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12 魔王と動画

予約投稿が出来ていなかったようです。今帰ってきて手動投稿しました。


第十二話です。

「お金が稼ぎたいの」


 今日も今日とてだらだらと六畳一間で過ごしていた昼下がり、フェリシアが唐突にそんな事を言い出した。


「お金なら向こうから適当に宝石とか金とか持ってきて売ればいいじゃん」


 アズを撫で回しながらそう言うフィール。どうもすべすべひんやりとしたアズがお気に入りのようだ。


 まあ確かに。フェリシアは魔界を束ねる王様だもんな、それくらい容易いだろう。


「そんなの駄目よ。向こうの金なんて持ってきたって鑑定書も無いのに売れるわけ無いでしょ」


 いつの間にそんなに日本について詳しくなったんだお前は。


「んじゃ宝石なら大丈夫じゃないのか?」


「魔界の宝石は人間を食べるわ」


 マジかよ。魔界怖すぎなんだけど。


「それに国のお金をそんな風にするわけにはいかないわ。トップに立つ私がそんなんじゃ下が同じ事をしても怒れないわ」


 腰に手を当てて立ち上がり、そうのたまうフェリシア。素晴らしい魔王様じゃないか。少しテンションが上がったのか角が若干光ってるな。


 それにしても、何でそんなに金が欲しいんだ? 基本的にここで暮らす分には金なんて必要ないし、たまにどこかに行くときは小遣い程度には渡してるけれども。


「フェリちゃんなんか欲しいものでもあるの?」


 アズを畳へと置いて、冷蔵庫から麦茶を取り出しながら、フィールが俺の言いたい事を言ってくれた。


「えーと、ね。その……」


 何やら言いづらそうだな。聞いちゃまずい事だったのか?


 もじもじと言うか言わまいか悩んでいるフェリシア。フィールに解放されたアズがのそのそとこちらに来たので、抱き上げて胡坐をかいた足の上に収める。ほうほう、そんなに俺の事が好きか、愛いやつめ。


 ふよふよとアズの感触を確かめていると、どうやらフェリシアが言う決心をしたようだ。


「あの、か、課金がしたいの」


「……ふぇ?」


 フィールからマヌケな声が漏れたな。おい、お茶を畳にこぼすんじゃないよ。









「それで、課金がしたいけどお金が無いから、どうにかしてお金を稼ぐ手段が欲しいと」


 こくこくと頷くフェリシア。間抜けな理由ではあるが、その瞳は真剣そのものだ。


「課金……ねえ……」


 スマホアプリには課金した事って無いんだよなー。個人的にはその金で家庭用ゲーム機のソフト買っちゃうタイプなんだよ、俺は。


「フェリちゃん、課金は沼だよ。一度嵌ったら抜け出せない、そのままずぶずぶと沈んで行って、自分の力ではどうしようも出来なくなる」


「なんか、やたらと現実味のある言葉ね……もしかしてフィールも?」


「いや、上の階の人が」


 ああ、そういやヘルフリッツも重課金者だったな。この間会ったときも「ソーイチロー氏、課金とは金額を決めてするものではないのですぞ。出るまでが課金なのです」とか言ってたな。


「君には、その覚悟があるのかっ!!!」


 急に立ち上がって香ばしいポーズをしながら急に声を張るフィール。テンションの差についていけねえ。


「いや、別に覚悟とか言われても……」


 ついていけてないのは俺だけじゃ無かったみたいだ。良かった。アズも同意するようにふるふると震えている。


「まあ別に課金自体は止めはしないけど、金を稼ぐ方法ねー。戸籍が無いからバイトは無理だし、直ぐには思いつかないな」


「そう……」


「なら動画投稿者なんてどうかな!」


 先ほど俺達にスルーされたフィールが、尚もハイテンションで捲し立てる。いい加減そのテンションはやめたほうがいいと思うぞ。ただただうるさいだけだし。


「はあ? 動画投稿者?」


「そうそう、いわゆるヨーチューバーってやつ。ヨーチューブに動画を投稿すると、その動画が再生されるたびに少しずつお金が入ってくるの。頑張れば億万長者だよ!」


「億万長者って言ったってそんなのごく一部だけだろう? そんな簡単に稼げるような世界じゃないだろうに」


 動画投稿者も大変だって聞くぞ。毎日色んなネタを考えて、動画撮影に編集でものすごい時間をかけてるってこないだテレビでやってた。


「ちっちっち、まだまだだね。ソーイチロー。美少女ってのはそれだけで商品になる、そんな時代だよ? それにここに十万のフォロワーを持つ天使(あまつか)大先生がいるわけだ」


 んー、確かにいけそうな気がするな。どこかのテニス漫画から引っ張ってきたようなセリフにはイラっとしたが、言ってる事はもっともだ。


「ヨーチューバーってあれよね? ゲームを実況しながらプレイしたりする人。私見たことあるわ。あれならやってみたいわね」


 ゲーム実況も、主戦場がニコ動からヨーチューブに移って久しい。あのころのゲーム実況も好きだったんだけどなー。


 にしても、フェリシアもやる気のようだ。まあ動画を投稿するのはタダだし、やるだけやってみようか。







 

「とりあえずアカウントを作って、っと。そういや名前はどうするんだ?」


「本名でいいんじゃない? フェリちゃんのフルネームかっこいいし」


「別にそれでいいわよ」


 フルネームね。とりあえず俺のパソコンでサイトを開いて、新規登録っと。


「そういやフェリシアのフルネームってなんだっけ? フェリシア・ド・ヘーゼルナッツみたいな感じだっけ?」


「何よそのアイスみたいな名前。フェリシア・ディ・アスタルティアよ」


 そうだそれそれ。長い名前って覚えらんないんだよな。


「んじゃあ早速一本とってみるかー。幸いマイクはあるし、適当に歌でも歌ってみるか?」


「お、ソーイチローの負の歴史の名残だね」


 うるさいよ、その事を言うんじゃない。


「負の歴史?」


「ソーイチローが昔歌い手に」


 それ以上は言わせない。あわててフィールの口を塞ぐ。あわてていたせいで抱えていたアズをフィールの顔面に叩きつけてしまった。すまん、アズ。


 地上で溺れているフィールはさておき、フェリシアの収録の準備だ。まあマイクとヘッドフォンを用意するだけなんだけどな。あとはあれだ、マイクの前に置くポップガード。どんな効果があるのかは分からないが、一応つけとくか。


「そういやフェリシアって歌とか得意なのか?」


「まあそれなりに教育は受けてきているけど、そこまで自信はないかなー」


 そういいながら、パソコンを使って自分の知っている曲のカラオケバージョンを探すフェリシア。


「じゃあこれにしようかしら」


 選んだのは、数年前にやっていたアニメの主題歌。そういやこのあいだフェリシアが見たいというのでブルーレイを借りてきたな。ゲームが原作のタイムリープする空想科学アドベンチャーのやつだ。


 何でこれにしたんだか分からないが、早速一発撮ってみよう。











 ……何これ上手い。本当に歌が上手いやつの歌って編集無しでも何の問題も無いんだな。


「イケる……これなら生放送でも数が稼げるで……!」


 いつのまにかサングラスを掛け、首にシャツをくくりつけたフィールがそう言う。なんだそのコテコテのプロデューサースタイルは。来ているシャツに『働いたら死ぬ』って書いてあるせいで色々残念すぎる感じになってるぞ。


 確かに、これなら本格的にいけそうな気がする。


「よし、明日街にカメラを買いに行って、夜に生放送だな」


 そんな訳で、俺達三人は、街に行く事になった。

 

次回「異世界人と街」


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