った日も、フィールのこんな笑顔にドキッとさせられたっけ。


「それにしても疲れたねー。帰ってアイスでも食べようよ」


「そうだな」


 俺の手を引くフィールの手の小さい手が、何故だかとても大事なもののように感じた。





========☆========






 俺の部屋に帰ってきた。何故か冒険者達が居心地悪そうに座っている中、フェリシアは一人ゲームを再開していた。


「たでーま」


「でーま」


「おかえりー」


 なにはともあれ、問題は全部解決し、これでこの冒険者たちともお別れだな。

 

 世界の危機が去った事を告げると、涙を流しながら頭を下げる冒険者達。その冒険者達を早々に追い返すフィール。


 六畳間に、平穏が帰ってきた。それにしても今回の異世界人はドデカイ事案を引っさげてやってきたな。流石に俺もびっくりしたわ。


「あーつかれたー。結局今日は原稿が全然進まなかったよー」


 ぐでーっとちゃぶ台に突っ伏すフィール。羽根もしまった今、ただの夏バテした子供にしか見えないな。


 まあ今回はフィールが頑張ったおかげで万事解決したからな。少しは協力してあげよう。


「ベタくらいなら手伝うぞ」


 ちらっと目線だけをこちらに向けてくるフィール。もう一声、と目が語っている。


「と、トーンもやろう」


「さすがソーイチロー愛してるー」


 はいはい。現金なこって。



 

ご覧頂きありがとうございます。


次の更新は明日夜になります。ブクマや評価、感想などもらえると励みになります。



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