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24 アンドロイドと宿題

第二十四話。八月も終わり、次話から九月が始まります。まあこれといって何が変わるわけでもないのですが。

「はぁー涼しいねぇー」


 ぺたりと畳の上に倒れこみ、座布団の上に鎮座していたアズを手繰り寄せるフィール。あ、逃げられた。


「つーか何であーしの部屋はクーラーつかないのさー」


「電気止まってんだよ。どうせ博士が電気代払ってなかったんだろ」


「マジかよあのクソジジイ。帰ってきたらぶっ飛ばしてやるぜ」


 可愛い見掛けとは裏腹に、口の悪いリア。


 場所を変え、俺の部屋へと戻ってきた俺達。クーラーのよく効いた部屋で、いつもどおりだらっと過ごしていた。


「ソー()ぃ髪やってー」


 そう言いながら、俺の胡坐の上にぺたんと腰を下ろすリア。へいへい。


 部屋の隅から櫛を取り出して、リアの真っ赤な髪を梳かしていく。


「なんかそうやってると兄妹みたいね」


「顔は全然似てないけどねー」


 悪かったな、どうせ俺は平凡顔だよ。よし、こんなもんでいいだろう。後はリボンか。


「おお、アズ。ありがとな」


 フィールの元から脱出してきたアズが、部屋の隅の衣装箱に入れてあったリアのリボンを取ってきてくれた。


 真っ赤な髪を二つに分けて、頭の横で結わえていく。ツインテールというやつだ。


「よし、こんなもんだな」


「サンキュー。やっぱこれが一番落ち着くぜ」


 手鏡で左右を確かめると、軽く頭を振って笑顔を浮かべるリア。結わえ付けられた黄色いリボンが鮮やかだ。










「つーかやっぱまだあちいなー。ちょっと失礼ー」


 そういうと、ブラウスの背中をたくし上げるリア。あらわになった背中がジャコンという音を立てて、真ん中から左右に開く。


 ブフォーという音をたて、そこから排出される熱気。


「おい、部屋の中でやるんじゃないよ。ほら見ろ、今のだけで部屋の温度が二度も上がったぞ」


 エアコンのリモコンに表示されている現在気温が瞬く間に上昇する。気持ちよさそうにちゃぶ台にべたーっと上半身を落とすリアの耳には入っていないようだが。


「なに今の? 背中が……」


 始めて見たフェリシアが動揺している。まあ無理も無いよなー。


 見た目は普通の人間だけど、中身はしっかり機械が詰まっている。それがこのリアという少女だ。定期的に内部の熱を排出しないと不具合が起こるらしい。


「そういやお前、こんな所でだらけてて大丈夫なのか? 宿題は全部終わってるのかよ?」


 今日は八月三十一日。この日にリアを起こしたのは、明日から学校が始まるからだ。


 リアは現在十二歳……ということになっている。世間的には小学六年生としてしっかり学校にも通っている。


「あたりめーだろ。宿題は夏休み初日に終わらせるのがテッパンだぜ」


 自信ありげに指を立ててみせるリア。


「そこまでして夏は休眠してたかったのか」


「してたかったっつーかこのクソ暑いのに稼動してたらぶっ壊れちまうぜ。日本の夏やばすぎなんだけど」


 まあここは盆地だしなー。


「つっても夏休みの宿題なんて初めてだし、チェックしてくれよソー()ぃ」


 へいへい。









 一度自分の部屋に戻り、濃紺のスクールバッグを持ってきたリア。ちゃぶ台の上でそれをひっくり返し、その中身をぶちまける。


 その一番上にある宿題のリストを眺めてみる。


「えーとなになに? 算数のドリルに、漢字の書き取りと読書感想文。それと自由研究か」


 なんか思ってたよりも少ないな。俺が学生だった頃はもっと量があったような気がするけど。


 フェリシアとフィールは宿題に興味は無いようで、各々自分の行動に戻っていった。とりあえず数学のドリルから見ていくか。


「おいリア。途中式はどうした」


「んあ? そんなの無くても別によくね?」


 胡坐をかきながら何ぞ? という顔でこちらを見上げているリアだ。別によくね? じゃねえ。よくねえわ。


「つうかこんなのどうやって答え出したんだよ。暗算で出来るような問題じゃないぞ?」


「そんなの計算機でぱぱっと」


 カンニングじゃねえか。


「いや、お前の部屋パソコンとか無いじゃん」


「この間ソー兄ぃのパソコンからインストールしたんだよ」


 そういいながら、右手首からUSBを伸ばしてみせるリア。インストールって、自分にか。そういやアンドロイドだったかこいつ。


