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16 そうだ、魔界へ行こう

異世界へ行くようです。

「ねえソーイチロー。魔界に来ない?」


 八月も終わりが見えてきたある日の午後。いつものようにゲームをしているフェリシアがふと思い出したようにそんな事を口にした。


 魔界……ねえ。字面だけでもうヤバイ匂いがぷんぷんしてるんだよな。


 そもそも俺はあまり異世界には行きたくないのだ。俺はただの一般人で、武術の心得も無ければ特に体を鍛えているわけでもない。勝手な偏見だが異世界ってのは危ないっていうイメージが強いし、俺なんて下手したら死んでしまうかもしれない。


 というかそもそも何でそんな事を言い出したのだろうか。


「明日から魔王国の創立祭があるのよ。どうせだからソーイチローもこないかなーって思って」


 創立祭かー。そういや今年は祭りとかに行ってないな。ただ祭りに行きたいという気持ちよりも怖いという気持ちのほうが強い。へたれだと笑うなら笑え。


「その辺は大丈夫よ。ソーイチローが来るならフィールも来るでしょ?」


「いくー」


「あっちの世界で最強の天使と、魔王であるこの私が居るんだから。この二人に守られてる人間に攻撃できるのなんてあの世界には居ないわよ?」


 と自信ありげに胸を張るフェリシア。まあ確かにそうか。


「まあ万が一死んじゃっても復活させるから大丈夫だと思うよー」


 フィールもそう言っている事だし、魔界のお祭りってのも興味あるな。


「んじゃ行ってみるかー。創立祭ってのは何日間あるんだ?」


「明日が前夜祭で、明後日がお祭り本番ね」


 一泊二日か。それくらいなら大丈夫だろう。


 そんな訳で、俺達は魔界に行く事になった。気分はちょっとした旅行だな。








 翌日、旅支度を整えた俺は、フェリシアとフィールに誘われ、初めて自分から押入れの奥へと足を踏み入れた。


 旅支度と言っても、いつものダル着から普通の私服に着替えただけだけど。ちなみに俺の頭の上にはアズがどん、と乗っている。付いてくるのはいいが、何故そこに陣取ったのか。


「それじゃー行こっかー。わたしも久しぶりのあっちの世界なんだよねー」


「ソーイチロー。真っ直ぐ私達の後ろをついてきてね」


 二人とも迷いの無い足取りで押入れへと入って行く。俺も心を決めて、暗闇へと進む。


 扉をくぐれば、途端に辺りは闇に支配された。目の前のフィール達を見失わないように……


 おそるおそる光の無い道を進んで行く。それにしても、ここは一体どういう場所なんだろう? とそんな事を考えながら歩いていると、少し道を外れてしまっていた様だ。


 いけないいけない。真っ直ぐあの二人についていかないと……うぉっ!


 急に足場が無くなった様な感覚。その直後に襲ってきた浮遊感。


 やばい、落ちる――


 必死に手を伸ばすが、暗闇の中には手をかける場所など無く、そのまま落ちていく。


 声を出す間も無いまま、俺は闇に飲まれていった。








「ソーイチロー。真っ直ぐ歩かないと何処に落ちるか分からないからねー気をつけてよー」


 暗闇を進んで行くなか、わたしはソーイチローに声を掛ける。ソーイチローは意外と抜けてるところがあるから、こうして小まめに声をかけておかないとふらっと道を外れてしまうかもしれない。


 というか、ソーイチローから返事が返ってこない。

 

 ……マジで?


「フィール。ソーイチローが居ないんだけど」


 フラグの回収早すぎなんだけど! まだ押入れをくぐってから数秒しか経ってないんだけど!


