37 魔物討伐コンテスト その3
「ふっふっふ、ここで大トリ、フィールちゃんの登場だね」
地平線を望み、不敵に微笑むフィール。多分言いたいのは真打ちって事なんだと思うが、ここはツッこむのも面倒なので放置しておこう。
フィールは戦闘の準備がもう済んでいるようで、後はキキの開始コールを待つだけとなっている。
「珍しいですね。大天使様が武器を、それも弓を持つだなんて」
隣に座るレフィーエが口を開く。
フィールの右手には、木で出来た大きな弓が携えられている。弓の上部にはピンク色の大きな花の蕾が据え付けられている。
……あいつ、ここに来てがっつりネタに走りやがったな。
フィールが持っている弓は、某魔法少女アニメの主人公が使う弓だ。ちょっと前に二人で見てからドはまりしてるんだよな。
にしても、俺以外誰にも伝わらないのに日本のアニメネタに走ってるあたり、根性入ってるというか、拗らせてるというべきか。
「さあそれでは参りましょう! フィール選手、お願いします!」
司会のキキによる合図で、フィールが戦闘準備を始める。とはいっても、弓に矢を番えて構えるだけなのだが。
あ、ちゃんと蕾が開いて変形した、凝ってるなぁ。
とはいえ絵面的にはめちゃくちゃ地味だ。観客も審査員もイマイチ盛り上がる事が出来ない。さっきのリアと比べるとやっぱりなー。
「地味だね」
「地味ですね」
隣に座るアルトとレフィーエも同じ感想のようだ。そんな俺達をよそに、非常に地味なフィールの攻撃が始まろうとしている。
引き絞った矢は、原作に忠実にピンク色の輝きを放っている。
「クラスの皆には内緒だよっ!」
ああ、最後までしっかりパロっていくのね。
フィールの手から放たれた矢は、放物線を描きながらピンクの軌跡を描く。そして着弾し、ピンク色の爆炎とともに爆発。
……あー、地味だな。
その後に行われた採点も、合計二十八点と振るわず、という結果になった。俺が十点、他の三人が六点だな。
なんで十点をつけたのかって? そりゃまあ完全アウェーの中でネタに徹したあいつの心意気に感銘を受けたというかなんというか。学校のクラスでBLトークをする腐女子のようなパワーを感じたからだ。
ちなみに、倒した魔物はぴったり三百だったようで、そのままフィールの得点は二十八点になった。この時点でリアに負けてるな。
最後に登場したフェリシア。やはり魔王の人気は高いようで、観客のボルテージも最高潮に達しようとしている。
「それではエントリーナンバー3、フェリシア選手の登場です!」
キキのコールで手を振りながら前へと進むフェリシア。やはり人前だと風格があるな。部屋着で畳に寝そべって画面を見つめる姿とはまるで別人だ。
フェリシアは準備の類は必要ないようで、ただ腕組みをして魔物達を睥睨している。
「でははじめましょう! フェリシア選手、お願いします!」
「ふむ、我が力、見せ付けてやろう!」
久しぶりに聞いたな。魔王バージョンの喋り方。
天使さん達による光の壁が解除され、残った魔物達の軍勢がこちらへと殺到する。そういやこいつらなんでこんながむしゃらにこっちに向かってくるんだろう。
「ああ、魔物は目に入った人工物に向かっていく習性がありますからね」
シルから説明が入った。人工物……ああ、あの塔たちがこの魔物を引き付けてるのか。観光客より先に魔物が釣れたな。
おっと、そんな事よりフェリシアの戦いぶりをカメラに収めておかないと。フィールの時は忘れてたからな。
そのフェリシアはと言えば、向かってくる魔物に対して腕組みをして立ってるだけだ。あ、なんか角が光り始めたな。
光り出した角と連動し、フェリシアの足元に魔方陣が広がる。
「出でよ! デモンズ・ゲート!」
