シスターズ編3 天然モノ
シスターズ編第三話です。
突如として現れた金髪エルフのミナリーゼ。
彼女によって部屋へと連れ込まれた俺たち一行は、彼女によって質問攻めにあっていた。
「なんでこんなに精霊が! 凛さん、この方は一体何者なんですの?」
「……私たちのお兄様です」
どうやら凛とアリスはこのエルフと面識があるようで、主に凛が質問に答えている。アリスは何も聞かれないところが物悲しいな。
ちなみに、精霊たちもこの部屋についてきている。今も俺の周りでわらわらと飛び回って楽しそうだ。
「ねえソーイチロー」
「どうした?」
何やら難しい顔をしたフィール。何か不満な事でもあるのだろうか。
「金髪貧乳エルフまではいいけど、これに縦ロールとお嬢様口調まで混ざってくると属性が溢れてると思わない?」
……何を言ってるんだお前は。漫画脳か。
「まあ巨乳じゃ無いだけマシか。やっぱエルフは貧乳じゃないと駄目だよね。最近の作品じゃ巨乳エルフも多いけど、古来からエルフは貧乳って相場が決まってるもんね」
本当に何を言ってるんだこいつは。まあ確かにエルフが巨乳だと違和感があるのはそうだけど、巨乳エルフはそれで需要があるんだと思うよ。
……いや俺は何を言ってるんだ。
「ちょっとアナタ! 聞いてますの!?」
フィールの妄言に反応している間に、俺に話が振られていたようだ。何も聞いてなかったぞ。
眉毛を吊り上げた表情のミナリーゼがこちらを睨みつけている。
「いやすまん。全然聞いてなかった」
「ですから! なんでアナタには精霊が見えて、あまつさえ滅多に人の前に姿を現さない中位精霊までもがこのように集まっているのかと! 聞いているのです!」
テンション高いなこの人。
「いや、そんな事言われてもなー。生まれたときから見えてるし、精霊が集まってくるのは知らないし。本人たちに聞いてみれば?」
「生まれた時から……天然モノの精霊眼持ちですの……?」
なんかさっきも聞いたな、その精霊眼ってやつ。この世界だとありふれてるものなのだろうか。そんな中二病みたいな名前付けないで欲しいんだけど。
何やらぶつぶつと自分の世界に入ってしまったミナリーゼを放っておき、俺も気になっていた何故精霊が集まってくるのかを本人に聞いてみる事にした。
「なあ、お前らなんでこんなに集まってくんの?」
「さあ? 何となく?」
俺の肩に座っていた話の分かる精霊が答えてくれるが、要領を得ない。謎は謎のままだな。どうせ他のやつらは話聞いちゃくれないし。
日本でもそうだったが、精霊ってのは話の通じないやつが多いんだよな。
「さすが兄ちゃんだぜ」
まあアリスのように人間でも話の通じないやつはいるけどな。
そのアリスはといえば、どこから取り出したのか握り飯を片手に本の山に腰掛けて一人ご飯タイムだ。自由にも程があるだろうが。
「まあいいですわ。アナタの事を観察していれば分かってくることもあるでしょうし」
「観察していれば、って事は何? 俺たちについてくるって事?」
「当たり前でしょう。筆頭魔術師なのですから、勇者についていくのは必然でしょう。それに精霊研究家としてもこんな面白そうな事案は放っておけませんし」
人のことを面白そうな事案とか言わないで欲しい。完全に実験動物を見る目をしていらっしゃる。
まあ凛が頷いているので別にいいのだろう。実際のところ俺たちのリーダーは凛みたいなもんだしな。
「ところで、アナタの頭の上に乗っているスライムは一体何ですの?」
「ウチの娘だ」
ミナリーゼの頭の上にハテナが浮かぶが、それしか言いようが無いしな。最近ペットって言うと怒るんだよ。
頭の上にはアズ。肩の上には精霊たちというよく分からない事になっているうえ、エルフの仲間が加わった。どうやら精霊たちの大半は俺についてくるようなので、意図せずして大所帯のパーティーになってしまった。
「ソーイチローってさ、いつも巻き込まれてるみたいな顔してるけど、実際巻き込んでる方だよね」
確かにそうかも知れないと思い始めた頃だったよ。ほっとけ。
そんなこんなで始まった俺たちの冒険。凛たちが面倒だというので、勇者一行の出立のパーティーやパレードは全て無しになった。
面倒だからパスで、といわれた王様は不憫だったな。結構楽しみにしてた感じだったし。
「んで、俺たちはどこへ向かおうとしてるんだこれ?」
