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38 魔物討伐コンテスト その4

三十八話。これで今回の魔界は終了です。

 唐突に始まった魔物討伐コンテストもいよいよ大詰め。


 最後の参加者であり、飛び入りの選手であるアズが魔物達の正面に立っている。絵的にはこれから魔物に蹂躙されるようにしか見えないが。


「それでは最後の参加者、エントリーナンバー4! 異界の大賢者の使い魔、アズール選手です!」


 言葉だけ聞くとめちゃくちゃ格好いいな。実際は異界の大賢者(日本のライトノベル作家)の使いスライムなんだけどな。


 キキの紹介を受けて、ぷるんと身を震わせ、やる気をアピールするアズ。その姿が可愛らしかったのか、観客の女性陣から黄色い歓声が上がる。


「あの、ソーイチローさん。本当に大丈夫なんですか?」


 おい、司会者が持ち場を離れるんじゃないよ。こそこそと内緒話をしにきたキキをしっしと追い返す。大丈夫かと言われても、俺には分からんとしか答えられんよ。


 魔物達に向かって堂々と鎮座するアズからは、任せろとでも言うかのようなオーラを感じる。まあ大丈夫なんじゃないかな。


「そ、それでは早速やって行きましょう。アズール選手、よろしくお願いします!」


 天使さんたちが光の壁を解き、解放された魔物達が一斉に進行を再開する。


 さて、どうなることやら。






 ぷるん。


 いつものように可愛らしく震えたアズ。ふるふると震えながら、徐々に徐々に巨大化していく。


 そのままどんどんと大きくなっていき、遂にその全長が十メートルに届こうかというところで――破裂した。


「は?」


 あまりに非常識な光景に、思わず声が漏れる。前方に立つフィールたち三人も、ぽかんと口を開けて見ていることしか出来ない。


 しかも、ただ破裂しただけじゃ無い。その中からは、無数の小さなスライムがわらわらと流れ出してくる。つまる所、分裂した。


 分裂したアズ達は、そのまま縦横無尽に魔物の群れへと向かっていく。


「スライムってこういう風に分裂するのですね。(わたくし)はじめて見ましたわ」


「いえ、普通のスライムはあのような無茶苦茶な分裂はしないと思いますが……」


 まあ確かに、一瞬で何千にも分裂したもんな。あんなのが野生にいたら生態系のバランスとかめちゃくちゃになるだろう。


 四方八方に走り出したアズたちは、そのまま魔物たちの懐へと潜り込んでいく。魔物はスライムには興味が無い様で、そのまま無視してこちらへと走ってくる。


 そして、魔物の群れ全体にアズたちが満遍なく散らばった頃。


 無数のアズたちが、一斉に溶けた(・・・)


「は?」


 今回声を漏らしたのは、隣に座るアルトだ。


 目の前に広がる光景は、正に異常の一言。先ほどまで荒野だった辺り一帯は、魔物の群れの位置する場所だけがあっという間に沼になった。


 魔物たちは突然出現した沼に足を取られ、進行を止める。


 ぎゃあぎゃあと不快そうな魔物たちの叫び声だけが辺りに響き渡る。その叫び声も、その数瞬後には消える事になった。


 ――とぷん。


 大きな石を、水面に静かに落とした様な音が響く。うるさかった辺りは静寂に包まれ、魔物たちはその姿を沼の中へと消す。


「は?」


 今回はこの場のほぼ全員が同様に声を漏らした。目の前で起こった非常識を、誰もが認める事が出来なかったようだ。


 現実を認識できない俺たちをよそに、目の前では先ほどの逆再生が行われているかのように、沼だったものが無数のスライムへと戻り、一箇所に集まっていく。


 集合し、再び一つになったアズが身体を震わせながら元のサイズに戻り、俺の下へと戻ってくる。


 ぽよん、と一跳ねし、俺の胸へと飛び込んできてふるふると震えるアズ。これは褒めてくれって事かな?


「よしよしよくやったぞーアズー」


 がしがしと頭を撫でてやると、気持ちよさそうにぷるんと揺れるアズ。にしても、一体どうなってるんだろうな。こいつは。


「はえー、スライムってのは凄いねー。ボク初めて見たよ、こんな強いスライム」


「はたしてアズが本当にスライムなのか分からなくなってきたよ」


 隣のアルトと、審査員席の方に戻ってきたフィールが感想を言い合っている。


「というか、今の一体どうなっているのよ。どう考えても色々おかしいでしょ。あの魔物たちはどこに行ったのよ」


 フェリシアの疑問ももっともだな。ちょっとアズに聞いてみようか。


「うんうんなになに? 巨大化したのは周囲の魔力を吸い込んで身体の体積を増やしたと。魔物たちは取り込んだそばから吸収した、と。え? 吸収できなかった部位もあるって? そんなの身体に悪いからぺっしなさい」