「まあ今更間に合わないしこれはおいておこう。どうせ再提出くらうだろうけどな」


 俺の言葉に、まじかよーとぼやくリア。残念だがマジだ。





 んで、こっちは漢字の書き取りか。


「なあ、これ一体どうなってんだ? なんかめっちゃカッコイイ文字が並んでるんだけど」


「ああ、MS明朝体だな」


 それって文字フォントじゃねえか。


「お前、これプリンター使ったろ。流石に怒られるぞ」


「プリンターなんて使ってねえよ。ほらこうやってさ」


 山の中からルーズリーフを取り出すと、指を二本そろえてなぞっていくリア。指がなぞったあとには綺麗に印刷された文字が並んでいる。


「うわすげーな。お前こんな事も出来んのかよ!」


「ふふん、まあな。これなら自分で書いているし問題ねーだろ」


 いや問題アリアリだけどな。まあこれも再提出確定か。今のところ全滅だな。






「んで、こっちは読書感想文か。えーと何々? タイトル『滅亡へ向かう世界を救うために必要なたった一つの冴えた方法』 著『蒼井一』って俺の本じゃねーか」


「都合よくそこに置いてあったから」


 いやふつーに恥ずかしいわ。しかもこれライトノベルだし。読書感想文ってもっとこう硬派な本とか読むものでしょうが。


 中身を読むのはちょっと怖いので、これは見なかった事にしよう。





「最後は自由研究か」


「これは自信作だぜ」


 えっと何々? 『ディープラーニングを用いたテキストマイニングによる電子書籍データにおける主要登場人物の属性分けと特徴解析』?


 およそ三十枚はあろうかと思われるコピー用紙の束の表紙に書かれている題名。ぶっちゃけ俺には全く理解できない。


「えっと、これは一体なんだ?」


「おうこれはな……」


 およそ二十分に渡りリアから説明されたが、専門外の俺にはちんぷんかんぷんだ。ざっくり言うと、プログラムが電子書籍を解析して、登場人物の特徴を教えてくれるようだ。


 実験データとやらで、先ほどの俺の小説『滅亡へ向かう世界を救うために必要なたった一つの冴えた方法』が使われていた。この本をこのプログラムに通すとこういう感じになるらしい。


登場人物A 宍戸トウヤ 属性(主人公) 特徴(魔法使い・旅人・転生者)

登場人物B レイ    属性ヒロイン特徴(ツンデレ・貧乳・格闘家)


 なるほどな。こうやって小説に出てくる人物について解析してくれるわけか。


「つうかこれってもはや自由研究の枠を飛び出してないか?」


 自由研究って言ったらもっと簡単なやつだろう。光に集まる虫の種類とか、あとはちょっとした工作とか。


「ん? 自由に研究していいんだろ?」


 お前のやってるのは大学とかでやる研究だ。まあこれは別に再提出をくらうような事ではないからいいか。






「つーか明日から学校かよー。まだまだクソ暑いじゃんかー」


 畳の上でごろごろと駄々をこねるリア。その姿は歳相応の少女にしか見えないな。


「そういやお前、夏休みは友達とかと遊びに行かなくてよかったのか?」


「あー、このクソ暑いのに海とか誘われたけど、「ごっめーん、八月はグアムに行くから駄目なんだー」って言って全部断ったぜ。あーそうだ、グアムについてググっとかねえとなー」


 一応友達は居るようで安心したわ。というかなんだそのキャラ。グアムとかお嬢様かよ。


 何やらこめかみに指を当ててうんうんうなっているリア。どうやら自分の頭をネットに繋げてグアムについて調べているようだ。


 そんなこんなで八月も最終日、この六畳間にリアが復帰して、また少し部屋が狭くなった。まあ家具とかは特に置いてないからギチギチって訳でも無いけどな。


「ああ、そういや食材切らしてたんだった。どうせなら今晩は外食にするかー」


「マジで! なら焼肉にしようぜ!」


「あーいいねー。食べ放題のところにしよーよ」


 リアの出した焼肉案にフィールも賛成のようだ。ゲーム廃人は現実に戻ってこないので意見を聞くのはやめにしよう。


「んじゃ焼肉にすっか。準備したらすぐ……フェリシアのクエストが終わったらすぐ出るぞー」


「やったぜ!」


 真っ赤なツインテールを揺らしながら喜ぶリアと、やったねアズーとアズを抱きかかえるフィール。いや待て連れて行くつもりか?


そんな二人と、依然として現実に帰ってこないフェリシアを見ながら、俺は一つため息をこぼすのであった。

ここまでご覧頂きありがとうございます。


次回「六畳間とオーク」


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