ずずず、という地響きと共に、フェリシアの目の前の地面がひび割れ、地中から巨大な黒い門が現れる。大きさは……どんぐらいだ? でかすぎて目測も出来ないな。
門の内側は黒いもやに覆われ、いかにも何か出てきそうな感じだ。
「現出よ、地獄の公爵よ!」
フェリシアの呼び声と共に、門の内側から現れた巨体。門を遥かに上回る大きな体躯と、禍々しさを体現したような姿に、観客も俺達も声を失う。
「地獄の公爵よ! あの魔物の群れから三百匹だ。三百匹を踏み潰せ!」
ああ、そこはちゃんとやるのね。
「あのーフェリシア様、自分そういう細かいのあんま得意じゃ無いんスよねー。あんまし無茶振りされても困るっつーか」
……結構軽いね、地獄の公爵さん。
「つーかこの後合コンなんで、出来れば早く帰りたいんスけど、これって長くなりそうな感じっスかね? 長くなるんだったら後輩呼んでくるんで、自分は帰らして欲しいんスけど」
……めっちゃ軽いね。地獄にも合コンとかあるんだね。というか公爵なのに合コン行くんだね。
「……もう適当でいいから、適当にちゃちゃっとやっちゃって。そしたら帰っていいから」
人選間違えた、という表情で公爵さんに指示を出すフェリシア。口調も普段使いに戻ってしまっている。
「うぃっす。んじゃあらよっとー」
公爵さんが、その巨大な腕を振るい、力任せに魔物の群れへと叩きつける。轟音があたりに響き渡り、とんでもない地響きが伝わってくる。
除けられたその拳の下は、正に死屍累々だ。
「んじゃお疲れっしたー」
バイト上がりの様なテンションで、片手を挙げてこちらに挨拶すると、先ほどの門から帰っていく公爵さん。お疲れ様でした。
まあこんな感じで、フェリシアのターンは終了。微妙な感じだったため、総合点数は26.4点。この時点で、トップはリアだ。
というか、三人の攻撃が終わったけども、そこそこの数の魔物が残ってるな。
「えー、以上三名の攻撃が終了いたしましたが、現在およそ三百匹の魔物が残っているようです。 ここで、飛び入り参加の選手を募集いたします!」
あーなるほど。飛び入りの枠も一応作ってあったのか。つっても、この三人と張り合おうとするやつなんてそうそう……ん?
なにやら頭の上に重さを感じたので触ってみると、どうやらアズが飛び乗って来たようだ。さっきまでその辺をうろうろしてたハズだが、どうしたんだ?
「どうしたアズ。ん? 自分が飛び入りで参加するって? いやいや、危ないぞ。え? あの程度なら大丈夫だって? うーん、つってもなあ」
どうやら、アズはこのコンテストに参加したいようだ。
「あの、ソーイチロー様が抱えているのはスライムですよね? 私にはソーイチロー様がスライムと会話しているように見えるのですが……」
「ええ、私にもそう見えますね。いつからあの人はスライムの言語をマスターしたのでしょうか」
隣でシルとレフィーエが何やら話しているが、俺は今アズとの会話で忙しい。
それにしても、どうしようか。まあアズがやる気になっていることだし、一応フィールたちも一緒にいるから大丈夫か。
「よし、アズ。行って来ていいぞ。くれぐれも怪我はしないようになー」
司会のキキに、アズが参加する旨を伝えて、アズを三人の下へと送り出す。ぽよんぽよんと歩いて行く姿に観客達の視線が集まる。
「え? そのスライムが参加するんですか? 大丈夫なんですか?」
「まあなんとかなるだろ。それにウチの子がやりたいって言ってるんだから、やらせてやるのが俺の役目だ」
「いつからソーイチローさんは親になったんですか……」
そんな訳で、最後の参加者、アズの出番だ。
まさかのアズ参戦、そして次回に続く。
台風が物凄い……フェリシアさんが吹っ飛ばしてくれないですかね。