20 果ての村とカップラーメン
すいません、次回は魔界に行くといっていましたがまだ出れませんでした。
第二十話です。
「それじゃーボクは帰るねー。また今度ソーイチロークンの所に遊びに行くからー」
そう天真爛漫に言葉を残し、人界神ことアルトは帰っていった。
「ふへー、やっと帰ったかー」
アルトがこの場から消えると、今まで部屋の隅で沈黙していたフィールとフェリシアが息を吹き返した。
そこまでアルトの事が苦手なのか。普通にいいやつだったけどな。
「あれ、シルじゃない。いつの間に」
フェリシアに関してはシルが来ている事すら気づいていなかったようだ。
「それにしてもソーイチロー。人界神と仲良くなるとか一体どうなってんのさ?」
「いや、俺の持ってたキーホルダー上げたら仲良くなれたぞ」
「あー、なるへそ。あいつああいうの好きそうだもんね。にしてもソーイチローってば相変わらず玄人じみたフラグの立てっぷりだねー」
フラグとか言うんじゃないよ。そういえばアルトって結局性別はどっちだったんだろうな。今度会ったときに聞いてみよう。
改めて今後の話をするために、俺達は机を囲んで座り込む。フィールが俺からアズを奪い取ろうとアズに対しておいでおいでと手招きしているが、当のアズは俺の膝の上から動くつもりは無いようだ。
事情を知らないシルの為に、この村の連中を魔界に移動させる旨を伝える。
「そういやあの開拓地の話ってどうなったのかしら」
「ああ、アレでしたら予定していた人員が確保できずに凍結されていますね。仮設の建物自体は残っているので丁度いいのではないでしょうか?」
シルの説明によると、数年前に開拓地として用意した土地が有ったらしいが、開拓員の数が揃わずに計画がストップしているらしい。なにその丁度いい展開。
「じゃあそこで良いわ。シル、ちょっと魔界に戻って書類をそろえて話を進めてきてくれるかしら。ああ、決済印はいつものところに入ってるから」
とんとん拍子に話が進んで行く。この世界にも印鑑とかあるんだ。
「了解致しました。数刻お待ち下さい」
そういうと、さっそく羽根を広げて飛び立とうとするシル。そういやシルはサキュバスだったか。それっぽい羽根だ。
飛び立とうとしたシルだったが、何かを思い出したかのように動きを止めるとこちらを振り向く。
「そういえばソーイチロー様。魔王様と大天使様はこの件に関して報酬が約束されているようですね?」
……またこのパターンか。こいつら貪欲に俺から絞りにくるな。
「……何が欲しいんだ」
「いえ、何が欲しいとかではなく」
ほら、分かってるでしょ? みたいな顔でこちらを見つめるシル。ああ、これいつもの病気か。
あれって結構俺の精神にダメージが入るんだよな。
一度深く深呼吸。よし。
「さっさと動けこの雌豚が。鈍間な愚図に掛ける言葉なんて無えぞ」
「――っ! ありがとうございます! 行って参ります!」
とても嬉しそうに身体をくねらせると、顔を上気させながら飛び立って行った。ああ、なんかもう極まってるなー。
隣でババアとキキがドン引きしている。俺を見るんじゃないよ。俺だって好きでやってるわけじゃないんだから。
受け入れの準備が整うまでに少し時間があるという事なので、その間に住民へと説明をする事にした。まあキキ曰く、ここに残ろうとするような奴はいないとの事だが。
この村の顔役であるババアとキキが、村中を駆け巡って村人を集めて回っている。
ぼちぼち住民が集まって来ているが、そのどれもが暗い顔をしている。栄養状態も悪そうだ。
「あ、そういや丁度いいのが余ってるな」
「ん? どうしたのソーイチロー」
「いや、ちょっと思い出した事があってな……」
フィールに少し頼みごとをして、一旦部屋に戻ってある物を取ってきてもらう。俺の部屋に繋がっているのは魔界だが、世界の門を通る許可はアルトに貰っているので問題ない。
そうこうしているうちに村人が全て集まったようだ。何事だろうかと少しざわついているが、それよりも暗い顔が目立つ。
「えーみなさん。お集まり頂きありがとうございます」
そう切り出したキキに村人の視線が集まる。改めて見て見ると、本当に多種多様な人種が集まっている。