「ちょっとこれまずいんじゃ無いの? 下手すれば上空に放り出されている可能性もあるわよ?」


 あせった様なフェリちゃんの声。ぶっちゃけわたしもあせっている。


「一応昨日のうちにソーイチローの体を改ぞ……もといソーイチローには加護を与えておいたから、そうそう死ぬような事は無いと思うけど……」


「あんた今改造って言おうとしなかった?」


 改造しましたけど。今のソーイチローは半分ぐらい天使ですけど。


「そんな事より、早くソーイチローを探さないと! 死にはしないと思うけどソーイチローの事だから、なんか面倒なイベントに巻き込まれるよ!」


「いや、別にソーイチローってそんな巻き込まれ体質じゃ……」


「巻き込まれ体質じゃ無かったら部屋が異世界に繋がるわけないでしょーが!」


「確かに……とりあえず私は魔界を探してみるから、フィールは天界と狭間の方をお願い。人間界に落ちてた場合が面倒ね……」


 一応人間界には魔界も天界も不干渉を決め込んでるから、人間界に踏み込むのは少し面倒だ。


「とにかく全力で捜索ね!」


 わたし達は急いで世界を渡ると、ソーイチローを探して全世界を飛び回る事に。


 頼むから無事で居てよ、ソーイチロー。











「ふぉぉぉぉぉぉぉぉまたこの展開かよぉぉぉぉぉぉぉ」


 俺こと七海蒼一朗は現在、パラシュート無しでスカイダイビングを決行している。なんで落ちた先が遥か上空なんだよ!


 前回異世界に来た時と同じように、上空から落ちていく。前回と違うのはフィールがここに居ないこと。つまるところ絶体絶命大ピンチだ。


「アズ、何とか、何とかならないか!」


 駄目元で抱きかかえたアズに聞いてみる。うねうねと形を変えたアズが平たく伸びていき、ちょうど大きな傘のような形になる。


「よし、これで何とかスピードを落として……」


 地上が近づくスピードが少しづつ下がっていき……ある程度落下スピードが落ちてきたところでその速度の減少が止まる。


 アズの健闘むなしく、そこそこのスピードを保ったまま地面が目の前に迫り……


 ――あれ、死んで無い。


 着地した姿勢のまま硬直する。何故か着地姿勢が某鋼鉄のヒーローになってしまっているが、気にしないことにしよう。


 服についた土ぼこりを叩き落とし、一応自分の体を確かめる。うん、驚くほどに無傷だ。あんな猛スピードで落下したというのに。


 なんとも不思議な感覚に包まれるも、まあ生きてたんならいいか。


「アズもありがとな」


 傘の形から元の愛くるしい楕円形に戻ったアズを頭の上に置く。やっぱりちょっと首が重い。普通に抱きかかえておこう。


「それにしても、ここは一体何処なんだ? 雰囲気的には魔界っぽい感じだけど」


 辺りを見渡してみると、目に入ってきたのは一面の荒野。緑一つ存在しないその感じは魔界と言われればイメージどおりだが。


 迷子になった時はその場を動くなとよく言うが、俺は今迷子なのだろうか。この場で待つべきなのだろうか。


 そんな事を考えてみるも、結局あても無く歩き出した俺の目に、集落のようなものが見えてきた。いかにもなぼろ屋が立ち並んでいる。こんな所に村だろうか。








 村っぽいそこに興味が沸いた俺は、その村を訪れてみる事にしたのだが……


「お、おい人間! 何をしにきた!」


 俺の目の前に立ちふさがるのは鬼。額から突き出た一本角に、赤い皮膚。そして肩に乗せたババア。


「こ、この村に危害を加えようとするのであれば、よ、容赦はせんぞ!」


 ところどころどもりながら話すその様からは、イマイチ威圧感を感じない。見た目は怖いのだが、肩に乗せたババアがその怖さを中和している。


 この世界に来て始めて出会ったのは、ババア付きの鬼でした。なんやねんこれ。

ここまでご覧頂きありがとうございます。


~ちょっとした裏話~


フィールとフェリシアは探索系の魔法が使えません。二人とも戦闘特化型です。二人もそのことが分かっているためあえて触れないように話しています。


何やら怪しげな集落にたどり着いたソーイチロー。無事に二人と合流できるのでしょうか。


次回「蒼一朗と果ての村」

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