29 秋の味覚 ~魔界の場合~ その2
前回の続き、もう一話続きます。
早速料理に取り掛かっていこう。
とはいえ、ぶっちゃけマツタケなんて調理した事一回も無い。もちろんマツタケ料理のレシピなんてものは俺の中には一切存在していない。
ここは困ったときのネット検索だな。
「あれ、俺のスマホどこいった?」
ちゃぶ台の上に置いてあった俺のスマホが姿を消している。
「あ、スマホ使う? 今ギルドバトルイベントだから後十五分待ってよ」
案の定、フェリシアに強奪されていた。テレビでは狩りゲー、スマホではソシャゲの二刀流だ。俺出来ないんだよな、あの何かをしながら別の事に手を出すってのが。
「あ、ソーイチローわたしの使う?」
フィールのスマホを借りて、マツタケの料理レシピを調べる事にした。そろそろフェリシアにもスマホ買ってやるか。
フィールから借りた手帳型のスマホケースを開き、勝手に暗証番号を入れる。こいつの番号はどうせゼロが四回とかそんな感じだろう。
「ちょっと、何で暗証番号分かるのさ」
「そりゃまあ、長い付き合いだし」
面倒くさがりのフィールの事だ、複雑な番号にはしないだろうという読みが当たった。案の定ゼロ四回だったよ。
少し不満げなフィールを横目に、ブラウザアプリを開いて『松茸 レシピ』でググって行く。
「なんかマツタケのレシピってなんちゃってレシピばっかりだなー。松茸風なんちゃらとか、松茸のお吸い物使ったやつとか」
そっちの方が需要があるということだろうか。
「松茸をしっかり使ってるプロのレシピは月額料金払わないと見れないんだねー」
フィールもパソコンの方で同じサイトを見ているようだ。
有料登録するほどじゃないんだよなー。
「あ、松茸ご飯のレシピあったよー」
スクロールして下のほうにあるレシピ。とりあえずこれから作っていくか。
マツタケなど、旨み成分の多いキノコ等を調理する際に、一番大事なのは水で洗わない事だ。水洗いすると旨み成分が流れてしまうからな。
マツタケの石づき、根っこの固い部分を包丁で切り取り別に移す。全体を綺麗な布巾で軽くこすって汚れを落とす。
「六人だから、五合でいいかな。アズ、米を洗っといてくれるか?」
隣にたたずんでいたアズにそう頼む。ふるふると震えるアズの触手が動き『OK』という文字を作る。随分と器用になったもんだ。
マツタケは五ミリ幅で切り、みりんや酒、醤油と顆粒だしであわせ調味料を作っていく。ネットのレシピよりは少し量は少なめで作る。魔界のマツタケに期待してだ。
全部を炊飯器に入れて、スイッチを押す。炊き上がるまで、おかずのほうを作っていこうか。
マツタケ料理といえば、土瓶蒸し、天ぷら、しんじょう、茶碗蒸し、ホイル焼きなどがレシピとしてアップされている。
まあぶっちゃけると、土瓶蒸しとしんじょうに関しては何の事か全く分からないが。しんじょうってなんだよ。歯の綺麗な野球選手か?
「はんぺんみたいなもんらしいよー。はんぺんは山芋を使うけど、しんじょうは玉子を使うっぽいね」
「まあ今ある食材じゃ作れないな。しんじょうはパスで」
スマホでしんじょうって検索したら剛志しか出てこなかったぞ。俺の検索の仕方が悪かったのか?
