44 六畳間とお酒
44話、飲み会をするようです。
「ねえソーイチロー、これどうするの?」
ちゃぶ台の上にドン、と置かれたそれ。『久保田 萬寿』と書かれたラベルの貼られた一升瓶を眺めながら、俺とフィールは途方に暮れていた。
先ほど食料の買出しの為に二人でスーパーに行ってきたのだが、またしてもフィールが福引で当たりを引き、こいつを手に入れて来たのだ。
日本酒か……俺は酒は飲めないし、フィールも特に興味は無いようだしなあ。というかあのスーパーしょっちゅう福引やってるよな。
「さっきググってみたけど、これ結構なお値段のヤツだったんだよなあ。調理酒として使うのは勿体無いよな」
「そだねえ。そうだ、今日の夜はフェリちゃんとシルちゃんも居るし飲ませてあげれば?」
「まあそうするか」
そんな訳で、今夜は飲み会をする事になった。
ちゃぶ台の上にずらっと並べられた料理の数々。どうせならばと気合を入れて、つまみになりそうなものを適当に作ってみた。
唐揚げに、鳥皮を大根おろしとポン酢で合えた皮ポン。きゅうりやらキムチなどの漬物類に、つまみの定番ポテトと冷奴。他にも思いつく限りいろいろと作ってみた。
リアも学校から帰ってきたし、フェリシアとシルもやってきた。六畳間に五人も集まると若干手狭なんだよなあ。とはいえ引っ越す訳にも行かないしな。
「それじゃあ皆お疲れーかんぱーい!」
何故か仕切っているフィールの音頭で、皆それぞれ手に持ったグラスをカチンと合わせる。
まあ酒を飲んでいるのはフェリシアとシルだけだ。見た目的には二人とも未成年だけどな。
「この日本酒、だっけ? すっきりしてて飲み易いわね。魔界の蒸留酒とは天と地だわ」
上品な所作で日本酒を流し込んでいくフェリシア。随分と美味そうに飲むな。
とまあ最初はこんな風に落ち着いてたんだよな、酒が回りだすまでは……
「ちょっとソーイチローぉ、あんたも飲みなさいよぉ」
酒が回ったフェリシアは絡み上戸だったようだ。今も俺の首に腕を回して日本酒の入ったグラスを押し付けてくる。
「だから飲めないつってるだろ」
「えーソーイチローのいけずぅ」
そう言いながらくぴくぴとグラスの中身を飲み干していくフェリシア。上司にしたら面倒くさいタイプだなこりゃ。
頼みの綱のフィールはといえば、先ほどフェリシアによって一口飲まされ、すぐに寝オチしてしまった。今は部屋の隅で大の字になって爆睡している。
腹が丸出しなので、とりあえず毛布をかけといてやろう。
「ねえソーイチロー聞いてるぅ?」
「はいはい聞いてますよ」
「うそー、ちゃんと人の話聞きなさいよー」
めんどくせえ! 何が面白いのかケラケラと笑いながら俺の頭をぺしぺしと叩くフェリシアを押しのける。
「なあソー兄ぃ、そ、っそそsおに、にソー兄」
隣を見てみれば、こちらもフェリシアの被害にあったリアがバグっている。どうやらリアはアルコールを摂取する事で思考回路に異常が発生するタイプのアンドロイドのようだ。
他のアンドロイドは見たこと無いけど。
依然としてべたべたとくっついてくるフェリシアを腕で押し留めながら、残る一人に目を向ける。
「どうしました? ソーイチロー様。もしや私に欲情しましたか? それでしたらキツメに罵倒していただいてもかまいませんよ?」
ああ、コイツもダメだ。いやまあ平常運転なんだけど、普段からヤバイタイプのヤツだからな。
……ダメだ、もはやこの空間にまともなヤツが一人もいない。アズも危険を察したのか、いつの間にか出窓の自分のポジションに戻って我関せずだ。
そんな混沌とした空間で、全てを諦めて虚空を見つめていると、今度は押入れの引き戸がバン、と音を立てて開いた。
「お酒の匂いがしたので駆けつけましたわ!」
「来たよ!」
ああ、また面倒なのが増えた。
押入れから出てきたのは、爆乳天使レフィーエ。そして人界神アルト。どこからかぎつけて来たのかとか、その両手に持っている酒っぽいビンはなんなのかとか、色々と聞きたい事はあるが、もはやどうでもよくなってきた。
飲み会は混沌を極めた。いつの間にかやってきたヘルフリッツも加え、この狭い部屋に九人が集まってがやがやと大騒ぎ中だ。
「ソーイチロー殿! テレビのリモコンがありませんぞ!」
ヘルフリッツは部屋から持ってきたらしいアニメのブルーレイをゲーム機に入れ、勝手にアニメ鑑賞会を始めようとしている。
「ほらソーイチロー様、今日はお触り無料デーですわよ?」
酔っ払って顔を上気させたレフィーエが、そんな事を言いながら擦り寄ってくる。とりあえず内股をさするのは辞めろ! ドレスの肩を外すな!
