33 それぞれの芸術 ~リアとアルトの場合~
本日二話目の投稿です。
キキとババアと話しながら、俺も俺の建築を進めていこう。
うーん、ブロックを出したり崩したりは出来るけど、ぶっちゃけ肝心の俺のスペックが問題だよなー。高いところとか普通に怖いしな。
リアルで高層ビルとか作ってみたかったけど、ここは平屋で我慢しておこうか。
「えっと、人界神様達と建築物のコンペをするのは分かったんですけど、ソーイチローさんはどんなものを作ろうと思ってるんですか?」
「あー、どうしようか。普通に日本家屋でもつくろうかな」
「にほんかおく、ですか?」
「ああ、俺の国の伝統的な建造物だな」
幸い土地自体がべらぼうに広いので、庭までしっかり造ることが出来そうだ。
「あ、どうせならキキとババアにも付き合ってもらおうかな」
「別に手伝うのはええが、何をすりゃええんじゃ?」
「なんか適当に庭に置く木とか岩とか持ってきて欲しいんだよ。庭の植物とかまでブロックじゃ味気ないからなー」
リアルだからこそ出来る事だよな。ブロックとリアルの物体の共演は。
よし、だいたいは完成してきたな。やっぱりブロックで作ると早いな。ものの二、三時間で立派な一軒屋が完成してしまった。恐るべき建築スピードだ。
「ソーイチローさん、取ってきましたよー」
「こんなもんでええかの」
丁度良いタイミングで、二人が帰ってきたようだ。内装をいじるのを辞め、庭部分に出る。
庭になる予定の部分には、二人が取ってきてくれた木々や岩などが山積みになっている。木々はどれも魔界っぽい感じで、良い具合に禍々しいな。
「ソーイチローさん、あの……あれって……」
みなまで言うな、俺も気になっていた所だ。
キキの視線は俺の建てた家ではなく、遥か彼方へと向いている。無理も無い。今俺達の視界には、町の外れに三本の巨大な塔が建設されている様子が映っているのだから。
あいつら……そろいも揃って塔の建設をはじめやがった。まあ確かに大きさとかは指定していなかったが……
「まあ、とりあえず見なかった事にしよう」
「はあ、そういうもんですかね……」
非常に複雑そうな表情のキキだが。俺にあいつらの暴走を止める力は無い。まあ勝手にやらせておこう。
「坊主、お主意外と芸術肌じゃのう」
ババアが俺の建てた平屋を眺めながら、そんな感想を溢す。まあ小説家だからな。関係ないけど。
「どうよこの立派な日本家屋は」
イメージ的には武家屋敷だ。外壁は真っ白い石で統一し、屋根には丸石の階段を使って瓦屋根を表現している。
家の外はぐるっと一周壁と同じ色の塀で囲ってある。まあぶっちゃけ必要無いかも知れないけれども。
「あとは庭だな。キキ、俺には持てないから頼むな」
「了解です」
「わしは休んどってええのか?」
「出来たらあの石を適当に砕いておいてくれると助かる」
「分かった」
そんな感じで、仕上げをすすめていこうか。
それぞれが建築を始めてから半日程度が経過した。来た時は朝だったのに、気がつけば夕方だ。
俺達は町の中心へと集まっていた。
「皆完成したみたいだね」
「あーしのは自信作だぜ! 見たら腰を抜かすと思うぜー」
リアが腰に手を当てて自信ありげに無い胸を張っている。いや、見たらってお前、既にほとんど見えてるから。あの馬鹿でかいビルみたいなやつ。
ちなみに、この場には俺達に加えて、キキやババア、そして町の住人達も集まってきている。どうやら俺達が珍妙な事を始めたせいで何事かと集まってきたらしい。
あたりを見渡してみれば、露店なども出て来てちょっとしたお祭りみたいな感じだ。ちらほらと見た事のある顔もある。果ての村に居たやつらだな。
「じゃあリアの作品から見ていくか。フィール、ここの全員転移頼むわ」
住人達も俺達の作品を楽しみにしているようなので、どうせならと一緒に連れて行く事にする。へいへい、とフィールが魔法を発動させると、視界が歪んでいく。
あ、そういや転移酔いやばくねえか俺。
案の定、視界がぐるぐると回り、猛烈な吐き気が襲ってきた。
「あ、ごめん忘れてたよ」
ごめんごめん、というフィールの軽い謝罪も耳に入ってこない。あ、でも前回よりは酷くないかも。
「まあ短距離転移だから、すぐに治ると思うよー」
フィールの言葉のとおり、視界はすぐ正常に戻り吐き気もおさまってきた。
「ソー兄ぃは貧弱だなー。これだからインドア系は」
こればっかりはインドア系とか関係ないと思うが。まあインドアなのは否定しないが……
ふう、やっと五感が正常に戻ってきた。
視線を地面から目の前へと上げてみれば、それはそれは近代的な高層ビルが目に入ってくる。近代的って言うか、近未来的な感じか?
