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シスターズ編2 蒼一朗と精霊

長らく間が開いてしまいました。シスターズ編第二話です。

 目の前に広がる大平原。何やら巨大な生物が堂々と闊歩する様は非常に異世界じみている。


「なんか異世界に来たって感動はあんまり無いな……慣れてきちまったのかな」


 最初は冒険者達の世界にダイブして、次は魔界に行こうとして人間界にダイブして……大体ダイブしてるな、俺。


「兄ちゃん、異世界って慣れるもんじゃ無いと思うぜ」


「つってもなあ。今まで色んな非常識を見てきたからなぁ。この程度じゃ驚けないんだよなあ」


 一応視界には百メートル級の巨大な四足歩行のモンスターが悠々と歩いているが、ただデカイだけだしな。


「とか言いながら一応写真は撮ってるんだね」


「まあ資料用にな」


 今日も今日とて勝手に持ち出してきた一眼レフで風景やらモンスターの写真を撮っていく。ちょっと写真を撮るのが楽しくなって来た自分が居るんだよな。


「お兄様、見物もいいですが早めに王城へ向かいましょう。色々と待たせていますので」


 のんびりと風景を眺めていた俺たちを一瞥し、すたすたと歩いて行く凛。その先にはこれまた大きな城壁が広がっている。


 どうやらここが王都というヤツらしく、これから俺たちは王様やらなんやらに謁見しなければならないらしい。一応勇者として異世界からやってきた、という設定だからな。


 王様かー。あんまし堅苦しいのって苦手なんだよなあ。





「へーい王様チーッス!」


「アリスちゃんお帰りー。うぇーい!」


 数分前までの俺の緊張を返してくれよ。


 目の前でハイタッチするアリスと王様らしき人物を見ながら肩を落とす。


 執事と兵士に案内されてたどり着いた謁見の間。そこで待ち構えていたのは、正に王様といった雰囲気の、豪奢な衣装に身を包んだおっさんだった。


 蓄えた白髭を撫で付ける様子は、威厳が服を着て座っているようだった、のだが……


「それでアリスちゃん、勇者召喚の魔道具はどうだった? 一応国宝だったんだけどちゃんと動いた感じ?」


「おう、ばっちしだったぜ!」


「マジで? あれ本物だったんだ王様びっくりだよ」


 軽いなー。王様ってマジで? とか言っちゃうんだ。


「それで、そっちの二人が連れてきた勇者さんな感じ?」


 あ、やっとこっちに興味が向いてきたか。


「そうそう、何を隠そう私達の兄ちゃんなんだぜ!」


 あ、言っちまった。一応俺達が兄妹だって事は隠しとくってさっき凛が伝えていたはずなんだけどな。やっぱりアリスはアリスか。


「何々? アリスちゃんたちのお兄さんなの? お兄さん戦えるの?」


「いやいや、兄ちゃんは一般人だぜ。魔力も無いし戦える訳ねーじゃん」


 アリスよ。正直は美徳だとは思うけど、時と場合ってのがあると思うよ。ほら王様目が点になってるじゃん。


 一応国宝の魔道具使ってただの一般人連れてきたって事だからね?


「えっと、じゃあそっちのお嬢ちゃんが勇者、って事になるのかな?」


「いえ、フィールさんは戦いには参加しません。あくまでもお兄様の同行者です」


 凛から補足が入るけれど、フォローにはなっていない。


「じゃああの魔道具は無駄遣いだったって事かな?」


「いや、私達のやる気は上がったぜ?」


「ええまあ、そうですね。お兄様がいればモチベーションとしては十分です」


「あ、そうなの」


 あ、そうなの。じゃ無くないか? それでいいのか王様。


「えっと、お兄さん。ワシがこの国の王のランセス三世じゃ。よろしく頼む」


「七海蒼一朗です。よろしく」


 一通り自己紹介をしていく。この王様から聞いたところ、アリスと凛はこの世界の神々が召喚した勇者という事になっているらしい。何やら神々からの評価も高い凄腕という事になっているらしく、本来で有ればこの二人だけで十分だったらしい。


 あの勇者召喚の魔道具とやらは、保険で用意していただけのものだったらしく、別にそこまで期待はされていなかったようだ。


「ところでソーイチロー殿、その頭の上に乗せているのは一体……?」


 ああ、そういえばアズを乗せたまんまだったな。


 気持ちよさそうに寝こけているアズを下ろし、腕の中に抱える。どうやらアズは動く気は全く無いようで、すやすやと眠っている。


「こいつはアズ。ウチのペットです」


「異世界ではスライムをペットにしているのですな」


 いや、多分ウチだけです。


 




