13 街に行こう
予告と若干タイトルが変わっています。
今回は動画の準備回。
最寄り駅から電車で二駅。ここらじゃ一番大きな町へと出てきた。
「いやー、ここまで出てくると田舎感は無くなってくるよねー」
おいフィール。それは俺の住む場所が田舎だと言っているのか? 一応都内だぞ。
今日もフィールの格好はいつもと変わらない。文字入りのTシャツに短パン、一応日差しを気にしているのか麦わら帽子を被っている。本人には言わないが、田舎の子供にしか見えない。
対してフェリシアはと言えば、こちらは何故かセーラー服を着ている。まあ確かに見た目は十代だから違和感は無いけど、一体そんなもんどこで仕入れて来たんだ。
そんな俺の疑問をよそに、フィールとフェリシアはずんずんと街に向かって歩いて行く。自信ありげな足取りだが、こいつらは何処に行くのか分かっているのだろうか。
「おいフィール、お前何処に行く気だ?」
「どこってゲームメイトだけど?」
だけど? じゃ無いでしょうが。何普通に街に遊びに来た感じなんだよ。
「今日はカメラを買いに来たんだろうが。なんでアニメショップに行こうとしてるんだよ」
「あーそだったね。すっかり忘れてたよ。ゲームメイトはとりあえず後に回そう」
「結局行くのかよ。んでフェリシア、お前は何処に行こうとしてる」
「え? ゲームセンターだけど。今日からフィナーレファンタジアのアーケード版が稼動開始なのよ」
え? じゃ無いよ全く。なんで当の本人が目的そっちのけで遊びに行こうとしてるんだよ。
結局目的を覚えてたのは俺だけか。
「とりあえず今日はカメラを買いに来たの。その目的を果たすまで遊びはお預けです」
「へーい」
「そうね。ゲーセンは逃げないものね」
逃げるわけ無いでしょうが。
カメラの名を冠する巨大家電量販店、その七階に降り立つ俺達三人。そういやこの店にカメラを買いに来るのは初めてかもしれない。
「やっぱり凄いわね日本って。カメラだけでこんなに種類があるなんて」
デジカメに一眼レフ、ミラーレスやらなんやら沢山あるな。初心者の俺には全くといっていいほど違いが分からない。
「時代はデジ一だよソーイチロー」
「なんだ、フィールってカメラとか詳しいのか?」
俺と一緒でカメラなんて縁の無いやつだと思っていたが。だって俺達基本外出ないし。
「いや、全然」
「適当じゃねーか」
そんな適当な会話を繰り広げながらフロアを練り歩いていると、店員の方からこちらへと声を掛けてきた。助かった、丁度声を掛けようと思ってたんだ。
「お客様、カメラをお探しですか?」
「あ、ああ、はい。動画とかを撮れるカメラを探してるんですけど……」
……やっぱり初対面の人と話すと若干緊張してしまうな。異世界から来るやつ相手なら大丈夫なんだけどなー。
緊張してちょっとどもってしまった俺だったが、店員さんは特に気にした様子は無くカメラを紹介してくれる。
「動画でしたらビデオカメラか一眼レフがお薦めですね」
「一眼レフって写真を撮るものじゃ無いんですか?」
「最近の一眼レフは動画も撮れるんですよ。デジタル一眼レフ、デジ一ってやつですね」
後ろでフィールがドヤ顔をしているのが見なくても分かる。お前はとりあえず知ってる単語を出してみただけだろうが。
「二つの違いは、ビデオカメラなら長い時間の動画が撮れます。デジタル一眼ならばかなりの高画質の動画が撮れますね。……ご家族での外出時の動画撮影であればビデオカメラがお薦めですね」
ご家族での、の所でフィールとフェリシアに目をやる店員さん。大分悩んだな。まあ確かに冴えない男と外国人の娘二人を結びつけるってのは中々至難の業かもしれない。
「いや、一応家での撮影に使おうと思ってるんですけど……」
「ああ、動画投稿用のカメラですか?」
得心いったかのような表情で頷く店員さん。聞く話によると、最近多いようだな。動画投稿用のカメラを買いに来る客ってのは。
「それでしたらデジタル一眼を使っているお客様が多いですね」
