43 蒼一朗尾行大作戦 その2
尾行編後編です。引き続きフィール視点。
引き続き、ソーイチローの尾行を続ける。今は電車で移動中だ。
横浜線であれば、この駅から出発なので基本的には座れるんだよね。
「そういえば、私この街から出るのは初めてなのよね」
「わたしもだよ」
基本的に街から出る必要が無いしね。あの街にはアニメショップもゲーセンもあるし。というか他に行きたいところが無いだけなんだけど。
普段は外に出たくないしね。
「何度かこうして電車に乗ってるけど、これって凄いわよね。魔界にも作ってみようかしら」
「途中で魔物に壊されるのがオチじゃない?」
あの世界には電車くらいなら一撃で破壊できるような魔物がうようよしてるしね。まあ乗客とか乗務員とかが魔法で倒せればいいけど、そんな戦闘力のある人なら自前の移動手段を持ってるしね。
そんな会話をしてる間も、がたごとと電車は進んで行く。フェリちゃんはスマホでゲームを始めてしまったので、わたしは景色でも見ている事にしよう。
自前の翼以外で移動しながら見る景色ってのも悪くないね。勝手に流れていく景色を眺めながら、静かな時間を過ごす。
『次は~町田、町田です。小田急線にお乗換えの方はこちらでお降り下さい』
「あ、フェリちゃん。ここで乗り換えっぽいよ」
「んー」
スマホに没頭してしまったフェリちゃんの手を引き、席から立ち上がる。ちょっと覗き込んでみると、今流行のカードゲームに夢中みたいだ。美麗なイラストが派手なエフェクトで進化しているのが見える。いつかはこんな凄いイラストがかけるようになりたいものだ。
町田駅で若干迷ったものの、無事に新宿までたどり着く事が出来た。その間ずっとゲームに集中していたフェリちゃんを誘導するのには骨が折れたけどね。
ともかくソーイチローを探すために、一度駅から出て人通りの少ない場所を探そうと思ったんだけど……
「うわ、凄いわね……」
「都心ってのは別格だね……」
二人して新宿の町並みに圧倒されてしまった。わたしたちの住む町、八王子を初めて見たときもびっくりしたけど、これはまたレベルが違う。
あちらの世界では三階建ての建物ですら高層建築だというのに、ここじゃあ何十階もある建物が大量に建っている。
「人も凄いわね……」
こんな人の数はコミケでしか見たことが無いね。
「これじゃ魔法を使うのは難しいかなー」
一応探知魔法はばれにくいとはいえ、人通りの多いところでは使いづらい。精度も下がるしね。
「あ、フィール、カラオケに入るのはどう?」
「お、フェリちゃんそれは名案かも」
個室に入っちゃえばこっちのもんだね。それでいこう。
幸いカラオケ、と書かれた看板ならばあちらこちらで見ることが出来る。とりあえず近場のカラオケに入ってみようか。
ともかくカラオケで探知魔法を使うことが出来たわたしたちは、無事にソーイチローの居場所を知ることが出来た。
気がつけばあたりは日が落ちて、鮮やかなネオンや街灯が街全体を照らし出している。
……え? さっきまで夕方だったじゃないかって? ほら、それは初めてカラオケに行ったしちょっと歌ってこうかなーって思ったら意外と時間が経ってたというか……
「すごいわねカラオケって。また今度来たいわ」
まあ自分も夢中になってた手前なんとも言えないけど、フェリちゃんちょっと本来の目的忘れすぎじゃない?
「とにかく、ソーイチローはそこの居酒屋に居るはずだから……あ、でもどうしよう。中に入ったら一発でばれそうだよね?」
「というか私達の見た目じゃ居酒屋なんて入れないんじゃない? 身分証明書とかも持ってないし」
……確かに。フェリちゃんも見た目は未成年だし、わたしなんて論外だ。
……自分で言っていて悲しくなってきた。
「まあともかく出てくるまで待つしか無いんじゃないかしら。あ、フィール、あそこから店の中が見れそうよ」
フェリちゃんが指差すのは、居酒屋の正面にある雑居ビル。その非常用階段からなら、店の中の様子が伺えそうだ。
ここにいてもやる事が無いので、一先ずその非常用階段に向かうと、しっかりと店の中を見ることが出来た。
ソーイチローは、っと。
「いるわね。一、二……全部で五人ね」
「女が二人いるね。ちょっと、距離近いんじゃないの?」
「あなたは一体ソーイチローの何なのよ」
ソーイチローはともかく、一緒に飲んでいる人たちはそうとう飲んでいるようで、かなりテンションが高い。
ソーイチローは根っからの下戸なので、目の前に置かれているのはコーラだ。一人だけ周りのテンションについていけてないのが哀愁を誘う。まあシラフで盛り上がれるようなタイプでも無いしね。
その後も特筆するような事も無く飲み会は続き、わたしたちの監視も続いた。
……フェリちゃんは途中からずっとゲームしてたけど。この娘本当に何をしに来たんだろう。
ソーイチローの隣に座っていた茶髪の女性の距離が若干近いのが気になったが、飲み会が終わるとそのまま解散となった。一先ずほっとしたよ。
ソーイチローに隠れた彼女とかがいない事が確認できて満足できたので、わたしたちも帰ろうと思ったのだけど、解散したソーイチローが駅の方ではなく逆方向へと向かったのが気になったので後をつけてみることにした。
「どこに行くのかしらね」
「さあ、あっちには何も無さそうだけど……」
ソーイチローの歩む方向は、繁華街とも駅とも違う逆方向。そのまま大通りから外れた裏路地に入っていく。
「あっ」
人ごみに飲まれてしまっていたわたしたちは、一瞬ソーイチローを見失ってしまった。その瞬間だった。
「ん? 魔力?」
「いや、ちょっと違うわね」
微弱ながら、魔力のようなものを感じる。ソーイチローの向かった方だ。気になるが、人ごみが邪魔してそちらへ向かう事が出来ない。
その微弱な反応は、ものの数秒で消えた。一体なんだったのだろう。
反応が消えた後、ソーイチローが裏路地から再び姿を現す。何しにあそこに入ったのだろう。
「何だったのかしら……今はもう何も感じないけど……」
「うーん、ソーイチローに聞いて、いや尾行してたことはバレたくないしなー」
なんだかもやもやするけど。別に特別何かが起きたわけでもないし……
そんな感情を抱えながら、わたしたちは帰路につく。
家に帰ると、リアが出前でとったのであろうピザをほお張りながら迎えてくれた。ソーイチローより早く戻ってこれたので、リアにはわたしたちが外出してた事は固く口止めしておいた。
それにしても気になるなあ。ソーイチローの事を知ろうと思ってついてったけど、余計分からない事が増えてしまった。
ソーイチローはあんまり自分の事を喋らないしなー。いつか頃合を見ていろいろと聞いてみようかな。
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蒼一朗の謎が少しづつ明らかになってきました。主人公とは
次回は飲み会編。かなりカオスです。
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