35 魔物討伐コンテスト
遅ればせながら、35話です。
「さあ始まりました! 第一回ナナミシティ魔物討伐コンテスト! 実況はわたくし、オーガのキキでお送りさせていただきます!」
マイクの様な魔道具で拡散されるキキの声と、熱狂する観客。彼らの視線の先には千を越える魔物の軍勢と、それに相対するように荒野に立つリア、フィール、フェリシアの三人。
色々と突っ込みどころの多いこの状況だが、発端はといえば数十分前にさかのぼる。
「いやー悪かったって。久しぶりだったから火力の調整をミスっちまったぜー」
見事な砲撃でトレントごと俺の作った庭園を吹き飛ばしたリアが、全く反省していないような表情で頭をかく。
まあ別にいいんだけどね。別に怒ってないけどね。
「そういや、俺の作った家はいいとしてもあの三本の塔はどうすんだよ。あんなんあっても邪魔なだけだろ」
「いえいえ、リアさんはともかくフィールさんと人界神様は有名人ですから。このナナミシティの観光名所にしますよ」
……なんか今変な単語が聞こえた気がするぞ。
「キキ、お前今なんつった? ナナミシティとか言わなかったか?」
「ああ、この町の名前ですね。町の名前を決めるときにソーイチローさんのお名前を拝借したんですよ。この町が出来る切っ掛けになったのはソーイチローさんですからね」
「なあ、俺それ聞いてないんだけど」
そんな俺の言葉に、あれ? という表情をするキキ。
「シルさんが伝えておくとおっしゃってたんですが……そもそも案を出してきたのもシルさんですし」
……あいつか。どうせおもしろそうとかいう理由だろう。後でとっちめて……いや、喜びそうだからやめておこう。
そんな会話をしている間に住民達もぱらぱらと解散し始めた。そんな時、兵士と思われる格好の青年が一人、こちらへと走りこんできた。
「キキさん! 魔物の大群がこの町に向かって来てます!」
どうやら、まだまだこの町でのイベントは消化しきれていなかったようだ。
町のはずれ。地面がブロック調から荒野へと変わる位置まで移動してきた。地平線には魔物の大群と思わしき砂埃が上がっている。
報告してきた兵士によると、目算で千を越える魔物の大群がこの町に向かっているようだ。
まあ一見危なそうなイベントだが、なにせこちらには世界最強の天使であるフィールがいる。危険はないと思っていいだろう。
「まあ任しといてよ。ここなら適当にぶっ放しても大丈夫そうだしねー」
気楽に構えているフィールを見ると安心できるな。
「いやいやフィー姉ぇ、あーしにもやらせてくれよ。最近兵器使うことが無かったからここらで一発使っときてーんだよ」
どこから出してきたのか、両手にガトリングのようなものを持ちながら高らかに主張するリア。確かにリアの全力っていうのも見てみたい気がするな。
「ちょーっと待ったーーーーー!」
そんな時、上空から声が聞こえてきたと思えば、見たことのある黒い翼が目に入った。
ばすん、と砂埃を上げながら着地したのは、おなじみの黒いドレスに身をまとったフェリシアだ。
「あ、フェリちゃんお久ー」
確かに久しぶりな気がするな。いや、そうでも無いな。二日ぶりくらいか。
続いてシルも着地し、メイド服についた埃を払う。そういやこいつも空を飛べるタイプのやつだったな。
「私にもやらせてもらうわよ! というか何あの塔。こないだ来た時は無かったんだけど、ソーイチローあなたまた何かやらかしたの?」
今回は俺じゃないんだが……というか何か起こるたびに俺のせいにするのはやめて欲しいんだが。
そんな事はさておき、どうやらフェリシアも魔物の討伐に参加したいらしい。この感じだとまたストレスを溜め込んでいるのだろうか。
とまあこんな経緯で、彼女達三人が魔物の討伐に当たることになったのだが、ここで口を挟んできたのが人界神アルトだった。
「それなら三人で勝負でもしたら?」
「いや、フィール一人でも楽勝なんだし、勝負にならなくないか? お互い譲り合って三分の一づつ倒すだけだろう?」
「いやいや、それじゃツマンナイじゃん。ここは芸術性で勝負してもらおうかなって」
「芸術性?」
「そうそう。倒した数とかじゃなくて、どれだけかっこよく、美しく魔物を倒すかで勝負するの」
何それ、メッチャ面白そうなんだけど。参加者になる三人もかなり興味がありそうだ。
俺もかなりノリ気で、アルトと二人で細かいルールを詰めていく。ざっくり決めたのはこんなところだ。
・一人が倒していい魔物は三百匹。それ以上でもそれ以下でも減点となる。
