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30 秋の味覚 ~魔界の場合~ その3

唐突に深夜投稿。ようやっと三十話です。


まさかマツタケで三話もやるとは……

 マツタケの朝は早い。


 日の出と共に目を覚まし、木々の間から注ぐ日差しを一身に浴びる。


「ソー兄ぃ、今日もいい天気だな」


 同僚のリアから掛けられる言葉を背に、今日も空を見上げる。


「ああ、そうだな。今日も良い一日になりそうだ」


 マツタケに日差しが必要なのかは知らないが、気持ちいいものは気持ちいい。隣に生えているリアも、目を細めて上を見上げている。


「なあソー兄ぃ、あーし達って前からこんな感じだったっけ?」


 何言ってるんだ。前からこうやってのんびり暮らして来ただろうに。いや、もう何人か居たような気がしないでもないな。


 まあ深く考える事でも無いか。



 



 昼もただただ空を見上げて過ごす。マツタケの一日は短い。


 光陰矢のごとし。時は一瞬で流れ、空の動きが目で追える。


「あ、なんか凄いでかい鳥飛んでった」


「なんじゃありゃ。本当に鳥か?」


 ジェット機の様な大きさの鳥がけたたましい鳴き声と共に上空を飛んでいった。まあマツタケを食べるような生物はここらには居ないとマツさんが言っていたので、その点は心配ない。


「なあソー兄ぃ。今日も天気がいいな」


「ああ」


 イマイチ会話が弾まないな。会話の半分くらいが天気の話だ。


『おうお前ら、ここでの生活は慣れたか?』


 先輩のマツさんが話しかけてくる。彼もまた、空を見上げて動く事は無い。


 彼に生返事を返し、俺もまた空を見上げる。






 夜も空を見上げて過ごす。


 木々の間からは、満点の星空を見ることが出来る。


「今日も星は綺麗だな」


「つっても毎日見てると飽きて来るよなー。あ、流れ星だぜソー兄ぃ。願い事しよーぜ」


「なんも思いつかねえわ」


 願い事が何も思いつかない。別に何かしたいとか無いしなー。


「あーしもなんも思いつかなかった」


 なんて空虚な会話だろうか。





 朝が来て、昼が過ぎ、夜が来る。


 何度繰り返しただろうか。もはや意識は空気中に溶けていき、四六時中まどろみの中にいるようだ。


 意識と無意識の境界は定かではなくなり、ただマツタケであることだけが己のアイデンティティとなっていく。


 俺は……誰だったっけ? マツタケに名前なんて無いか。


「――イチロー」


 声が聞こえる。聞き慣れた声の様な気がする。


「ソーイチロー!」


 よく響く声だ。まるで耳元で響いているようだ。


「だめだこりゃ、えい」


 その瞬間、目の前が白く染まり、頭に電流が流れた。







「あばばばばばば」


 電流が、頭が……!


「はっ」


「良かった、目が覚めたみたいね」


 目の前には、フェリシアとシルが心配そうに俺のことを覗き込んでいる。さっきのはなんだったんだ、夢……か?


