36 魔物討伐コンテスト その2
魔界編が続く36話です。
「それでは早速始めていきましょう! まずはエントリーナンバー1、リア選手です!」
あいも変わらずハイテンションなキキの司会で、このよく分からないコンテストが始まった。
前方では魔物の大群が、天使さんたちの作った光の壁の様なものにせき止められている。その様子を見たフィールが「ミラー○ォースか……皆もやるようになったね」と謎の感想を溢しているが、別に反射してないのでただの光の壁でいいと思う。
「それではリア選手、お願いします! 目標殲滅数は三百匹、それより多くても少なくても減点となります! では天使の皆さん、壁の解除をお願いします!」
司会の指示によって、先ほどまで魔物をせき止めていた壁が解除され、魔物の進行が再開する。
ドドド、という地響きがこちらまで伝わってくる。安全だと分かっていても、少し萎縮してしまうな。
その軍勢の正面に立つリアはといえば、腰に手を当てて香ばしいポーズをとっている。なんであいつはジョ○ョ立ちをしてるんだろうか。
「いやー、テンション上がってきたぜー。三百って事は実弾だけでやればそんなもんになるだろ」
魔物達に臨むリア。随分と余裕の表情だが、あいつの事だからポカをやらかさないか不安だな。
「よっしゃ行くぜ! 次元武器庫開放! 実弾系全兵装解放! 装着!」
高らかに響いた叫び声と共に、リアの背中部分の空間が大きく歪む。ゆがみは背中を覆いつくして余りあるほどに拡大し、そこから次々と兵器の類が姿を現す。
「おおー、すげーな。なんかアニメみてーだ」
「こういった光景はこちらの世界では見ることは出来ないですね」
シルの感想の通り、近代兵器なんてものの存在しないこの世界の住人達は、いきなり虚空から現れた近未来な兵器に釘付けだ。
「一番から六番をアンカーで接続、七から十二も同様に。全兵装に神経接続、オールコンプリート」
左右に六門づつ、計十二門の兵器がリアの左右に展開される。それぞれガトリングの様なものや、ロケットランチャーっぽい物まで様々だ。
「オプション解放、オートコントロールで別命あるまで待機だ!」
次に歪みから現れたのは、計四機の小型の浮遊するビットの様な兵器。オプションっていうか、どっちかっていうとファン○ルって感じだけどな。
「ヨッシャラスト! 今日は大盤振る舞いだぜ! ウラノスとクロノスを解放!」
おっと、なにやら琴線に触れるワードが聞こえてきたな。
先ほどまでさざなみのようにたゆたっていた空間が、大きく歪む。リアの姿が見えなくなるほどに歪んだ空間から現れたのは、二機の人型兵器。もうお腹いっぱいだよ。
虚空から現れた二体のロボットは、リアに向かって敬礼をすると、その場で静かに両手の兵器を構える。
観客も、それこそ審査員の俺達も目の前に広がる光景に対し、ぽかんと口を開けて見ている事しか出来ない。
リアが兵装を展開している間にも、魔物達はその歩みを進め、確実に俺達の方へと迫っている。その距離は目算で五百メートルくらいか。
「よし、全部問題なく動いてんな。全兵装セーフティー解除、待機状態へ移行だ! 最後に、アンカー起動!」
リアの言葉に連動し、腰部分に広がっていたユニットから、バガンと大きな音を立てて地面に杭が射出され、リアを地面へと固定する。
「アンカー固定確認! んじゃ行くぜ……あ、ソー兄ぃ、動画取っといてくれよ」
急に素に戻るんじゃないよ。ちょっといい感じの雰囲気だったのに。
動画か、そういや一応フェリシアの動画用の一眼レフを持ってきたんだったわ。
「よーし、カメラ回ってるぞー」
「よし、んじゃ行くぜー。お前ら、あーしの力を目に焼きつけやがれ! 全兵装発射!!!」
銃弾と、砲弾と、レーザーと。様々な攻撃が雨あられのように発射され、あたりを凄まじい轟音が支配する。
着弾点はもはや土煙に紛れて、何が起こっているのかは分からないが、絶えず聞こえてくる魔物達の断末魔が銃弾による蹂躙を知らせてくる。
「これは凄いねー。うんうん、ボクは好きかなーこういうの」
腕組みをしながら見つめるアルトも満足げな表情だ。俺もこんな景色を見れて非常に満足だ。
土煙が晴れた先、リアの攻撃の着弾点はもはや原型を留めていなかった。大きなクレーターと、荒れ果てた地面、そこに染み付いた血だけが蹂躙があったことを示していた。
ちなみに、リアの方を見てみれば、何故か攻撃したほうのリアも煤にまみれて真っ黒になっている。
「くそ、七番が暴発しやがった。けほっ」
「……素晴らしい攻撃でした! 以上がリア選手の攻撃になります。それでは、天使さん達による計数を待つ間に、審査員の方々の採点を行わせていただきます!」
あ、リアの醜態には触れない方向なのね。
それはともかく、時間を有効活用して行く訳だな。それにしても、随分と上手く回すじゃないの。あいつの司会っぷり、結構板についてるな。
気がつくと、目の前のテーブルに十本の棒が置かれていた。先端には一から十までの数字が書かれたプレートがつけられている。テレビとかでよく見る採点札だな。というかこれ、こっちの世界の文字だよな、なんで俺読めるんだ?