・芸術点は、俺達メイン審査員それぞれが各々に十点満点で点数をつける。
・そのほかに、観客達が各々一点を持ち、一番いいと思った参加者に点をいれる。
とまあ大雑把なルールはこんな感じだ。なんだか日本のテレビ番組みたいなシステムになった。
ぶっちゃけ魔物の襲来っていうある種の危機に対してこんな遊びみたいな事をしてていいのかとも思ったが、町の住民達もそれなりにノリ気なので気にしないでおこうと思う。
とまあこんな感じで、冒頭のキキの実況に続く訳だ。
キキも最初は渋っていたが、いざマイクを握るとノリノリで、人が変わったようだ。
「さあそれでは、参加者のご紹介と行きましょう! まずはエントリーナンバー1。異世界から来たアンドロイド! 赤い髪は熱いハートの表れ! 絶対衝撃完全無欠! 鋼鉄の銃撃少女、リア選手!」
いやもうホントノリノリだな。もはや勢いだけで意味分からんぞ。
審査員席に腰掛けた俺の後ろのほうでは、観客席の住人達がやたらめったら盛り上がっている。いつ作ったのやらリアの名前が入った垂れ幕がかかり、指笛を吹いたり空中に魔法を飛ばしたりと大盛り上がりだ。なんだこの町。やべえな。
リアも気前よく観客席に向かって手を振っている。
「そしてエントリーナンバー2! この戦いの大本命、生きる伝説、世界を守る守護者! 完全無欠! 最強無敵の天使! 昨今ではファンクラブもあると聞きます! 大天使フィール選手!」
おい、完全無欠二回目だぞ。意外とボキャブラリー無いのな。というかなんだファンクラブって。それでいいのか、大天使よ。
俺の心の声もなんのその、観客達は大盛り上がり。お前らもう騒げればそれで良いだけなんじゃないのか? というか最前列におそろいのハッピを来た集団が居るな。あれがまさかフィールのファンクラブってやつだろうか。
当人はといえば、若干表情が硬い。あいつ多人数に注目されるのとか慣れて無いからなー。緊張してるのかもな。
「そしてこの人を忘れてはいけません! エントリーナンバー3! 我らが魔界の長、歴代最強との呼び声も高い押しも押されもせぬ大魔王、フェリシア・ディ・アスタルティア選手ーーーー!」
轟々とした歓声が観客席から滝のようにあふれ出してくる。やっぱり人気あるんだなフェリシアって。
当人も慣れたもので、微笑みながら手を振っている。あ、ちょっと表情が硬いな。あれは「なんでこいつらこんなテンション高いの?」って顔だ。ヨーチューブのコメントを見てるときにこんな顔してたような気がする。
「さて、選手の紹介も終わったところで、次は審査員の紹介ダァーーー!」
もうテンションおかしなっとるやん。お前間違ってもダァーとか言うタイプじゃないだろうに。
観客ももう盛り上がり方が適当すぎるだろ。声出せばいいって訳じゃ無いぞ。
「本日は四人の審査員をお招きしています! まずは魔王国より、最強のメイド、シルさんです!」
キキのアナウンスに従って、ゆっくりと席から立ち上がって観客に向かって一礼をするシル。うん、黙ってりゃ綺麗なメイドさんなんだよな。
そんな俺の視線を感じたのか、こちらを見てぶるりと一度身震いするシル。ああ、ダメだこいつ。
「そして天界より、天使長レフィーエさんです!」
ここでキキより、先ほどふらりと天使達を連れてやってきたレフィーエの紹介が入る。天使さん達はこのイベントの補佐、主に採点中の魔物たちの足止めや、選手が倒した魔物の計数などをやってくれるようだ。
……だからなんでどいつもこいつもこっちを見て身震いするんだ。座ってろ。
「そして、人界神アルト様です。今回のイベントの発起人であり、この町の発展の立役者です!」
その言葉に、観客達から惜しみない拍手が送られる。まあほぼ一人でこの町を作ったんだもんな。動機はあれとして。
「そして最後に、我らが異界の大賢者、ソーイチローさんです!」
その瞬間、どっという歓声が観客席から響く。おいおい、俺はなんもしちゃいないぞ。ただ切っ掛けを作っただけだってのに。
……とはいえ、感謝されるのは悪い気分じゃないな。異界の大賢者ってのは勘弁して欲しいけど。というかこの前まで異界の賢者じゃなかったか? いつの間に大賢者になったんだよ。
そんな疑問を持ちながら、ふと隣を見てみると、シルが視線を逸らしたのが目に入った。お前か。
そんなこんなで始まったこのよく分からないコンテスト。今まで皆が戦うのは見たことが無かったからな。ちょっと楽しみだ。
コンテスト本編は次回に続きます。
ちょっと間が開いてしまいましたが、ちゃんと生きてます。