 俺の言葉を聞いたアズの身体から、魔物の骨やら金属質の武具などが次々に放出されていく。こんなもの入れてたら身体に悪いに決まってる。


「この量があの身体のどこに入ってたのかという疑問もありますが、普通にスライムと意思疎通してるソーイチロー様も異常ですよね」


 そんなシルの言葉が、静かな辺りに響いた。







「はっ! ええと、それではただいまのアズール選手の戦闘を審査員の方々に評価していただきましょう!」


 少し遅れて、衝撃から戻ってきたキキが声を張り上げる。


 俺も、俺以外の三人の審査員も、無言で十点の書かれた点数札を掲げる。いやもう完璧だったよ。絵的にも結果的にも。


「ええと、アズール選手の点数は、満点の四十点です!」


 さらに、魔物の討伐数も、最後の挑戦ということで特に点数には影響しない、という事がアナウンスされる。一応飛び入りの参加者へのハンデだったらしいが……


「それでは、審査員の方々に感想を頂いていきましょう。それでは、アルト様、お願いします」


「そうだねー。非常に素晴らしかったと思うよ。おぞましさ、美しさ、静けさ、そして圧倒的なまでの力を感じたね。まるで芸術品のように洗練された、とても良い攻撃だったよ」


 とてもまともなアルトの感想に、観客達が静かに耳を傾けている。俺にとっては近所の子供みたいな感じだけれども、彼らにとっちゃ神様なんだよな。


「ありがとうございました。それでは、これにて四選手全ての点数が出揃いました。こちらが、現在の全選手の点数になります!」


 マイクを握るキキの後方に、大きなボードが運ばれてくる。運んできてくれたのは例によって天使さんたちだ。あの人たち、いいように使われてるけど大丈夫なのか?


 そんな風に見ていたら、天使さんの一人がこちらに手を振ってきた。まあ楽しそうだし、大丈夫なのかな。


 表示されている点数は、リアが二十八点。フィールが二十八点。フェリシアが二十六点で、アズが四十点だ。小数点以下は切り捨てになったらしい。やっぱりアズが圧倒的だな。


「このあと、観客投票になります! 観客百名がそれぞれ一点ずつを各選手に投票していただきます。それでは観客の皆様、お手元のボールを、それぞれ選手名が書かれたカゴに投じて下さい!」


 ああ、そういうシステムなのね。観客の持つ得点は全部で百点か。これなら十数点の点差くらいならひっくり返りそうだな。


 ぞろぞろと観客達が目の前に置かれたカゴの中にボールを入れていく。


 ……もうこれ、数えるまでも無いな。


 目の前の四つのカゴの内、一つだけ明らかに量が多いカゴが一つ。アズのカゴだ。


「これは集計するまでも無いですね。ナナミシティ魔物討伐コンテスト、初代王者はアズール選手です!」


 観客の歓声が、アズを祝福する。フィールに掲げられたアズも、心なしかどやっとした感じを出しているように見える。


 そんな訳で、このよく分からないコンテストはアズの優勝で幕を閉じた。あ、アズの活躍をカメラに収めるのを忘れてたな。










 コンテストの余韻は続き、町のお祭り雰囲気は継続していた。屋台で買ってきた何の肉かも分からない串焼きをほおばりながら、俺はキキたちと話していた。


「えー! もう帰っちゃうんですか? 今日来たばっかりじゃないですか」


 キキの言う事ももっともだが、それなりに魔界を満喫したしな。面白いものも色々見れたし。


「それに明日は日曜日。俺はニチアサのアニメを見なきゃならんのだ」


 日曜日の朝はアニメや特撮のゴールデンタイムだ。見逃すわけには行かない。


 隣ではフィールもうんうんと頷いている。基本昼前まで寝て過ごす俺達が唯一早起きするのが日曜日だしな。


「ニチアサが何かはよく分かりませんが。皆さんがおっしゃるなら大事な事なんでしょうね……」


 何か勘違いしているようだが、説明するのも面倒なので放っておこう。


「そういやフェリシアは、まだ仕事は落ち着かないのか?」


「……ええ、今日もまた誰かさん達が仕事を増やしてくれたおかげでね……」


 恨めしそうに、三本の塔を睨むフェリシア。


 いや、なんというか……正直すまんと思ってるよ。本当に。

  

ここまでご覧頂きありがとうございます。


次回からまた六畳間での日常に戻ります。


秋になりました。食欲の秋、読書の秋、色々ありますが、彼らの六畳間には一風違った秋が訪れているようです。


次回「モンスターの秋」


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