レフィーエに影響されたのか、シルまでが這い寄ってきやがった。面倒なエロコンビが面倒な場面で揃ってしまった。
アルトはといえば、ヤツもがっつり酔っ払って部屋の中を物色し始めてるし。
「ねえソーイチローぉ、聞いてるぅ?」
相変わらずフェリシアは同じ事をなんどもなんども繰り返してるし。
……駄目だこいつら、早くなんとかしないと。
「……もぅうるさいなー」
寝ぼけたフィールがそんな言葉を発したかと思えば、いきなり腕を突き出して何やら魔法の様なものを天井に発射しやがった!
キュイン、という光学兵器のような音が響き渡る。
幸いにもアズが壁際で食い止めてくれたが、アズが居なかったら今頃大惨事だぞ!
「ソーイチロー殿www安アパートで攻撃魔法とかwwwクソワロですぞwww」
クソワロどころの話じゃねえっての! 俺以外の奴らは気にも留めてないみたいだし、どうなってんだこいつら。
いつのまにやら機能を停止したらしいリアは、部屋の隅に腰を下ろして微動だにしなくなってしまった。
「ねえソーイチロー飲みなさいよぉ」
もう何もかもが面倒になってきたので、フェリシアが押し付けてきたグラスを奪い取って、一気に飲み干す。
その後の事は良く覚えていない。
翌日の朝目を覚ますと、部屋は酷い状態だった。だれかが棚から出してきたのか、スナック菓子のゴミや食べ残しが散乱し、食べ残しは乾いてカピカピになっている。
こんなにあったか? という量の空き瓶があたりに散らばり、もはや部屋がゴミ箱状態だ。
レフィーエ、シル、フェリシアが半裸で床に転がっているし。リアに関してはなんか色んなコードがはみ出してるし、アルトは冷蔵庫に頭突っ込んだまま寝てるし、あのあと一体何があったんだ!?
二日酔いによる頭の痛みと、理解できない状況に混乱していると、部屋の玄関からがちゃりという音がした。
「おお、ソーイチロー殿、お目覚めでしたか。昨晩はお楽しみでしたな」
コンビニの袋を両手に提げたヘルフリッツ。本当に昨日何があったんだ?
……後ほど、どうやらコンビニに二日酔いなどに効く栄養剤やら何やらを買いに行ってくれていたヘルフリッツから、昨日の事を聞いた。いろいろとあった様だが、ともかく大したことは起きていなかったようで一安心だ。
ともかく、今後こいつらに酒を飲ませるのは遠慮したいと思う俺であった。……俺も含めてな。
ご覧頂きありがとうございます。次回以降の予定など、活動報告でまとめていますのでよろしければ。
別枠で、リアの過去編の連載を始めました。そちらもご覧いただけると嬉しいです。こちらで掲載する事も考えたのですが、毛色が違いすぎるので一応別枠でアップさせて頂きました。
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