 王様との謁見もさっくりと終わり、王城の廊下を歩いている俺たち四人。この世界に来てからちょっと気になることがあったので、皆に聞いてみることにした。


「なあ、それにしてもこの世界、精霊の数が多すぎやしないか?」


 さっきから目の前で小さな光がちらちらと、うっとおしい事この上無い。日本にも居たっちゃ居たが、ここまでの数がまとまっているのは見たことは無い。


「……お兄様。精霊まで見えるのですか?」


 おっと。そうか、皆には精霊も見えていないのか。どおりで誰も突っ込まないと思っていた


「フィールも見えないのか?」


「うーん、何となく気配はするけど……見えはしないかな。そんなに一杯いる感じ?」


「めちゃくちゃ居る。視界が悪い」


 色つきの光が到るところにちらほらと。これは意思を持たない下位精霊ってやつだったか。中学の時に出会った大精霊に教えて貰ったっけ。


 辺りを見渡してみれば、少数だが人の姿をした中位精霊の姿も見受けられる。


「なー、あのニンゲンこっち見てない?」


「気のせいでしょー」


「ニンゲンは私たちの事なんて見えないでしょ」


 おっと、一部の精霊たちが視線に気づいたようだ。


「やっぱ見てるよー」


「ニンゲン見えてる?」


「見られてるー」


 わちゃわちゃと集まりだした中位精霊たち。小さな身体の少年少女たちが俺めがけてわらわらと向かってくる。


「見えてる、見えてるからそんな顔の周りに集まるなっての」


「お兄様、何と話しているのですか?」


 そうか、皆には見えてないから俺の独り言みたいになっているのか。はたから見たらヤバイやつだな。


「いや、精霊が……」


 そうこうしている間にも、集まりだした精霊たちの数は増えていき、その数は百に迫ろうとしていた。


「ちょ、やめろって。髪を引っ張るんじゃないよ」


 集まった精霊たちは、自分たちの事を見る事の出来る俺が気になるのか、髪や服を引っ張ってやりたい放題している。


「すげーな。兄ちゃんの髪が勝手に動いてるぜー。静電気か?」


 静電気な訳無いだろ妹よ。


「おいお前ら、なんかこう他のやつらにも見えるように出来たりしないのか?」


「ニンゲンに?」


「ニンゲン見えてるよね?」


「他のニンゲンにって事でしょ。ほいっと」


 どうやら一人だけ話の通じる精霊が居るようだ。そいつが姿を現すと、それを見た他の精霊たちも次々と姿を現し始める。……とはいえ俺の目に映る景色は変わらないんだけども。


「おわっ!」


「わっ!」


「へー、精霊ってこういう感じなんだねー」


 驚く妹二人とは裏腹に、フィールは落ち着いてるな。


「えへー、ニンゲン驚いてるー」


「普段はニンゲンに姿をみせたりしないもんねー」


 楽しそうに空中を動き回る精霊たちで、広いはずの王城の廊下が埋め尽くされている。後ろから付いてきていた兵士さんたちもあんぐりと口を開いている。そんなに珍しいもんだろうか。


「さ、さすがお兄様です。伝説の精霊眼までお持ちとは……」


「そんなたいそうなもんじゃ無いだろ」


「たいそうな事ですわ!」


 ……誰? 


 なにやら血相を変えて走ってきた金髪縦ロールの女性が声をかけてくる。なんか違和感があると思ったら耳が長い。これはあれか、エルフってヤツか。


 色々と異世界人には出会って来たけれど、エルフってのは始めてだな。


「伝説の! 精霊が! こんなに!」


 テンションが振り切れてしまっている暫定エルフの女性を前に、どうしたもんやらと悩んでいる俺に、凛から説明が入る。


「お兄様。こちらの方は王宮筆頭魔術師のミナリーゼさんです。もうお気づきでしょうが、エルフです」


 ……なんか面倒そうな肩書きだなー。早くも面倒ごとに巻き込まれているような気がするぞ。

長らくお待たせしました。今日から更新再開です。


~一方その頃の六畳一間~


リア「たでーまー。あれ、ソー兄ぃとフィー姉ぇは?」


フェリシア「なんか異世界に行ったらしいわよ。置手紙と食費が置いてあったわ」


リア「へー、食費は……お、三万もあるじゃん。今日は寿司とろーぜ、寿司」


フェリシア「いいわね。どうせ数日で帰ってくるでしょうし、パーッと使っちゃいましょうか」

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