そんな事はさておき、他のものは作れそうなので、ガンガン作っていこう。
まずは土瓶蒸し。これはアレだな、出汁みたいなもんだな。
「フィール、ちょっと裏の庭からミツバとすだち取ってきてくれ」
土瓶蒸しの材料は、マツタケ、鶏肉、ミツバとすだち。幸いな事に、このアパートの裏庭には色んな食材が生えている。その中にミツバとすだちがばっちり入ってるからな。
他にも何故か一年中実のなる夏みかんとか、山椒の木とかも生えている。謎だ。
「あいよー」
よっこらせ、という見た目小学生とは思えない掛け声で重たそうに腰を上げるフィールはさておき、適当に出汁を引いて鶏肉とマツタケを放り込む。
これで最後にミツバを添えてすだちを絞れば土瓶蒸しの完成だ。
この八割がた完成した土瓶蒸しに、玉子を入れて蒸かしてやれば茶碗蒸しが出来上がる。丁度いいのでそちらも作ってしまおう。
そんな感じで、アズに手伝ってもらいながら残りのホイル焼きと天ぷらが出来上がる直前に、リアが学校から帰って来たようだ。
「たでーまー。なんかやべー匂いすんだけど!」
相変わらず語彙力の無い奴だ。こいつの口からやべー以外の感想を聞いた事が無い。
「あ、フェリ姉ぇお久し! そこに転がってるのは……シル姉ぇっぽいな。なんで芋虫みたいになってんのかは知らねえけど」
「お帰りーリア。もうすぐご飯できるから手洗ってきなー」
フィールのまるで自分が作っているかの様なセリフを受けて、リアが洗面所にとたとたと走って行く。まあちょろっと手伝ったしな。絶対にキッチンには立たせないけど。
「フェリシア、もう出来るからシルの拘束を解いてやってくれ」
「もう足引きずってるから後三分待って」
こいつぶれねーなー。
ちゃぶ台の上に、色とりどりのマツタケ料理が並ぶ。
……いや、ほとんど茶色か。
「こりゃすげーな。置いてあるだけで匂いがやべー」
リアの言うとおり、マツタケの芳醇な香りが部屋中に広がっている。
にしても、五人とスライムが一匹だとこのちゃぶ台じゃちょっと手狭だな。新しいちゃぶ台でも買うか。
アズを膝の上に置いて、ちゃぶ台の前に座る。
「んじゃマツタケを持ってきてくれたフェリシアと、マツさんに感謝して……」
「「いただきまーす!」」
ありがとうマツさん。おいしく頂くよ。
まずはそうだな……天ぷらからいくか。からっと揚がった天ぷら。マツタケを半分贅沢に揚げた一品に軽く塩をつけ、大胆に口に入れる。
歯を立てた瞬間に、景色が色を変えた。
香気の爆発。衣に閉じ込められたマツタケの香りが爆発し、鼻、口、そしてありとあらゆる毛穴から香りが吹き出すような感覚……!
「やべえ、一撃で臭気系がダウンしやがった……!」
リアよ、お前のセンサー周り虚弱すぎないか。というツッコミを入れる余裕さえ無い。ヤベイ、意識が……飛ぶ……
目を開けると、そこには広大な森が広がっていた。まるで自分が小さくなったかの様に、巨大な木々が生い茂っている。
『よう新入り、目が覚めたか?』
アンタは……マツさん!
俺の目の前には、先ほどホイル焼きにしたマツさんが、俺と同じ大きさになって佇んでいた。
「なんだここ、あーしは飯を食ってたはずじゃ……」
隣からリアの声がする。こりゃ一体どうなってんだ? 夢か?
「うわ、もしかしてソー兄ぃか?」
何で疑問形なんだ? と思い、隣を見てみれば、隣に立っていたのは見事なマツタケ。一応リアっぽい顔がついているが、見た目は完全に魔界のマツタケだ。
もしや、と思い目線を下げて、自分の姿を確認してみると、俺もマツタケに成っている。
『どうした新入り、ほらこっちへ来い。こっちがお前達の場所だぜ』
何が何やら全く分からないが、どうやら俺達はマツタケになってしまっているようだ。なんやねんこれ。
ここまでご覧頂きありがとうございます。
謎な終わり方でしたが、別にシリアスな展開になることはありません。いつもどおりです。
次回でマツタケのお話は終わり。その次は駄菓子のお話になりそうです。
一つここで雑談を。この小説のタイトル「最近俺の部屋(以下略)」ですが、長いです。非常に長いです。現状活動報告などでは「最近俺の部屋(以下略)」と略してますが、分かりづらいんですよね。
どなたか略称を考えていただけると嬉しいです。こういったセンスが全く無い物で。
「ダンまち」の事を「ダンであ」と略してた人間ですからね。そういうセンスが皆無なのです。
ちなみに、フィリシアのプレイしていたソシャゲはシノアリスです。個人的にはグレーテル派です。