んー。ならそれでいいかな。
一番安いモデルだと……うお、カメラってこんなにするのか。
結局、下から二番目のモデルを購入した。いや、なんかあるじゃない。一番下のモデルを買いたくない気持ちって。
その後、結局フィールとフェリシアのアニメショップとゲーセンにつき合わされた。何が辛かったかというと、回りの男性陣の何だこいつ、という視線が辛かった。
「ただいまー。アズただいまー、つかれたよー」
家に帰り、靴を脱ぐなりアズに向かってダイブするフィール。そのフィールを全身を使った華麗なステップで回避するアズ。そして畳に顔面から飛び込むフィール。何やってるんだこいつは。
フィールを回避したアズは、のそのそと俺のほうまで来ると、足元でぴょこんと一跳ね。これはたぶんお帰りってことだろうか。
現状アズは一番フィールに懐いていない。たぶんいちいち抱きついてくるのとかがうっとうしいんじゃ無いかな。
「アズただいま。悪いがこれをちゃぶ台まで運んでくれ。俺はもう疲れた」
家電量販店で買ったデジタル一眼レフと、フィールがアニメショップで買ったグッズや本をアズへと手渡す。器用に体を変形させてそれらを運んでいく。
……自分で渡しといてなんだが、スライムってあんなに器用に変形するものなのだろうか。
「最近のスライムって凄いわね」
フェリシア、それはもういいよ。
「んじゃ早速動画の準備してくかー」
「おー」
「今更言うのもなんだけど、ちょっと緊張してきたわね」
何を今更。あれだけ大きな出費だったんだ。フェリシアには頑張ってもらわないと困る。
とりあえず一眼レフをパソコンに接続して、ちゃんと映るかどうかを確かめる。ちなみに生放送に関する知識の方も例の店員さんにしっかりと聞いてきた。あの人何でも知ってたな。
「そういやソーイチロー。マイクスタンドってあるの?」
あー。無いな。最悪フェリシアにはマイクを持って歌ってもらって……ん?
視界の端で、アズが何やらもぞもぞと動き始めた。そのままうにょーんと変形していったかと思うと、そこには立派なマイクスタンドに変形したアズが居た。
「いやいや、もう何がなんだか分からんぞ。お前本当にスライムか?」
クリアブルーのマイクスタンドに変形したアズに尋ねるが。当然答えなど返ってこない。
「もう深く考えるのはやめたわ。アズはアズという生き物なのよ」
悟ったようなフェリシアの表情を見て、俺も深く考えるのをやめた。フィールは「アズはすごいねー」と親バカを発動させている。どうでもいいけどマイクスタンドに抱きついてる姿はかなり間抜けだからやめたほうがいいと思うぞ。
そんなこんなで準備は進み、遂に放送開始時間が迫ってきた。
「……よし、トゥイッターでの最終告知も終了っと」
フィールが自分のアカウントで、フェリシアの放送の宣伝をしているようだ。俺も作家蒼井一のアカウントでリトゥイートしておこう。えーと。
『このあと午後9時から、天使フィルのソウルシスター、フェリシアちゃんの生放送がスタート! 初回放送の今夜は超絶美少女のフェリちゃんがその美声を披露しちゃうよ! リンクはこちら! みんな拡散よろしく!』
なるほど、ネットでの宣伝っていうのはこういう軽い感じなのか。おおっ! このつぶやき一万もリトゥイートされてるぞ。フィールって本当に有名人なんだな。
時刻は九時十分前。なんか俺まで緊張してきたな。
「フェリちゃん大丈夫? 緊張してない?」
「よく考えたら私って日常的に数千人の魔族の前で演説とかしてるのよね。そう考えたら別に平気になってきたわ」
さすが魔王。メンタルが強い。
フェリシアの心の準備も整ったようだ。機材の準備も完璧……だと思う。
時計の針が回り、短針と長針が重なる。さあ、異世界の魔王の生放送スタートだ。
次回「魔王フェリシアちゃんねる」
投稿は明日夜くらいです。
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