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31 六畳間と駄菓子

第三十一話です。

 マツタケ事変の翌日、リアは学校、フェリシアとシルは仕事で魔界へと行き、この六畳間には俺とフィール、アズだけが残されていた。


「ソーイチロー、家にめっちゃゾンビ湧いてるんだけど」


「んなばかな、死ぬほど松明置いたはずだぞ」


「あー、一階の壁が匠に吹き飛ばされてるねー」


 まあいつもと変わらない日常だ。二人でマイニングクラフトをだらだらとプレイしていた。


 どうやら俺達の作った家の一角が爆発するモンスターに吹き飛ばされてしまったようだな。


「適当に土で塞いどいてくれ、後で綺麗にしとくから」


「というかソーイチロー今どこに居るのさ」


「分からん」


 俺はといえば、絶賛迷子中だ。見たことの無い景色がパソコン上に映し出されている。


 隣では、自分のパソコンから目を離したフィールが、「なにしてんのさ」という視線をこちらに向けている。しょうがないだろう、方向音痴なんだから。


 そんな感じで二人でゲームをしながら過ごしていると、スマホから着信音が鳴った。こんな時間に誰だろうか? 編集さんならラインでメッセージが飛んでくるはずだから違うか。


「げ、大家の婆さんだ」


 スマホの画面に表示されていたのは、このアパートの大家の番号だ。なんの用だろうか、家賃はちゃんと引き落とされていたし、電気代とガス代も未納は無いはずだけど。


「もしもし、ああ、え? 今からですか? ああはい、じゃあ今から行きますわ」


「どうしたのソーイチロー?」


「なんか渡すもんがあるから来いってさ。ちょっと行ってくるわ」


 大家の家はこのアパートの真裏、ちょっくら行ってくるか。









「たでーま」


「おかーり、で結局何だったの?」


「これだ」


 大家から受け取った二箱のダンボールを畳の上に置く。見た目よりも軽かったな。


「なんすかこれ? あ、ソーさんチーッス」


 いつの間にか部屋に現れていたヤスヒロの軽い挨拶が聞こえてくる。あいかわらずのブタ顔だな。


「いや、なんかウチの大家がしばらく入院するんだと。それで店の在庫を貰ってきたんだ」


 喋りながら、ダンボールを開封していく。中に詰まっていたのは、無秩序に詰め込まれた駄菓子の山だ。


 ウチの大家は老後の暇つぶしとして駄菓子屋を経営している。駄菓子の賞味期限は長いものも多いが、入院がいつまで続くか分からないというのでアパートの入居者にあげようということになったらしい。


 まあ連絡が取れた入居者は俺だけだったらしいが。まあこのアパートの入居者は変なやつが多いしなー。


「うわ、これ凄いっすね。これとかめっちゃ懐いっすわ」


 ダンボールの中から、きなこの棒を取り出して眺めているヤスヒロ。そういやこいつ日本からの転生者だったな。


 フィールはといえば、なんじゃこらという表情だ。そうか、駄菓子とかあんまり見たこと無いか。近くのコンビニも駄菓子とか売ってないもんな。


「あー、どっかでみた事あると思ったら、こないだソーイチローが見てたアニメに出てたやつだ」


 そういや見てたな、ちょっと前に。駄菓子を主題にしたアニメ。俺あのアニメめっちゃ好きなんだよ。二期が十五分アニメになってて残念だったわ。


「これとかガキん頃めっちゃ食いましたよ、このめっちゃ長いグミみたいなやつ」


「ああ、なんか平べったいやつか。俺もよく食べたわー、コンビニで三十円とかで売ってるんだよなー」


 ヤスヒロが取り出した、グレープ味とコーラ味の平べったいソフトキャンディ。どうせなら一個食べてみるか。


「ほれ、フィールも一個食ってみろよ」


「何これ? 一反木綿?」


 んな訳無いでしょうが。


 袋を開け、相変わらず粉まみれのそれを噛み千切る。ん、思ってたよりも固いような気がする。


「んー、甘っ。どのへんがコーラなのか分からないけど、癖になりそうな味だね」


 はむはむと食べているフィールを横目に、ぐるぐると巻いて一塊にして口に放り込んでいるヤスヒロ。もうそれペーパー状である意味が全く無いな。


 にしても、久しぶりに食べる駄菓子ってのは良いもんだな。








「うわ、何これ。自分でうめえって言っちゃってるよ。ハードル上げ過ぎじゃない?」


 フィールが持っているのは、駄菓子界のレジェンド。誰しも一度は食べた事はあるであろう十円駄菓子、うめえ棒だ。


「フィールさん、それの事をあんまし舐めちゃいけないですよ。自らハードルを上げ、それを乗り越える。十円でありながら食べるものを裏切らない最強の駄菓子なんすから」


 ブタ顔ながら、キメ顔を作ってフィールへと語るヤスヒロ。その右手にはたこやき味とめんたい味、そしてコンポタ味が指の間に挟まっている。いや、その組み合わせはどうなんだ一体。


