34 それぞれの芸術 ~フィールと蒼一朗の場合~
リアルマ○クラ編最終話の34話です。
「さて、次はわたしの番だね!」
なぜ、どいつもこいつも自信満々なのだろうか。今までの二人は自信満々で欠陥住宅と粗大ゴミを見せてきたからな……フィールもおかしなものを作っていないか不安だ。
「まあまあ、わたしはあそこの二人とは違うよ! 年季が違うからね、年季が」
薄い胸を張りながら、むふーと鼻息荒く語るフィール。いや、お前もプレイ暦二週間くらいだろう。やり始めたの九月に入ってからじゃん。
「まあいいか、それじゃあさっさとフィールの塔のところまで行こう。あ、今度は空間転移無しで頼むな」
「えー、それは面倒だなー。じゃあ他の皆は空間転移で移動させて、ソーイチローだけ一緒に飛んで行こうか」
それでお願いします。もう転移はいやなんです。
フィールに吊り下げられながら移動し、彼女の建てた塔の下にまでたどり着いた。
「意外と普通だな……」
「普通ってこの場合褒め言葉なんだよね?」
まあ先の二人があんな感じだったしな。普通は褒め言葉だ。
フィールの建てた塔は、なんというかサグラダ・ファミリアみたいな西洋風の塔の集合体だ。
「さすが漫画家、こういうのはお手の物ってか」
「まあね。まあパクリだけど」
パクリ言うな。
周りの住人達も、おーと声を上げて感嘆している。完成度も高いし、何より見るものを圧倒する威圧感があるな。
隣を見てみれば、リアとアルトが膝をついている。完全に心が敗北を受け入れたようだ。
「く……さすがフィー姉ぇだぜ……」
「これは……僅差で負けたね……」
いや、圧倒的大差で敗北だと思うぞ。野球なら三百点差はついてるな、逆境○インでも逆転不可能な点差だ。
「中も結構凝ったからね。見てみる?」
「ああ、入ってみようか」
うなだれている二人は放っておいて、俺達はフィールの建築物の中を見てみることにした。
中に入ってみると、そこに広がっていたのは西洋風の大聖堂のような場所。正面には巨大な十字架が掲げられている。やはり天使っぽい感じを出してるのか?
「ん? いやデカイ十字架ってかっこよくない?」
違った。ただのかっこよさ重視だった。
それを抜きにしても、なかなかの完成度だ。あちらこちらに点在する大きな柱は全て石で作られ、何種類かの石を組み合わせる事でらせん状に模様を作り出している。
正面奥の両側には巨大な階段が設えられ、上に上がることが出来るようだ。
「それにしても、よく半日でここまで手の込んだものを作ったな。大分頑張ったんじゃないか?」
「いやまあそこは部下を召喚したから」
「部下?」
俺がそう聞くと、フィールはパチンと指を鳴らそうとして……失敗した。
恥ずかしそうに顔を赤らめるフィールをよそに、フィールの後方で眩い光が輝き、十人ほどの天使が現れた。
「天使長レフィーエ以下十名。大天使様の召喚に応じて参上致しました。ご用命は……どうされましたかフィール様。そのように顔を赤らめて。発情期ですか?」
フィールの後ろに現れた、天使長と名乗った天使がフィールに声をかける。
なんというか、そう、爆乳だ。今まで出会った人物の中でも群を抜いて巨大な胸が高らかにその存在を主張している。
「おや、おやおや、そこにいる男性はもしかしてソーイチロー様ではありませんか?」
その爆乳天使が俺の方へとずいと一歩踏み出し、一瞬で距離を詰めてきた。おい近い近い近い!
「あ、ああ。俺がソーイチローで間違いないけど」
「なるほど、ご尊顔拝謁賜り誠に光栄でございます。私は天使長レフィーエ。以後お見知りおきを」
俺の両手をその両手で包み込みながら、そのまま胸元へと持っていくレフィーエ。おいちょっと当たってるから!
