3 魔王とテレビゲーム
第三話です。
空は青く晴れ、太陽から発される灼熱の光線が遮るもの無く降り注ぐ。季節は八月になり、毎日最高気温を更新し続けている。
おんぼろのクーラーがごうごうと音を立てて稼動し、なんとか部屋を人間が生活できる気温に保っている。
こんな日は、外に出る気がしない。外に出て海水浴だの遊園地だのに行く人間は、きっと精神が根本から俺達とは違うのだろう。
精神的弱者である俺達には、こうしてクーラーの効いた部屋でTVゲームをしている事が、至上の喜びなのだ。
「うぇーい。またわたしの勝ちー」
今やっているのは、恐らく日本で最も人気のある対戦アクションゲームだ。大乱闘するやつだな。
ちょうど俺のキャラクターが画面外へと吹っ飛んで行き、最後の残機がなくなってしまった。
「あー。これで二勝四敗かー。お前俺のいない間に練習したりしてただろ? メテオなんて何処で覚えて来たんだよ」
「そりゃ動画で見たに決まってるじゃん」
画面では負けてしまった俺のキャラクターがフィールのキャラクターに賞賛の拍手を送っている。
ちなみに今俺達がプレイしているのは二作目のやつだ。あの立方体のゲームハードのやつな。
「んじゃアイスよろしくー」
先に二連敗したほうがコンビニでアイスを買ってくる約束だ。くそー、二勝二敗まではいい感じだったのにな。
敗者に語る権利無し。素直にコンビニまで行って来よう。
歩いてコンビニまで行き、灼熱の中を耐えながら帰ってきた。往復五分だというのにもうTシャツはビショビショだ。
シャワーでも浴びようかと考えながら部屋に入ると、どうやら客人が来ているようだった。中から話し声がする……ということはフェリシアか。
最近フェリシアは二日に一度はこちらに遊びに来ている。どうも部下からもっと休んでくれと泣いて頼まれたらしく、休養の意味もあるそうだ。
「そんでー、このBボタンを押すと必殺ワザが出るわけ」
「なるほどね。この通常ワザと必殺ワザを組み合わせて、相手を画面外にたたき出せば勝ちってわけね」
どうやらフィールがフェリシアにゲームの操作方法を教えているようだ。
「ただいまー」
「お、アイスが帰ってきた!」
誰がアイスじゃ。
「おじゃましてるわ」
「あいよ、一応余分に買ってきてあるから、適当に選んでくれー」
一応一人二本ということで、四本アイスは買ってきてある。
「じゃあさ、ゲームで勝ったほうからアイス選んでこーよ」
「それじゃあ初心者のフェリシアが不利じゃないか?」
「別にわたしはいいわよ。元々無かったものだし、貰えるだけありがたいわ」
まあ確かにそうか。
部屋の隅に置いてあるダンボールから、予備のコントローラーを取り出して、ゲーム機本体に接続する。
「へえ、この中からキャラクターを選べばいいのね」
おおよそ三十体の中からキャラクターを選ぶ。俺はいつも使っているピンクの丸いキャラだ。
「アイスを選ぶ権利が掛かってるからね。本気でいくよ」
フィールが選んだのは、このゲームで唯一変身するキャラだ。下スティックとBボタンの通称下必殺ワザで、二人のキャラクターを入れ替える事が出来る。まあ大体は男の方しか使わないのだが。
「けっこう色々あるのねー。あ、私これにするわ」
フェリシアは、この作品で最も遅いキャラだ。そういえばこのキャラも原作では魔王みたいな立ち位置だったな。
フェリシアが選んだキャラを見て、ふふん、という表情になった。確かにフェリシアの選んだキャラは、初心者には使いづらいからな。
残機を三にして、ゲームスタートだ。
結論から言えば、一位がフィール、二位が俺、三位がフェリシアになった。操作に慣れていないフェリシアが開始そうそうに場外に落下、残機を一つ減らした。その後操作に慣れてきたが、やはりそこは経験の差でこの順位になった。
「ふん、これでこの高級アイスクリームはいただきだー!」
くそう。一つだけあった一個二百五十円の高級アイスをとられてしまった。
仕方が無いので俺はいつものスイカ棒を選択。フェリシアは残りの二つからモナカを選んだ。
「これが勝利の味だねー」
普通にバニラの味だと思うが。
「やっぱりこっちの世界の食べ物はどれも美味しいわね」
モナカをバリバリと食べながら呟くフェリシア。聞いた話だと、向こうの世界はまだまだ生活水準が低いらしく、こういったお菓子などはなかなか無いそうだ。
「そういや一個余っちまったな」
コンビニの袋に残された、メロン棒のアイスを見ながら呟く。
「じゃあさ! もっかいやって勝った人のものにしよう!」
こいつ……二つ目まで取りに来るとは……
よほど自信があるのだろう。もうそちらのアイスも自分のものだといわんばかりの目を向けているフィール。
「ええ、いいわよ」
おっと、何故だかフェリシアもやる気を出しているようだ。
「さっきのでコツは掴んだから、今度は負けないわ」
コントローラーを握り、テレビの方を振り返ると、彼女の角が淡く光り始めた。
「フェリちゃんはやる気を出すと角が光るんだよ」
そういうもんなのか。
戦いは熾烈を極めた。フィールとフェリシアの一進一退の攻防を、俺は手に汗を握りながら見ていた。
あ、俺? 早々に退場したよ。だってフェリシアが普通に強くなったんだもん。ゲームの才能ってホントにあるんだと思った。
「ちょ、掴みとかいつの間に覚えたのさ!」
「さっきあなたがやってるのを見て覚えたのよ!」
フィールの操る忍者と、フェリシアの操る魔王が、画面上で激しい戦いを繰り広げている。両者とも残りは一機。攻撃がまともに当たれば吹っ飛んでいく体力だ。
あ、フィールが決めに行った攻撃を、フェリシアが上手く回避した。晒された大きな隙に、フェリシアの横スマッシュがヒットする。
「やったー!」
「うぇぇ、マジか……」
コントローラーを投げ出して喜ぶフェリシアと、がっくりとうなだれるフィール。いや、二人ともいい勝負だったよ。出来ればもう一人居たことを忘れないで欲しいな。
「これが勝利の味なのね……」
いや、だからメロンの味だと思うよ。
「それにしても、ゲームって楽しいのね。他にもあるの?」
「ああ、RPGから何やらたくさんあるぞ」
「あーるぴーじー?」
「そうだな......フェリシア達の居るような世界を体験できるようなゲームかな。大体人間の主人公が成長していくのを楽しめる」
「人間かー。それもちょっと面白そうかも」
「フェリちゃんは生まれたときから最強だったからねー」
確かに、魔王が勇者のロールをプレイングする、か。中々面白い絵面になりそうだな。
「ちょっとやってみようかなー。おすすめとかある?」
適当に何本か勧めてみると、さっそくプレイし始めるフェリシア。やつもゲームの虜になったようだな。
その日から、異世界の魔王はゲーマーになった。あのゲームのラスボスが魔王だということはしばらく黙っておこう。
以上、ス○ブラ回でした。ちなみに作者の持ちキャラはゼルダ。WiiU ならルフレです。
今後は毎日一話づつ投稿していこうと思ってます。その内フィールが来た時の話もやろうと思ってます。
次回「六畳間と冒険者」