まあいいや、気にしないでおこう。どうせフィール辺りがなんかしたんだろう。
「それでは皆さん、今のリアさんの攻撃を十点満点で評価してください! それでは一斉にお願いします!」
十点満点か……最後の醜態をどうとるか。面白さ的には満点だが、いきなり十点をつけるわけにも行かないか。ここは基準点として八点にしとくか。
審査員四人が一斉に札を上げる。
「八、九、七、八……合計点数は……三十二点です!」
順番的にはシル、レフィーエ、アルト、俺の順番だ。座ってる順番そのままだな。
まあ、無難な点数なんじゃないのか。先頭バッターだしな。観客もほうほうそんな感じか、という表情だ。
「それでは審査員の方々に講評聞いて行きましょう。それでは、この中では最高得点をつけたレフィーエさん、お願いいたします」
「そうですね。この世界では見ることの出来ない数々の武器、見事の一言でしたわ。思わず見とれてしまいました。これが異界の戦いなのだと衝撃を受けてますわ」
意外とまともなコメントだな。そういやシルも人前では普通な感じなんだよなぁ。というか誰かあの煤まみれに関して触れてやってくれよ。
「ありがとうございます。おっと、ここで計数の方が完了したようです!」
再び観客席からおおーという声が上がる。天使さん達は半々に分かれて、半分は再び壁の維持、もう半分が計数に回っていたようだ。
「それでは発表いたしましょう! リア選手の討伐数は……二百七十体です!」
目標数が三百だから、ぴったり90パーセントか。これはなかなかいい感じじゃないか?
当人はといえば、ちょっと不満げな感じだが。
「やっぱ足りねーか。やっぱレーザー系も入れときゃ良かったな。レールガンじゃしょぼいかもしれねーとは思ったんだよなー」
ああ、さっきのレーザーみたいなのはレールガンだったのか。十分凄かったぞ。あとたぶん、火力が足りなかったのは七番のせいだと思うな。
「リア選手の総合点数は、基礎点三十二点に、撃破倍率を掛け合わせて……28.8点となります!」
なるほど。俺達審査員の点数に討伐数の誤差で補正が入る感じなのか。というかこの世界、数学とか進んでるのね。
まあまあだな、と満足げな表情で佇むリアと、それなりに沸く観客。どうでもいいけど、天使さんたちがまだっすか? という表情でこちらを見ているぞ。さっさと進めてやってくれ。
「はい、それでは次の選手はエントリーナンバー2、フィール選手です!」
キキのコールで、一歩前へと進むフィール。自信に満ちた表情……いや、あれはなんか企んでる時の顔だな。
この間あの表情をしてた時は、夜中のウチに俺の高級アイスを盗みやがったからな。
まあ、期待せずに見守るとしようか。
ここまでご覧頂き誠に感謝です。
本当ならまとめて一話で終わらせる予定だったのですが、何故かリアの部分だけ長くなったので、恐らく全三部になりそうです。