二本の巨大なビルが、透明なチューブの様なものでつながれ、屋上部分には二つのビルを貫いて巨大な球体が鎮座している。
ちょっとフジ○レビみたいな感じにも見えるな。
「これがあーしの作品だぜ! どうよこのデカさとパワー!」
パワーに関しては訳が分からないが、でかい事はでかい。階数だと、三十階くらいだろうか、窓の数でいうとそんなもんか。
「これはな、あーしの居た世界のビルをイメージして作ったんだ。あのでっかい丸いのは日本の建物を参考にしたけどな」
やっぱモデルはフジ○レビだった。まああんな場所に球体をつけようなんて発想はなかなかどの世界でも生まれてこないみたいだな。
リアのぶち建てた建物を間近で見た町の住人達は、誰も彼もがぽかんと口を開けて上を見上げている。この世界にこんな馬鹿でかい建物は無いだろうし、無理も無い。
「それで、どっから中に入るんだ? どうせなら上まで上ってみようぜ」
「え? 入り口とか作ってねーけど?」
……欠陥建築もいいところじゃねえか。
リアに話を聞くと、どうやらガワだけを作ったようで、中身はすっからかんのようだ。正真正銘ただデカイだけのオブジェだな。
「というかこんなデカイのどうやって作ったんだ? お前空とか飛べないだろ?」
ちょっと気になってた事を聞いてみる。フィールは天使だし、アルトは神様だから空を飛ぶのは知っているが、もしやリアも飛べるのだろうか。
「ん? ああ飛べるぜ、こんな感じで」
ガションガションと音を立てて、リアの背中から何やら機械の羽の様なものが広がっていく。腰の辺りからはバーニアがゴンと突き出て、その装いはまるで武○神姫やコズミックブ○イクのロボ娘のようだ。
ごうごうと音を立てて空中に浮かぶリア。とりあえず手持ちの一眼レフで撮影しておこう。
という事は飛べなかったのは俺だけかよ、ちくしょう。
「それじゃあ次はボクの番だね!」
そう高らかに宣言するアルトだが、もう遠くから見ただけで残念な感じなのが分かりきっているだけに反応しづらい。
「じゃあ今度はボクが皆を転移するね!」
そう言うやいなや、いきなり魔法を発動させるアルト。ちょ、ちょっと待ってくれ、お前はさっき俺が転移酔いでダウンしたのを見ていなかったのかよ!
そんな俺の心の叫びは届く事無く、視界は歪んでいく。あー、ダメだこりゃ。
まあ案の定、再び転移酔いでダウンした。というか何で転移酔いって回復魔法が効かないんだろうな。死者すら蘇生するフィールが転移酔いを治せないっておかしいだろ。
もはや怒りの矛先がこの世界の摂理に向きはじめた所で、今回の転移酔いは終わりを告げた。
「どうだいソーイチロークン! ボクの渾身の一作は!」
どうでもいいけど、次からは気をつけて欲しい。本当に。いやマジで次は多分吐くから。
全く悪びれていないアルトだが、まあ仕方が無い。神様は酔ったりしないもんな。神様に庶民の気持ちは分からんとですよ。
「うわーこれやべーな」
「これは近くで見ると予想以上に酷いね……」
リアとフィールの感想を聞くに、アルトが超ド級の粗大ゴミを作り出した事は想像に難くない。
どんな反応をしようか悩みながら顔を上げてみると、そこには想像以上に酷い物体が堂々と鎮座していた。
「いや、これは……」
なんと言ったらいいのだろうか。もはや言葉も出てこない。なんだろう、子供の落書きをそのまま形にした、とでも言えばいいのだろうか。
基本的には塔なのだが、ところどころ歪に突き出し、窓の形もまちまちだ。
ああ、どこかで見たことあるような気がしていたが、テレビで見た外国の蟻塚だ。あれがこんな感じだった気がする。
「どうだいソーイチロークン。個人的にはかなりの傑作だとおもうよ!」
うん、まあそうだね。傑作だとは思うよ、悪い意味で。
「なあ、ところどころから水が流れてるんだけど、あれは一体どういう意味があるんだ?」
「おしゃれだね!」
自信満々にそう言うアルトだが、もはや倒壊寸前の建物から水が漏れているようにしか見えない。
周りの住人達の反応をうかがってみるが、誰も彼もが微妙な表情だ。まあ確かに神様の手前なんともいえないだろう。
一部、「これが芸術というやつなのか……」と納得している人たちもいるが、それは違うと思うよ。
「中にも入れるようになってるけど、上ってみる?」
謹んで遠慮させていただきます。
思いのほか長くなりましたので、次に続きます。
リアが変形しました。第二形態です。
コズミッ○ブレイクとか伝わるんですかね。興味ある方はググって見てください。