最初に見た狐獣人の親子に、羽根が片方しかない魔族。ゴブリンのような奴もいるな。
そうして村人達を見渡している間に、キキの話は随分と進んでしまっていたようだ。全然聞いていなかった。
「そしてこちらが、そのソーイチローさんです!」
なんか俺が紹介されているっぽい。一応手を上げておくか。
村人の視線が集まる。いぶかしむ様な視線と、期待するような視線がない交ぜになって俺に集まる。まあ無理も無い、いきなり外部から来た奴が救ってやるなんて言ったって信じ難いよなー。
フェリシアも何やら手続きが必要だからって魔界に帰ってしまったから、ここにいるのは頭にスライムを乗せた人間一人だからな。
そんな時に、一条の光が俺の横に降り注いだ。空を見上げてみれば、三対六枚の羽根を広げ、神々しい雰囲気を出しながら下りてくるフィールが見える。どうしてこいつはこういう演出が好きなんだろうか。
というか両手にダンボールを抱えている時点でチグハグなんだけどな。あ、自分の顔が見えていない事に気づいて二つのダンボールをそれぞれ片手で持つ方向に切り替えた。
「うおっ、あー!」
案の定バランスを崩して落としたな。ドシャっという音をたてて地面に落ちるダンボールを拾い上げる。
「お前は一体何がしたかったんだよ」
「いやーどうせなら格好良く登場しようと思ったんだけどねー」
急いで飛んできたのか、髪がバサッと広がっちまってるな。ちょちょいと手櫛で整えてやる。
「いつもすまないねえ」
「それは言わない約束でしょう」
とまあそんな茶番をしてみてから気づいたが、村人の視線ががっつり集まっている。ちょっと恥ずかしいな。いつもの六畳半のテンションでやっちまった。
うわー、と思いながら村人達を見て見ると、なんか思ってたような反応と違うな。
「六枚羽根……大天使様だ……」
「本当なのかも……」
……幸いな事に、フィールがノリでやった登場によって、キキの話の信憑性が上がったようだ。結果オーライ、かな。
丁度よく村人達も俺達の事を信じ始めてくれたようなので、フィールが持ってきたダンボールを開封する。
中身はフィールが福引であてたカップラーメンだ。あんなにあってもな感じなので、どうせならと村人達に配布する事にしたのだ。
「んじゃ飯を配るから歳が若い順に並んでくれー」
俺の言葉に、意外にも素直に動いてくれる村人達。キキ曰く、大天使であるフィールと対等に話していた事で、俺が凄い人だと思われているらしい。実はただの人間なんだけどな。
村人達にカップラーメンを配り、ババアとフィールが魔法でお湯を作って注いでいく。魔法って便利だよなー。
ちなみに、最初にデモンストレーションで俺のカップめんにお湯を注ごうとしたフィールが、力加減を間違えて俺を熱湯まみれにした。許さん。
三分経ち、俺も村人達もカップめんを食べ始める。村人達がおそるおそる麺を口に入れていく。
「……何も泣く事は無いだろうに」
村人達は、そのどれもが涙を流しながらカップめんをすすっている。
「まあこの村ではろくな食べ物が食べられませんから……味のついている食べ物なんてのは皆久方ぶりなんですよ」
そういいながら、三つ目のカップめんを流し込んでいるキキ。お前見かけどおり大食いキャラなのな。
「飯はまだまだ沢山あるから、足りなかったらおかわりしていいからなー」
村人は全部で五十人に満たないくらいだ。まだまだ在庫に余裕はある。
「ほら、急がなくても無くなったりしないから、そんなに急いでかきこむなって」
俺の目の前で案の定むせている双子の子供。この二人は人間に召喚された魔人の子供だそうだ。母親は随分前に人間により魔界へ送還されてしまったようだ。早くあわせてやれるといいのだが。
そんな感じで村人一人ひとりと会話をしながら食事をすすめて居ると、フェリシアとシルが帰ってきた。どうやら受け入れの準備が整ったようだ。
飯を食べて食休みをしたら、移動開始だな。
ご覧頂きありがとうございます。次回こそ魔界に行きます。
果ての村の村人達は今後もちょくちょく登場する予定です。狐獣人の親子とか、双子とか。
次回は魔界編、フェリシアのストーカー登場です。
次回「魔界と変態」