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17 蒼一朗と果ての村

「フェリちゃん! 見つかった!?」


 天界にも、狭間にもソーイチローの存在は確認出来なかった。捜索を始めてから一時間程度が経っただろうか。


「魔界にも反応は無いわ」


「となると人間界か……」


 ソーイチローってば、なんて面倒なところに落ちてるんだ。


 人間界ではわたし達はそこまで自由に行動できない。あそこは人界神の治める場所だから、私たちにとってホームである天界や魔界の様にはいかない。


「どうするの? とりあえず人間界にいってみる?」


「いくしかないね。まあ後々の面倒は今は考えないようにしようよ」


 あとで人界神にぐちぐち言われるかも知れないけど、今はソーイチローが優先だ。


「フィールってば、何でそんなに焦っているの? あなたの言うとおりならソーイチローは滅多な事じゃ怪我すらしないんじゃないの?」


 フェリちゃんの言うとおり、昨日のうちにソーイチローの体はいじってある。今のソーイチローはこの世界でフェリちゃんの次くらいに強力な存在だ。


「まあそのへんについては心配してないけど……」


「じゃあなんなのよ」


「いや、ソーイチローが変なフラグとか立ててくるんじゃないかと思って」


 フェリちゃんが何それ、みたいな顔をしている。一旦ソーイチローについて整理してみよう。


「ソーイチローが巻き込まれ体質ってのはさっき言ったよね」


「まあ確かに普通の人間の家は異世界に繋がったりしないわね」


「それにソーイチローって面倒見がいいし、優しいでしょ?」


「まあそうね。あなたとか私があの部屋に居ついている事に文句一つ言わないものね」


 ぶっちゃけ私たちってただ飯食らいだからね。


「それに顔も悪くないし、なんでだか異世界の物事に対して慣れてるでしょ。つまるところ……」


「つまるところ?」


「時間をかけるとへんな女とかを引っ掛けてくる可能性がある」


 おっと、何言ってんのって顔だね。けっこう重要よ、それ。


「フェリちゃんだってソーイチローのこと好きでしょ?」


「まあ、男として好きかといわれればまだ分からないけど。少なくとも友人としては」


 まだってつけるあたりフェリちゃんも可能性ありだね。


「だから早く見つけなきゃいけないんだよ!」


「なんか話の流れが飛んだ気がするけど、まあいいわ。さっさと人間界に向かいましょう」


 なんか流された気がするけど、まあいいか。












 人間界の捜索を始めてから約一時間。ようやくソーイチローの反応を掴む事が出来た。


「ねえあなた。勝手に神託とか使ってよかったの? 今は人間との交流は禁じられてるんじゃなかった?」


「いいのいいの、どうせわたしが天使で一番偉いんだし、天界神はそんな事気にしないし」


 教会に神託を下し、人間たちに探索魔法を使ってもらった。天使の力を持つ人間を探せっていう神託だから、この世界には蒼一郎しかいないはずだ。


 探索魔法に引っかかった場所は、人間達の住まない不毛の土地だ。果ての土地、とか言われているみたいだね。なんでこんな場所に落ちてるんだか。


 あたり一面緑の無い荒野が広がっている。上空から探してはいるけれど、人影は見当たらない。


「ねえフィール。見間違いかしら。あそこに村があるように見えるのだけれど」


 うんわたしにも見える。こんな所に村……?


「何となくあそこに居る気がするね。行ってみよっか」


 翼を羽ばたかせ、一直線に村へと向かう。降り立ってみると、村ともいえないような貧しい雰囲気がぷんぷんだ。


 建物は掘っ立て小屋もいいとこ。畑のようなものもあるけど、こんな場所じゃ碌に作物なんて取れないだろう。


 生物の気配はするけど、そのどれもが人間じゃない。なんなんだろう、この村は。


「とりあえずあそこの一番大きな建物で聞いてみましょうか」


 フェリちゃんの案に従って、村の中で唯一建物としてまともなそこに入ってみる。


 まともと言っても、日本にあったら廃屋だろうけど。


 入り口にかけてある藁のようなものを手で除け、中を覗き込む。




 中では蒼一朗が、巨大な鬼と小さな老人と共に、楽しくお茶をしていた。


 






「おお、フィールとフェリシア、やっと来てくれたか」


 いやはや待った待った。時間で言うと二時間位か? まあ広い世界からヒント無しに二時間で見つけてくれたんだから早いほうか。


「いや探したよー。というか何でソーイチローはこんな所で楽しくお茶なんてしちゃってる訳? しかもそこに居るのってオーガと魔人じゃん! もう訳が分からないんだけど……」


「まあ一から説明するとだな……」


 この村は、通称果ての村。ここに住んでいるのは人間ではなくて、人間達の住む領域では生活できないようなもの達だ。


 人間達に迫害されている、魔人や獣人とのハーフ。彼らは魔人や獣人、そして人間達の全てから迫害されているため、普通の場所では暮らすことが出来ない。


 他にも、住処を追い出された意思のある魔物や、脱走した奴隷など。様々な者達がここで共同生活を行っている。


 今俺の目の前に居る鬼とババア。鬼のほうは、オーガという種族だが、本来二本あるはずの角が一本しかないため、部族の住処から追放されたようだ。


 ババアの方は魔人のオリヴィエ。どうやら人間達の悪魔召喚により人間界に呼び出されたようだ。なんとかして人間達からは逃げ出したものの、魔界に帰ることが出来ないためここに住んでいるようだ。


 出会った時は完全に敵だと思われて攻撃されかけたが、攻撃の意思が無い事を示すとすぐに客人として迎え入れてくれた。このババアには人の善悪を見分ける事が出来るようだ。


「とまあこういう感じで、フィール達を待ってる間暇だからここでお茶をご馳走になっていた訳だ」


「訳だ……って打ち解けるの早くない?」


「まあ結構いいやつらだし」


 目の前に座るオーガとババア。オーガのキキは、突然天使と魔王が現れた事で硬直してしまっている。


 ババアは特段変わった様子は無いな……やけにフェリシアの事を見ている気がするが。


 当のフェリシアはというと、こちらも何故か硬直して目を見開いている。どうした?


「ば……」


 ば?


「ばあやじゃない……こんな所にいたんだ……」


 そう言いながら、目に涙を貯めるフェリシア。


 どうやらこのババアと知り合いのようだ。ばあや、という言葉から察するに、世話になった人物なのだろう。ここは一旦静かにしておくとしよう。


「ソーイチローってなんかこういう変なフラグすぐ立てるよねー」


「たぶん感動の再会シーンなんだから、ちょっと水を差すのはやめてもらえます?」


 このロリ天使は。空気を読むという言葉はこいつの辞書には存在していないようだ。

次回更新は明日夜です。次回はこのどん詰まりの村を、蒼一朗たちがちゃちゃっと救います。この作品にシリアスなど無いのです。


次回「救いの手」


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