「そこまで言うなら一本食べてみよーかなー。どれどれ……」


 袋を開け、口に運ぶ。そのたびにぼろぼろと粉がこぼれているが、そんな事はお構いなしに食べていくフィール。後で掃除が面倒そうだなー。


「おわ、うまっ」


 そう、うめえ棒は美味いのだ。十円なのに、自分でハードルを上げているのにちゃんと美味い。凄い事だよなー。


「みてくださいよフィールさん。うめえ棒はこうやって組み合わせる事で無数の味を作り出すことが出来るんですよ!」


 ドヤ顔でバリバリとまとめてうめえ棒を口に入れているヤスヒロだが、食べているのは納豆味とチョコレート味だ。それは流石にやべえだろ。


 フィールもうええ、という表情だ。想像するだけで気分が悪くなる組み合わせだな。


「でも組み合わせるってのはちょっと面白そうかも。でも一本が大きいから何本も一緒に食べれないよね」


「それなら任せろ、俺が中学の時に斉藤君に教わった必殺技がある」


 ちゃぶ台の上に置いたうめえ棒に、右手と左手の中指を重ねて置き、絶妙な力加減で押しつぶす。


「誰なのさ斉藤君。っていうか潰しちゃったけど、混ぜて流し込む感じ?」


「いやいや、そんな無粋な真似は出来ないって。みて見ろほら、綺麗に四等分になってるだろ?」


 袋を開けると、中のうめえ棒は縦に割れて綺麗に四等分されている。これが斉藤君直伝のうめえ棒割りだ。


 これを四本分やって、別々の味のうめえ棒を組み合わせて一つのうめえ棒にする事で、一本分の大きさでミックスうめえ棒が作れるって訳だ。


「なんか凄いのかしょーもないのか分かりづらいね……」


「しょーもないっすね」


 しょーもない言うんじゃないよ。当時の斉藤君はこれで天下を取るって息巻いてたんだから。


 そんなしょーもない特技を披露していると、今まで出窓で日光浴をしていたアズがとてとてと近寄ってきた。


「なんだ、アズもうめえ棒が食べたいのか?」


 ぷるぷると震えるアズ。触手を伸ばしてめんたい味をつんつんとつついている。これは開けてくれって事かな?


 袋を開けて手渡してやると、そのまま触手で本体の方へ運ぶと、その頂点に突き刺して食べ始めた。


「なんか、凄い絵だね……」


 スライムの頭にうめえ棒が突き刺さっている。ヤスヒロは何かがツボに嵌ったのか、次々とうめえ棒を開けてはアズの頭に突き刺していく。


 しまいには、アズはうめえ棒まみれになってウニのようになっていた。まあ本人は満足げだしいいか。







「にしても凄いねー駄菓子ってのは。めちゃくちゃ種類あるし、安いし美味しいし。なにより食べてて楽しいね」


「まあなー。つっても最近じゃあんまし見かけなくなってきてるけどなー」


 コンビニなどでも昔ほど駄菓子を置いているところは見かけなくなってきた。まああるっちゃあるけど、昔の様な駄菓子はなかなか見ることが無い。


 さっき食べたうめえ棒も、消費税が上がってからはあまり見かけなくなったな。


「俺は好きなんだけどな、駄菓子。こうやって食べてると昔妹と駄菓子屋に通ってた頃を思い出すんだよなー」


「え? ソーさん妹とかいたんすか?」


「初耳なんだけど」


 あれ、フィールにも話してなかったか。


「まあな。つっても義理の妹だけどな」


「義理の……妹……最強の……属性……」


 フィールが何故か深刻そうな表情になってぶつぶつと呟いている。まあどうせ下らないことだろうし放っておこう。


「ソーさんって意外と鈍感系主人公って感じっすよね」


「……? 何の話だ?」


「いやー別に何でもないっす」


 おかしなやつらだ。


 妹か、今どこで何してるんだろうな。数年前に置手紙一つ残して失踪しちまったからなー。なんだっけか、『ちょっと世界を救ってきます』だったか。


 案外異世界召喚とかされてるのかも知れないな。



ここまでご覧頂きありがとうございます。


今回は駄菓子の話。というかほぼう○い棒の話でした。個人的にはめんたい味に粉チーズをふってライターで炙るのが美味だと思います。


実は作中で最も謎なキャラクターである主人公の秘密が少し明らかになりました。もうちょっとしたら登場するかもしれません、妹。


次回は再び魔界へと赴きます。感想や評価を貰えると嬉しいです。

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