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40 異世界人とTシャツ

第四十話。最近触れていなかった文字Tシャツの話。

 最近、ちょっと疑問に思っている事がある。


 今日も今日とて、ごろごろと俺の部屋で怠惰な日々を過ごしているフィール。昨日からは仕事も落ち着いてきたようで、畳にだらしなく寝そべりながらテレビゲームをしているフェリシア。


 この二人が俺の部屋で過ごしている際に着用しているTシャツ。何度か触れてきたが、謎の文字入りTシャツは、一体どこで手に入れているのだろうか。


 フィールが今着ているのは、前面に『かいしんのいちげき!』と書かれた白いTシャツ。フェリシアが着ているのは、『ゲームは主食』と白い文字の入った黒いTシャツなのだが、ネットで検索してもそんなものはどこにも売っていないのだ。


「なあ、お前らってそのTシャツどこで買ってんの?」


 気になって仕方が無いので、直接聞いてみる事にした。


「え? 普通に自分でデザインしてオーダーしてるけど」


 おっと。予想外の答えが返ってきたな。確かに、高校の文化祭とかでオリジナルTシャツを作ることはあったな。


 でも、オリジナルTシャツって一枚から頼めるものなのだろうか?


「最近は一枚から作ってくれるんだよ。ちょっと前までは市販のTシャツだったけど、目ぼしいTシャツはもう大体手に入れちゃったからね」


「私のこれもオリジナルよ」


 何がこの二人をそこまで動かしているのだろうか。


 別にTシャツのデザインに対してはそこまで興味は無かったのだが、フィールは俺が興味を持ったと思ったのか、衣装箱からTシャツを次々と取り出して並べ始めた。


 ……というか、こいつの服ってほとんどTシャツだよな。








「こっちが市販ので、こっちが私がデザインしたやつ。んで、こっちがフェリちゃんのデザインのだねー」


 ちゃぶ台の上にうずたかく積み上げられたTシャツの山。市販のは様々な色があってカラフルな感じだが、フィールのは白、フェリシアのは黒ばかりだ。


「市販のは……アニメのグッズとかも多いな。この『西へ東へ』とか『地底人』とか」


「その辺は文字T愛好家ならマストアイテムだからね」


 なんだその文字T愛好家って。


 あ、この『働いたら負け』ってやつもアニメのグッズか。これを着てるキャラも金髪のニート系キャラだったな。フィールと被ってるな。


 ……なんでタ○ヤのTシャツが混じってるのだろうか。意味不明だな。


「フェリシアっぽい感じのもあるな」


 フィールのTシャツとフェリシアのTシャツの違いは直ぐに分かる。フェリシアのやつは胸元の生地が伸びてしまっているからだ。


 こんなところでも格差を見せ付けてくるとは、魔王は恐ろしいな。


「ねえソーイチロー。今わたし達のどこを見ていたのかな?」


「ソーイチローってむっつりよね」


 おっと。つい視線が彼女達の胸に向いてしまっていたようだ。


 ジト目のフィールと、呆れた様なフェリシア。いや、しょうが無いじゃないですか。俺だって男なんだし。


 とりあえず話を逸らしておこう。


「フェリシアのも変なのが多いな。『魔○光殺砲』とか『第六天魔王』とか、魔王系っていうのか、こういうのは」


 『魔○光殺砲』はともかく、『第六天魔王』は別に魔王じゃないと思うけどな。まあ最近の作品だと本当に魔王だったりするみたいだけど。


「ソーイチローって話の逸らし方下手だよね」


「露骨ね」


 引っ張ってくるんじゃないよ。反省してるって。


 にしても、女性は視線に敏感だという話をネットで読んだりするが、本当に敏感だよな。まあ俺の見方が露骨過ぎるだけかもしれないけど。


「というか、市販だけでもこんなに種類があるんだな。流行ってるのか? 文字入りTシャツって」


「んー、そこそこ流行ってるんじゃない? まあブームはちょっと前だから今はそれほどじゃないと思うけど。それでも新しいアニメが出るたびに新しいTシャツが出てくるし」


 ほら、とスマホのブラウザでTシャツの画像を見せてくるフィール。凄いなこりゃ。先週始まったアニメのコラボTシャツがもうあるのか。