「あ、ああ、よろしくな。あの……手を離していただいても?」
距離が近いしなんか凄いいい匂いがするし、なんかヤバイ。なんかクラクラしてきた。
「おっと、少し体調がよろしくないようですね。この建物には休憩室もございますので、そちらに移動しましょうか」
俺の手を引いて移動しようとするレフィーエ。やばい、頭に靄がかかったように何も考えられない。足が勝手にレフィーエについていこうとしてる。
「ちょー! 何してんのレフィーエ! ストーーップ!」
フィールがどこからか取り出したのか、巨大なハリセンでレフィーエの頭を引っぱたく。
「ソーイチローも何ついていこうとしてんの!」
同じように、巨大なハリセンが俺の頭を襲う。今まで靄がかかったようだった視界が、一発で晴れた。
はっ、俺は今まで何を……
「レフィーエ、あんたって娘は……」
「申し訳ありませんフィール様。うら若き青少年を見て私のリビドーが暴走してしまったようです」
悪びれもせずにそう言ってのけるレフィーエ。ああ、なるほど、ビッチか。
「このビッチ天使が……というかレフィーエ、あんたソーイチローに催淫魔法使ったでしょう?」
「いえいえ、使おうと思ったわけでは無いのですが、私の本能が」
はあ、とため息を溢し肩を落とすフィール。なんつーかシルといいこの世界のナンバーツーはおかしなやつばっかりなのだろうか。
「それではソーイチロー様。次回出会う時は閨を共に出来る事を期待しております」
そう言いながら、レフィーエは華麗に一礼して去っていった。強烈なやつだったな。
「というか、別にあの娘は呼んで無かったんだけどね……絶対ソーイチローに会いに来た感じだね……」
急に疲れたような表情で、ぐったりと喋るフィール。なんか苦労してるんだな。
「確かに強烈な人だったな。なんつーか、エロかったな」
「普段は女の子しか興味無いはずなんだけどね……ソーイチローって変なやつにモテるよね、なんか」
自分の部下を変なやつって。まあたしかにシルもそんな感じだったな。なんだろう、あんまし嬉しくないな。
「まあ気を取り直して次行こっかー。次のソーイチローの建物で最後だねー」
元気出せよ、と頭の上のアズがフィールの頬をぷにぷにとつついている。そういやアズもフィールの頭の上に乗るようになったのか。仲良くなってきているようで何よりだ。
さてやって参りました最後の建物。俺の作った日本庭園付き武家屋敷だ。
ぶっちゃけさっきのフィールのサグラダ・ファミリアの後だとインパクトが薄いな。
周りの観客達もへーという感じで反応が薄い。
「ソーイチローってこういうところおじいちゃんっぽいよね」
失礼な。日本家屋はロマンが詰まってるんだぞ。
「なんかフツーだな」
リアが頭の裏で腕を組みながらつまらなそうに感想を溢しているが、お前のオブジェよりはマシだと思うぞ。
「うーん、これならボクの塔といい勝負かな」
何を言ってるんだお前は。蟻塚と勝負の土台に乗せないでくれ。
「うわ、庭まで作ったんだ! というかソーイチロー、普通の木とか砂利とか使ったんだね。この発想は無かったよ」
そうだろうそうだろう。フィールが見ているのは俺が一番力を入れた日本庭園だ。砂利と岩を使って枯山水まで再現しているからな。まあ適当に敷き詰めてババアの魔法でそれっぽい模様を描いただけだけど。
縁側に腰掛けながら、自ら手がけた日本庭園風の庭を眺める。うん、日本茶が欲しくなる光景だな。
そんな風に落ち着いて居ると、突然風景が動き出した。ん? 庭には誰もいないハズだが……
「あー、あれトレントじゃん」
トレントってあれか、動く木のモンスター。どうやらキキが運んできた木の中にモンスターが混じっていたようだ。
「なんだあれ、モンスターってやつか! よっしゃ、それならあーしに任せてくれ!」
トレントが視界に入るやいなや立ち上がると、楽しそうにいくつかの装備を展開させるリア。さっきも思ったが、どう考えても出てくる装備の大きさが身体の中に入ってたとは思えないんだが。
そんな俺の疑問をよそに、ぎゅいんぎゅいんと音をたてながら何やら謎のエネルギー的なものを充填していくリア。おいおい何をぶっ放そうとしてるんだコイツは!
「行くぜ! 収縮粒子砲!!!」
止めるまもなく、右手を前に突き出したカッコイイポーズと共に放たれた青白い色の極太レーザー。
放たれたその攻撃は、トレントもろとも俺の日本庭園を消し炭へと変えていき、空へと消えていった。
残ったのは、無残な姿へと変貌した俺の日本庭園と、小さな形へ変わったブロックの山。まるで大量のク○ーパーが一斉に爆発したかのようだ。
やってやったぜ、と額の汗を拭くリア。おまえアンドロイドなんだから汗とかかかないだろうが。
そんなこんなで、俺達のリアルマイニングクラフトコンペは、俺の心に大きな傷を残して幕を閉じた。そういや勝ち負けとか特に決めて無かったわ。
ここまでご覧頂きありがとうございました。
ちらっと登場した新キャラ、エロ天使レフィーエでした。本当にこの世界変なやつしかいないですね。
次回も魔界の村を探索します。
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