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22 魔界のお祭り

 魔王国創立祭。一年に一度行われるこの祭りは、魔王国の誕生を祝うお祭りだ。魔王国首都アスタルティアだけでなく、地方の都市や、小さな村でも祭りが行われるらしい。


 今日はその祭りの一日目。この日は首都アスタルティアだけで祭りが開催され、全国から人々が集まっている。


 ありていに言って、人の数が半端じゃない。


「こりゃあ凄いな。街全体が祭り仕様になってるじゃん」


「そうかしら、毎年こんなものよ?」


 フェリシアはそういうが、日本の祭りじゃこんなに大規模なものは中々見られるものじゃない。ウチの近所の祭りなんて百メートル位の商店街一つだけだしな。


ふぉーひひろー(ソーイチロー)。ごくん、これ食べる?」


 早速出店で何か買ってきたらしいフィールから手渡されたものを見てみるが……一体なんだこれは?


 この丸い……ピンク色の……球? 食べ物なのか?


「ほらほら、一口でずずっといっちゃいなよユー」


 なんだそのアイドル事務所の社長みたいな喋り方は。胡散臭いが、モノは試しだ!


 丸くてピンクの球を一思いに口に入れる。触感は餅みたいな感じで、ほのかに甘い。まあ不味くは……無い。別に特段美味い訳でもないが。


「ごくん。んで? これは一体なんだ?」


「スライムコアだね」


 ぶっ! なんてもの食わせるんだこいつは! 一応スライムであるはずのアズがビビッて震えてるじゃないか。


 と思ったのだが、震えているのは自分にもくれという意味だったらしく。触手を伸ばすとフィールの持っていたスライムコアを一つとると、体に入れて吸収を始めた。


「なあ、これって共食いじゃないのか?」


「え? スライムって共食いするものでしょ? これでアズもまた一歩強くなったねー」


 どうやらスライムはお互いのコアを奪い合って吸収し、強くなるらしい。ちなみに人が食べると少しだけ魔力量が多くなるらしい。それ魔力ゼロの俺にとってはただのあんまり美味しくないお菓子じゃねえか。


 まあアズはふるふると震えてご満悦のようだし、まあいいか。










「それで、なんで俺は今こんな所に立ってるんだ?」


 軽く出店を楽しんだ後、フェリシアに拉致られた俺は、あろう事かパレードの車の上に立たされていた。


 隣に立つのはフェリシアとフィール。後ろにはシルが控えている。


「魔王はね、毎年この祭りのパレードの主役を任されているのよ」


「それで、なんで俺まで一緒にここに居なきゃいけないわけ?」


「だって一人じゃ寂しいじゃない」


 理由が適当すぎる。あんまり目立つのは好きじゃ無いんだけどなー。


 俺達の乗ってる台車は、キラキラと金色に輝く特別仕様車で、非常に目立っている。回りの観客たちも注目し、皆フェリシアに向かって声をかけたり手を振ったりしている。人気者じゃないか。


 フィールも、いつもは二枚しか出していない羽根を六枚広げ、ここぞとばかりに大天使アピールに余念が無い。


 そして俺。観客からしてみれば「何あの冴えない人間」という感じだろう。非常に場違いだ……と思っていたのだが……


「あれが……」


「あの大天使様に心を与えたっていう」


「あれが異界の賢者様か」


 なんだか意外と注目を集めているようだ。というかなんだ、異界の賢者って。


「ソーイチローも意外と有名ね」


 有名ね、じゃ無いわ。どこかに俺の事を広めた奴が……


 後ろを振り向いてみれば、シルが無表情のまま目を逸らしたのが見えた。お前か。


「なあシル」


「いえ、悪気があった訳では」


 意外とあっさり吐いたな。それにしても一体なんだ? 異界の賢者ってのは。


「ソーイチロー様にカッコイイ二つ名をつけてみようと思いまして、魔王様と相談した結果です」


 お前も絡んでるじゃねえか。

 