 隣を見てみれば、フィールが両手を広げた状態でこちらを向いている。さっきの電流はあれか、フェリシアが前に食らってたやつか。


「なんだったんだ今の。マツタケだったぞ、俺」


「ごめんねソーイチロー。耐魔力が低い人が食べると催眠状態になるのよ、マツタケって」 


 なるほど、さっきのが催眠状態ってことか。確かに途中から自分がマツタケであると心から信じこんでたな。


 隣ではフィールが先ほど俺にしたように、リアに対して例の技を使って現実へと引き戻している。というかリアに関してはアンドロイドなのに催眠されたってことか。


 マツタケが凄いのか、リアがぽんこつなのか。


「とりあえず、二人には耐魔力が上昇する魔法をかけたから、もうだいじょーぶだと思うよー」


 ぐっと親指を立てながらニヤリと笑うフィール。感謝はしているが、もうちょっとマシな起こし方は無かったのだろうか。トラウマになりそうだ。 


「あー、頭いってえ……あれ、あーしはマツタケ、じゃ無い?」


 リアも無事に現実に帰ってこれたようだ。少し混乱しているようだが、放っておいても大丈夫だろう。


 改めて目の前に広がるマツタケ料理の数々を見ても、イマイチ食欲が沸いて来ない。さっきまで自分達がマツタケだったからなー。


「ソーイチロー食べないの? もう食べても大丈夫だよ?」


「いや、なんというか……こればっかりは一度マツタケになったことのあるやつにしか分からないというか」


「そーだな、あーしもイマイチ食欲わかねーわ」


「そういえば、マツタケの催眠にかかると自身がマツタケになる夢を見る、という話がありましたね」


「あれって本当だったんだ」


 シルとフェリシアが何やら言っているが、何故噂話程度の情報なのだろうか。そうか、魔族はマツタケ程度の催眠などかからないと、そういう事ですか。


 俺とリアの恨めしい視線をよそに、ぱくぱくとマツタケ料理を平らげていくファンタジー世界の住人達を見ながら、俺はマツタケはもううんざりだと空を見上げたのであった。


 まあ視界に入ってくるのは天井だけなんだけどな。やばい、空を見上げるのが癖になってるようだ。









「そんで、マツタケになるってどんな感じだったのさ?」


 夕食の後片付けをしていると、フィールがふとそんな質問を投げかけてきた。


「マツさんと空を見上げたよ。魔界の空は綺麗だな」


「マツさん?」


 俺とリアだけが分かっていればいいさ。等身大のマツさんは激シブで、何でも知っていた。


 大型モンスターが近づいてきても動じず、嵐の日もニヒルな笑みで俺達を励ましてくれた。


 俺の、心のアニキだ。


「何ソーイチロー。気持ち悪い顔してるよ」


 気持ち悪い言うんじゃないよ。俺だって今のはちょっとキモかったかなって思ってるんだから。


「ねえソーイチロー、余ってるカップラーメン持ってっても良いかしら?」


 畳に横になりながら、またしてもハンターと化しているフェリシアが何か言ってるな。カップラーメンか。確かにあの福引で当たったやつがまだ余ってるな。


「別にいいけど、どうしたんだ?」


「また一週間くらいはこっちにこれそうに無いのよ。カップラーメンがないとやる気が出ないの」


 ほお、最近忙しそうにしてたが、また社畜の道を歩き出したのか。


「他人事みたいな顔してるけど、今忙しいのは基本ソーイチローのせいなんだからね?」


「俺?」


 そこまで言うと、フェリシアはハンター生活へと戻る。あとの説明をシルに丸投げしやがったこいつ。


「ソーイチロー様の連れてきた者たちの住まう村が、予想以上に発展していまして、その手続きやらで仕事量が急増しているのです」


 ほーん。キキ達の村か。ええじゃないの。


「予想以上って、何かあったのか?」


「ええ、人界神様が事あるごとにやってきてはおもむろに道を作ったり、建物を建てたり、どこからか難民を連れてきたりしていまして……」


 アルトか。何でまた。


「何でもここでプレイしたゲームに影響されたようでして……妙にブロックだけで出来た建物や塔をあちこちに建てているんですよ」


 あー、そういやこないだやったな、マイニングクラフト。アルトがどっぷりハマってたなー。


 それで現実でもやりたくなって、丁度良く未開発の村があったから手を出した、と。


「まあ村が発展するのは喜ばしい事なのですが、おかげで観光客なども増えて、今ではちょっとした街ほどの規模になってますね」


「なら今度行ってみるかー。様子も気になってたしなー」


「ええ、皆さん喜ぶと思いますよ」


 楽しみが一つ増えたな。丁度今週末は三連休だし、魔界まで遊びに行くか。


 まあ別に俺の仕事に連休とか関係ないんだけどな。



ここまでご覧頂きありがとうございます。


人界神アルト、他人の世界でやりたい放題やっているようです。


次回はちょっとした小話。オークのヤスヒロが何故か再登場します。


感想や評価、いつも励みになっています。

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