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十月四日 天使の日

本日二話目のちょっとした日付ネタ。間に合ってよかった。

「ねえソーイチロー。今日が何の日か知ってる?」


 俺がちゃぶ台の上でせこせこと原稿を書いていると、今までテレビを見ていたフィールがふとそんな事を聞いてきた。


 今日は十月四日。特に休日でも無いし、何かの記念日とかでも無い。となると何かのごろ合わせか……?


 十月四日。十と四……トシ。XJ○PANは関係無いだろうし……なんだろうか。


「はい時間切れー。正解は『天使の日』でしたー」


 天使……ああ、10(テン)()か。思いつかなかった。


「んで、その天使の日がどうしたって?」


「ほら、わたし天使じゃん? って事は今日はわたしの日なわけよ。誕生日の無いわたしにとっては正に誕生日と同等レベルの日なわけ」


 そういやフィールって誕生日とか特に無かったな。今まで祝った記憶も無いし。語呂合わせってのは微妙な決め方だけど、まあ本人がそれでいいなら別にいいか。


「はいはい、で? 何が欲しいんだ?」


「お、物分りが早いねソーイチロー。それじゃ早速行こうか!」


「行こうかってどこへっておわっ!」


 急に立ち上がって俺の手を引き、押入れの奥へと引っ張って行くフィール。ちょ、せめて作業データだけ保存しないと!


 そんな俺の願いはフィールには届かず、そのまま俺たちは押入れの闇へと消えていったのであった。







 毎回恒例の、落下感とともに、異世界へとやってきた。何故この天使は毎回毎回空中に出てくるのであろうか。


 もはや俺も慣れたもので、この落下感に恐怖を感じることは無くなって来ている。


「で、こっちに来て何をするんだ?」


「デートしようぜ!」


 どうしたその口調。またアニメか何かに影響されたのか?


 自分で言っておいて恥ずかしくなったのか、顔を赤らめるフィール。デートって、この世界でそんな平和な事が出来るのか?


「ほら、今日はフェリちゃんもいないし、リアも友達の家にお呼ばれしてるから帰りは遅いでしょ? だから今日一日はソーイチローと二人で遊ぼうと思って」


「なるほど、それは別にいいけど」


「それじゃあまずはあそこからだね!」


 そういうと、目の前の空間を引き裂いていくフィール。え? 何これ、どこ行くの?


 躊躇い無く飛び込んでいくフィールを追いかけて、俺も裂け目の中に飛び込むと、その先には何も無い広大な空間が広がっていた。


 ただただ白い、どこまで広がっているのかも分からない空間に、ぽつんと立つ俺とフィール。距離感が分からなくなりそうだ。


 なんと言っていいか分からずに立ち尽くしていた俺の横で、フィールがぽつりと口を開いた。


「ここはね、ずっとわたしが居た場所なんだ」


 そういえば、フィールが俺の家に来る前にどんな事をしてたとか、聞いた事無かったな。


 いつに無く真面目な表情で語るフィールの横顔。とりあえずそのぷにっとした頬を摘んでみた。


「ふぇっ! な、何すんのさ!」


「いや、何となく。シリアスな雰囲気似合わないなーと思って」


「そんな適当な理由で雰囲気壊さないで欲しいんだけど……まあいいや。ソーイチローだもんね」


 なんとなく呆れられたような気がするな。


「ここは、他の世界から侵略者がやってくる場所なんだ。わたしは侵略者からずっとここでこの世界を守ってた。生まれてからずっと」


 昔を思い出しながらそう語るフィール。そういやフェリシアが、フィールは自分よりずっとずっと長いときを生きているって言ってたな。フェリシアが何歳なのかも知らないけれど。


 きっと、俺には想像も出来ないくらいの長い時間をここで過ごしてきたのだろう。たった一人で。


 今、俺の部屋で過ごしている時間は、フィールにとっては長い人生の中の一瞬で、いずれ記憶の一ページとして埋もれてしまうのだろうか。


 そんな事を思ってしまって、ふと寂しい気持ちになってしまった。


「ねえソーイチロー」


「ん? どうした?」


「ありがとね」


 不意に、フィールがそんな事を口走る。何か感謝されるような事なんてしただろうか。


「わたしはね。ここに居た時は感情なんて無かった。ただ外敵を排除するための人形だった。でもあの世界に行って、ソーイチローと会って、楽しかったり、嬉しかったり、面倒臭かったり、色んな気持ちを知ったんだ」


 最初に会ったときから、割と感情豊かだった気が……いや、最初に拾った時は空っぽな感じだったか。


 ぼろぼろで、話しかけても虚空を見つめているだけで。あの時は異世界人なんて知らなかったから、とりあえず飯と思って雑炊を作ったんだったか。


「だから、この場所で、わたしが生きたこの場所で、ちゃんとお礼が言いたかったの」


 ただの人間の俺には、フィールの過ごした長い時間を思いはかる事は出来ないし、彼女の気持ちを知ることは出来ない。


「そうか」


 ただ、そう言う事しか出来なかったけど、それでもフィールと出会う事が出来てよかったと、そう思った。







 それから、俺とフィールは異世界の様々な場所を飛び回った。


 いつに無く積極的なフィールは俺の手を掴み、世界の果てから果てまで、海の底から空の上まで、色んな場所を訪れた。


「いやー疲れた! もうあと半年は家から出たくないね!」


「俺もだよ……」


 あの世界って、球体じゃなくて板状なんだな。海の果てまで行ったら滝のように水が流れ落ちてたぞ。水の循環とかどうなってんだ。これだからファンタジーは。


「いい感じにインスピレーションも沸いてきたし、冬コミのネタもばっちしだね!」


「ああ、そういう事だったのね。どうりで一眼レフとか持ってきてるわけだわ……」


 確かに色々見れたな。東京ドームくらいの大きさのタコとか、大気圏に漂ってる馬鹿でかいドラゴンとか。


 六畳間に帰ってきた俺達は、どっかりと畳の上に腰を下ろす。本当に疲れたよ。


「あ、ソーイチロー。誕プレはヴァルドラのサントラでよろしく」


 あ、誕生日プレゼントは別で要求してくるのね。まあ別にいいけど。


 というか……何か忘れているような気が……原稿!


 慌ててノートパソコンを見てみれば、電源コードは出かけるときに引っ掛けたのか見事に抜け落ち、しっかりと電源は落ちている。


「まあソーイチロー、元気だしなよ」


 俺はがっくりと膝をついたまま、数十分は立ち上がる事が出来なかった。

ご覧頂きありがとうございます。


十月四日は天使の日らしいです。女性下着メーカーが商品の名にあやかって作ったらしいですね。

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