23 夏の終わりとアンドロイド
第二十三話。哲学的なタイトルですが、いつも通りな感じです。
八月三十一日。八月も終わり九月が来ようとしている。
そんな今日も今日とて、俺達は六畳一間でだらだらとした日常を過ごしている。
隣に座るフィールは昨日買ってきたペンタブを使って何やら楽しそうに絵を描いている。旧型のノートパソコンと最新型のペンタブの対比が違和感をかもし出している。
畳に横になってだらしない体勢でコントローラーを握るフェリシアは、昨日発売の狩りゲーを楽しんでいる。昨日から徹夜でプレイするその目元には、うっすらと隈が見て取れる。
あの頃の仕事中毒だった魔王様の姿は、もはやその面影すら見ることも出来ない。真面目な人間ほど堕ちたときに戻ってこれないという良い見本になっているな。
「ああ、そういやあいつを起こさなきゃいけないの忘れてたわ」
「そっか、明日から九月だもんねー」
フィールとそんな会話をするも、フェリシアの耳には届いていないようだ。今はハンマーを振り回してモンスターをハンティングするのに夢中のようだ。
フェリシアのクエストがクリアされるのを待ってから再度声を掛ける。
「フェリシア、今から隣の部屋の奴を起こしに行くんだけど一緒に来るか?」
「……丁度ハンターのランクが上がったところだし行く」
普段の凛々しい表情はどこへ行ってしまったのやら。ボケーっとした表情で虚ろな視線を向けてくる。話し方も心なしか淡白な感じだ。
そんなフェリシアとフィールをともなって、隣の部屋へと向う。事前に渡されている合鍵を使って部屋の扉を開ける。
むわっとした熱気が部屋からあふれ出してくる。
「うわー、あっつー」
フィールのぼやく声ももっともだ。クーラーの効いていない部屋ってのは地獄だな。
「え……何これ……?」
部屋の中を見たフェリシアの口から言葉がこぼれる。まああいつの疑問も最もだ。
俺の部屋と同じ六畳一間。家具のほとんど無い殺風景な部屋のその中心に、一人の少女が膝を抱えて座っている。
燃える炎の様な真紅の髪に、ビスクドールの様な整った顔。目を閉じて微動だにしないその姿は、ある種の神秘的な雰囲気をかもし出している。
「えっと、この娘は……生きてるの?」
「まあそうなるよな。生きてるっちゃ生きてるし、生きてないと言えば生きてない。こいつはアンドロイドだ」
「アンドロイド? ってあれよね、この間やったゲームみたいな人造人間。この娘が本当にそのアンドロイドなの? 人間にしか見えないわ」
ゲームの名前を出しながらそう言うフェリシア。そういやこの間やってたな、あのアンドロイドが主役のアクションRPG。あれは神ゲーだったな。
「そのアンドロイドで間違いない。こいつは去年異世界から来たんだ。へんてこりんな博士と一緒にな」
話を聞く限りは近未来SFみたいな世界らしいな。車が空を飛んでるらしい、ちょっと行ってみたい。
「じゃあその博士はどこに居るの?」
「博士はなんか「この世界の神秘を見に行く!」とか言って世界旅行でどっか行っちゃったよー」
「まあそんな感じだ」
フェリシアへこのアンドロイド少女の事を説明しながら、エアコンのリモコンを探す。あった、これか。
リモコンのボタンを押してみるが、エアコンはうんともすんとも言わない。よく見てみれば、他の電子機器も全く動いていない。こりゃアレだ。電気が止まってるみたいだ。
さっさと起動して俺の部屋に移動しよう。
「えっと、起動方法はっと。なになに……?」
博士から事前に渡されていた起動マニュアルを開く。
「えっとー、最初に背中の起動スイッチを押す、そのあとは音声マニュアルに従う、か。これマニュアルとか要らなくない?」
「確かに」
フィールの言う通りだ。現にマニュアルの二ページ目以降は全て白紙だ。これただのマニュアルっぽい冊子だな。
「背中背中っと、あーこれっぽい。ぽちっとな」
少女の着る袖なしのブラウスの背中部分をまくり上げると、そこに分かりやすくスイッチが配置されていたようだ。ちなみに俺は見ていない、いくらアンドロイド相手とはいえ流石に失礼だ。
あとフィール。その言い方だとドクロマークのスイッチがあったことになるぞ。
「これであとは音声に従うのよね? 音声って何かしら?」
「さあ?」
そんな俺達を前に、膝を抱えてうつむいていた少女が機械的に顔を上げ、目を開く。感情の無いまなざしがこちらに向いているのは若干だが怖いな。
『起動シークエンスを開始しました。しばらくお待ち下さい』
おお、音声が流れ始めた。ただ少女の口は一切動いていない。どこから流れてるんだ。
目を見開いたまま、身動き一つせずにその場にたたずむ少女を見守る事数分。暑い、暑過ぎるぞ。
『起動シークエンスを実行中……神経プロセス……異常なし。感覚系統……異常なし」
一つ一つ呟きながら、身体を動かしたり瞬きをしたりと、己の身体を確かめていく少女。無表情でへたくそなダンスを踊っているような感じが実にシュールだ。
『起動シークエンスの完了を確認。全システムに異常無し。自立思考プログラム Real Imitation Artifactをセーフモードで起動します』
セーフモードで起動って、ウィンドウズかよ。
『通常起動する際はEnterキーを押してください』
ウィンドウズかよ。
「エンターキーなんてどこにあんのさ」
そんなフィールの疑問を聞き入れたのか、少女の右手がゆらりと動き、掌をこちらへと見せる。あったわ、エンターキー。これ絶対必要ないよな。
とりあえず、ぽちっとな。
『Real Imitation Artifactを通常起動します。起動プロセスを終了します』
そう残し、音声ガイドが終了する。少女がピクリと肩を震わせ、ゆっくりとその瞼を上げていく。うん、神秘的な雰囲気だ。
少女は一度瞬きをした後、大きく腕を上げて伸びをするとその口を開く。
「あーよく寝たわー。つうか暑っ! 暑過ぎなんだけど! クーラーつけといてって言ったじゃんソー兄ぃ。マジチョベリバなんだけど!」
うん、ここまで真面目にやってきたけど。はい、こういうやつです。
隣ではフェリシアがぽかんと口を開けている。うん、分かるよその気持ち。
「あ、フィー姉ぇおっはー。つーか新しい人いんじゃん! 何その角! やべーじゃん、魔王かよー!」
大口を空けて笑うその様からは、先ほどの神秘的な雰囲気は感じられない。
「フェリシア、こいつが隣の住民のアンドロイド、リアだ」
「ウィッス! よろしくなねーちゃん!」
「え、ええ。フェリシアよ、よろしくね」
フェリシアが勢いで押されている。珍しい光景だな。
つうか暑いわ、さっさと俺の部屋に移動しよう。
そんなこんなで日本での新キャラ、リアの登場です。
ハツラツ妹系アンドロイドです。今後の六畳間にどのような変化を与えてくれるのでしょうか。多分何も変わりません笑
名前はシステムの頭文字、Real Ideal ArtifactでRia。Iの部分はちょっと変えるかも知れません。何かいいアイデアあったら教えていただけると嬉しいです。
フェリシアはモン○ンではハンマーを選んだようです。ちなみに自分はガンランス派です。
次回はリアを交えて六畳一間での日常です。感想や評価など貰えると嬉しいです。
10/24:リアのシステムをReal Imitation Artifact に変更しました。番外編の方に合わせた感じです。意見を下さった皆様ありがとうございました。