「ゲームの特典とかでTシャツがついてくる事もあるわよ。これとかがそうね」


 と言いながら山の中から目当てのTシャツを掘り出してくるフェリシア。凄いな、ゲームにTシャツがついてくるのか。


 とりあえず市販のほうは粗方見終わったので、衣装箱に戻していく。ちなみに、フィールたちの服は全部この衣装箱に入れて部屋の隅に積んである。


 最近知ったのだが、俺の部屋の押入れは開けた人物のもともと居た世界に強制的に繋がるようになっているらしく、フィールたちが開くとあの世界に繋がってしまう。


 俺が開いても押入れのままなので、押入れのものを取り出せるのは俺だけなのだ。










「んで、こっちが二人のオリジナルのTシャツか」


 市販のものと同じくらいの量があるな。


「というか、こんなに必要なのか? Tシャツなんて何枚かあれば十分じゃないか?」


 という俺の疑問に、珍しくフィールが凄い勢いで食いついてきた。


「何を言ってるのソーイチロー! Tシャツの種類でその日一日のテンションが変わると言っても過言じゃないんだよ!」


 いや、過言だと思うよ。俺なんて大体毎日無地の黒シャツだし。


「そうね。Tシャツによってノリが変わってくるわね。普通のTシャツじゃプレイングも悪くなるってものよ」


 何を言ってるのかは全く分からないが。この二人にとってTシャツはそれだけ大事なものらしい。


「にしても色々作ったな」


 この『惰天使』とか『働く天使は天使じゃ無い』とか、いったい何を思って作ったんだろうか。堕天使じゃなくて怠惰の惰を使っているところが芸が細かいというか。


 この堕落してしまった大天使の姿を見たら、あちらの天使さんたちはどう思うだろうか。


 ……ん? なんか一枚だけ赤いのがあるな。


「これはリアに着てもらおうと思ってたんだけど、『だせぇ』って言われて断られちゃったんだよねー」


 うんまあ確かに。『美少女あんどろいど』と書かれたTシャツはダサい。アンドロイドがひらがななところがそこはかとなくダサい。


 断って正解だったと思うぞ、リア。


 





 その後も、適当に二人の作ったTシャツをあさっていく。これはなんかさっきまでのと毛色が違うな。


 フェリシアのものと思われる黒いTシャツ。これだけ未開封のままで数枚下のほうに重ねてあるな。


「なあ、これって開けてもいいのか?」


「ああ、それね。別にいいわよ」


 ビニールに包まれたそれをバリバリと開封する。中から出てきたのは『魔王国臣民』と書かれた黒いTシャツ。


「……何これ」


「あー、それってフェリちゃんのファンに配ったやつじゃん。まだ残ってたんだねー」


 最近はフェリシアが多忙だったのでサボりがちだったが、あの後もフェリシアの動画配信は続いている。初回こそあの魔王っぽいドレスで配信していたが、最近じゃTシャツで配信することの方が多い。


 そのせいか、動画サイトでフェリシアのオリジナルTシャツが話題になったようで、どうせならとオリジナルTシャツをリスナーから抽選でプレゼントしたらしい。


 文字T愛好家の感染経路の一つを見た気がするな。


「わたしも次のコミケでオリT販売するしね」


 売れるのかそれ? という疑問はさておき、この二人のTシャツに対する思いいれだけはよく分かったわ。


「そういえば、ソーイチローの分も作ってあったんだった。えーとどこ入れたっけ……ああ、これこれ」


 ごそごそと山の中をあさるフィール。嬉しい気持ちよりも怖い気持ちの方が圧倒的に強いんだけども。


 手渡されたTシャツを、恐る恐る広げてみる。


 書いてある文字は……『ハーレム作家』


 とりあえず、受け取るだけ受け取って、押入れの奥に封印する事が確定した。

ここまでご覧頂きありがとうございます。


個人的なお気に入りは『致命傷以外はかすり傷』Tシャツです。


次回はアズメインのお話。

次回「スライムと進化」


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