馬車に揺られながら、平原を進む俺たち。がたごとと揺れる馬車の振動が、執筆業で弱った腰に着実にダメージを蓄積させていく。
「まずは迷いの森ですね」
「なあ、いつもゲームとかする度に思うんだけど、なんでそんな面倒そうな森とかを迂回して進むっていう選択を取らないんだ?」
「痛いところをついてきますねお兄様。とはいえ今回は回避が出来ません。この世界の迷いの森は大陸を二つに分断している巨大な森ですので」
「なるほど」
加えてこの世界は造船技術が発達しておらず、海を渡ることも出来ないらしい。難儀な事だ。
「迷いの森を抜ければ、そこから先は魔族領です。そこの最深部に居るらしい邪神を倒せば終わりですね」
魔族とか居るのか。
「迷いの森はゴーストが出るらしいぜ兄ちゃん。わくわくするな!」
「いやしないだろ」
ゴーストって幽霊みたいなもんだろ。どこでも見れるじゃないの。
「わくわくするのも変だけど、全く興味が無いのも変だよね」
そう言いながら、アズを撫で回すフィール。あ、逃げられた。
ぽてぽてと逃げ出してきたアズを膝の上に抱え込み、じくじくと痛む腰を伸ばす。バキバキとこわばった腰から音が鳴る。
「腰が痛いな。これいつまで馬車に乗ってればいいんだ?」
「あと半日もすれば森との境界まで着きますわ。というか、何故若いのにそこまで体が弱いんですの?」
先ほどまで一生懸命精霊と話をしようとしていたミナリーゼだったが、精霊たちは彼女に興味があまり無いようだ。一旦諦めてこちらの会話に加わる事にしたようだ。
「腰はな……なあフィール」
「ちゃぶ台はね……」
ちゃぶ台で作業してるとどうしても猫背になるから腰にダメージが溜まるんだよな。とはいえ畳張りの部屋に椅子と机を置くのも違うし、そもそも広さが足りないし。
何を言ってるのか、という顔でこちらを見ているミナリーゼだが、これは物書きにしか分からない苦悩だよな。
「ねえ、腰が痛いの?」
「ん? ああまあ」
肩の上から声がしたと思ったら、例の精霊か。まだそこに居たんだな。今まで注視してこなかったが、精霊もそれぞれ個性があるんだな。
この精霊は真っ白な髪と金色の目のクール系って感じか。
「私が直してあげようか?」
「マジか。回復魔法ってヤツか」
「私は光の精霊だから、回復ならお手の物よ」
自慢げに胸を張ってみせる彼女にお願いして、その回復魔法をかけてもらう事にした。馬車の中でうつぶせになって、背中に手のひら大の少女を乗せる二十台の男。凄い絵面だな。
「それじゃ行くよ。治癒の光」
彼女の掛け声と共に、腰辺りからじんわりと温かさが広がっていく。まるで徹夜明けに風呂に入った時のような、寒い冬に鍋を食べるようなそんな癒されるような温かさだ。
「あ゛ー。これは効くなー」
「お兄様、おじさんみたいですよ」
おっと、変な声が出てしまった。銭湯につかるときに声を出し始めたら歳を取り始めた証拠ってテレビでやってたな。まずいまずい。まだまだアラサーでは無いというのに。
「精霊魔法を腰の治療に使うなんて……世の魔道士たちが見たら卒倒しますわね」
「お兄様はどこの世界に居ても変わりませんね」
そんな事をいわれてもな。
「凄いなこれ。まるで身体が十台に戻ったみたいだ。ありがとな」
「別にいいわよ、これくらい」
見た目に違わず、クールな彼女に礼を言って元の姿勢に戻る。これで随分と楽になったな。
そんなこんなでぐだぐだと話をしながら進む事半日。道中目立ったトラブルなども無く、実に平穏な旅路だった。
「兄ちゃん、見えてきたぜ!」
馬車から身体を乗り出して、前方を指差すアリス。おいおい、落ちるなよ。
前方に広がる大きな大きな森。地平線全てが森になっているほど大きな森だ。さて、ここからが本番かな。
あ、アリスが落ちた。あ、馬車に並んで走ってる、凄えな。
その頃の六畳一間
リア「はー食った食った。高え寿司は美味えなー」
フェリシア「流石は一人前四千円ね。一人二人前食べたから、残りは一万四千円ね。まあ贅沢しなけりゃ大丈夫でしょう」
リア「まあ最悪金が無くなったら魔界で飯食えばいいしな」
フェリシア「まあそうね。ふう、じゃあ私はそろそろ帰るわね……あれ?」
リア「どうしたフェリ姉ぇ」
フェリシア「押入れが……魔界に繋がらないんだけど……」
リア「え?マジで?」