 隣に目をやれば、スッと視線を逸らすフェリシア。


「いや、だってちょっと面白そうだったから……」


 面白そうとかいう理由で人に恥ずかしいあだ名をつけるんじゃないよまったく。


 そんな会話をしている間にもパレードは進んで行く。その間も観客に声を掛けられては手を振り返すフェリシア。こうしていると王様なんだなあと実感させられる。


 その後も、パレードの間俺は羞恥プレイを味あわされた。








 パレードが終わった後も、祭りは続く。どうも日本の影響を受けているようで、ところどころ日本の祭りと共通する部分が見受けられる、が。


「なあ、これって花火なんだよな」


「ええ、今年も綺麗ね」


「これどう考えても魔法合戦なんだけど。花火ってチームに分かれて戦うものじゃないと思うんだけど」


 空中に浮かぶ魔族たちが、全力で魔法をぶつけ合っている。色とりどりの魔法が空中でぶつかり合い、激しい爆裂音を響かせている。


 地面で見ている観客達も「たまやー」と叫びながら地上から思い思いの魔法を打ち上げている。どう見ても俺の知っている花火とは違うんだけど。


「風流ねー」


 風流ではないよ。






「なあ、これが灯篭流しだと言っているのか?」


「ええ、これが夏の名物蟷螂(・・)流しよ」


 現在目の前では、魔王軍の幹部だという青年が四方八方から打ち込まれる風魔法を剣一本で捌いている。


「これのどのへんが蟷螂流しなんだ?」


「ソーイチロー。あれは風蟷螂の刃って魔法らしいよー。それを受け流すから蟷螂流しなんだってー。完全に文字が違うよね」


 蟷螂……ああ、そういうことか。分かりづらいわ。






「んで、これが盆踊りだと言い張るわけか」


「ま、まあ盆を持って踊ってるよね。完全に戦ってるけど……」


 目の前で繰り広げられているのは、お盆を武器にする二人の女性の戦い。激しく打ち合う様は見事だが、残念ながら手に持つのはお盆だ。


 片方の女性は巨大なお盆を両手で持ち、もう一方は小さなお盆を二つ両手に持って戦っている。


「まあ剣舞みたいなものだと思えば納得……できねえよなー」


「一応伝統的な舞踊なのだけど」


 それにしても、誰が伝えたのか知らないが、もうちょっとちゃんと伝えておけよと言いたい。







 そんな謎にまみれた魔界のお祭りも、もう終わりが近づいてきた。出店の方は店じまいを始めている所も多く、一部では売れ残りを割引して売っているところもあるようだ。ここら辺は日本の祭りと変わらないな。


「どうだったソーイチロー。楽しんでくれた?」


 隣に立つフェリシアが、下から覗き込むようにそう聞いてくる。いつの間にか女性陣は浴衣のような物に着替えていて、首元から見える鎖骨がなまめかしい。


 フェリシアの場合は、浴衣を着た際にもっとも重要であるうなじが角で隠れてしまっているのが非常に勿体無い。


「まあ色々と突っ込みたい部分は多かったけど、楽しかったよ。祭りなんて久しぶりだしな」


「ソーイチロー友達居ないもんね」


 うるさいよ。ほっとけ。


 そんなこんなで、俺の始めての魔界旅行は終わりを告げる。なんやかんやほとんど魔界を堪能できていない気もするが、まあ気が向いたら来るとしようか。


 日本に帰れば、八月ももう終わりか。フェリシアと出会って、シルが来て、アズがウチの住人になった。結構色々あった八月だったな。


 九月はどんな事が起きるのだろうか。最近では、ウチの押入れが開くたびにワクワクしている自分が居る。隣では、同じようにフィールとフェリシアとシルが空を見上げている。 


 そういや、そろそろあいつを起こさなきゃいけないな。日本では見ることの出来ない二つの月が輝く空を見上げながら、俺は未来に思いを馳せるのであった。

これで魔界編が一先ず終了です。ほとんど魔界にいませんでしたね。


次回は日本へと帰国し、八月の終わり。隣の部屋の住人が明かされます。


次回「夏の終わりとアンドロイド」

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