9 異世界人と夏コミ 前編
第九話。コミケに行きます。
少し長くなったので前編後編に分かれています。
「来た……」
真夏の日差しが爛々と輝く中。朝七時、俺たちは東京国際会議場へと降り立っていた。
「来たんだ……」
あたりにはちらほらと、サークル参加する人たちが姿を現している。入場は七時半から、まだ三十分くらい時間がある。
「来たぞビッグサイトーーーーーーー!!!!!!」
「うるせえ!」
念願のコミケに来たフィールは、テンションが振り切れて壊れてしまっているようだ。周りの人たちから注目を集めてるから、少し大人しくしていてくれ。
「凄い建物ねー。あの三角形とかどうなってるのかしら」
今日も今日とて、俺たちと一緒に行動しているフェリシアだが、日本の建築技術に驚いているようだ。
「それにしても、お前最近ずっとこっちにいないか? 一応魔王なんだろ?」
「問題ありません。基本的に魔王城、及び国の業務は魔王様がいらっしゃらなくても滞りなく執り行えています」
……何故かついて来たシルが代わりに答えてくれた。
「っは! その何でお前までついてきてんだという視線! さすがはソーイチロー様、よく分かっていらっしゃる!」
あー、面倒なのがついて来てしまった。
身体をくねらせながらこちらを見つめるシルをしっかりと無視し、テンションが上がりすぎて今にも駆け出しそうなフィールを捕獲する。
なんだか凄く疲れる一日になりそうだな。
コミックマーケット。世界最大規模の同人誌即売会である。
実を言うと、俺もコミケに来るのは今回が初めてだ。一度足を運んでみたかったのだが、まさか初参加がサークル参加になるとは思ってなかったな。
会場入りした俺たち四人は、俺たちのサークルに割り当てられた場所を目指す。たしか西1のふ13だったか?
「フェリシア、もう角を出しても大丈夫だぞ。シルも窮屈なら尻尾出してもいいぞ」
ここに来るまでは、フェリシアはその魔王っぽい角を、シルはそのサキュバスの尻尾をそれぞれしまっていた。どこに消えるのかは分からないが、己の意思で自由に出し入れできるらしい。
フェリシア曰く、会場に着く前にコスプレをしているのはご法度だそうだ。
「ふう、やっとこの窮屈さから開放されるのね」
フェリシアの後頭部からにゅいんと角が伸びてきて、いつものように肩口から前に突き出す。いったいどういう仕組みになってるんだ。
「おー、ここだよここ、我らがサークルの場所ー」
ちなみに、俺たちのサークルの名前は六畳間ファンタジア。六畳間ではなく六畳間らしい。よく分からないがフィールのこだわりのようだ。
それにしても会場が広いな。駅からここまで、大量の荷物を持って歩いてきたからすっかり疲れてしまった。
パイプ椅子にどっかりと腰を落として一息つく。コミケの開始まではまだまだ時間があるというのに、会場はサークル参加する人達で賑わいはじめている。
祭りが始まる前のあのわくわく感があるな。
「そういえば、フィールは結局二種類同人誌を用意してきたのか」
長机の上に並べられた本を手に取り、フェリシアが言う。
「そうだよー。マジックバレットオンラインのアンソロジーと、オリジナルのやつを一個づつ」
マジックバレットオンラインというのは、少し前に激流行したアニメだ。ログアウト不可のVRゲームに閉じ込められた主人公達がゲームのクリアを目指すという内容で、魔法と銃弾の入り乱れる戦闘描写が人気を呼んだ。
オリジナルのほうは、俺たちの日常を漫画にしたもので、タイトルは「六畳間神話体系」
……色々と問題のあるタイトルだな。ちなみに両方とも全年齢対象だ。
キャリーケースの中に入れてきた同人誌を陳列し、準備はだいたいが終わった。開始まで大分時間があるな。
「ねーソーイチロー。知り合いの絵描きさん達のところを回りに行くんだけど、一緒についてきてよ」
「ああ、分かった」
一人で行けばいいものを。フィールは物凄く人見知りをするタイプだから、一人ではあいさつ回りに行けないらしい。
重い腰を上げ、フェリシアとシルに留守番を頼んで広い会場へと足を向ける俺たち。
長い一日が始まろうとしていた。
挨拶回りをしていて驚いたのは、意外にも俺に声を掛けてくれる人が多かった事だ。どうもフィールは今回出している俺たちの日常を描いた漫画をSNSで公開していたようで、その中には俺がしっかり実名で登場していた。しかも作家の蒼井一であるという事までしっかりと書いてあるのだ。
「それで? 何か言う事はあるか?」
「ご、ごめんなさい」
完全に身バレ、個人情報なんてあったもんじゃ無い。一応現実では俺たちは兄妹だと言う事にして乗り切ったが……
「今頃ネットじゃ俺はロリコン扱いされている可能性が大だな……」
「非常に申し訳なく思っております……」
まあフィールも反省しているようだし、ここはまあ水に流そう。もはや取り返しがつかない気もするが、作家なんて基本的に顔出しはしないから、まあどうとでもなるだろう。
後日、担当編集さんに「蒼井先生って幼女と同棲してるんですか?」といわれる事になり、非常に恥ずかしい思いをする事になるのだが、それはまた別の話。
俺たちのサークルスペースまで戻り、クーラーボックスからスポーツドリンクを取り出して、皆に配る。この熱さだ、水分補給はしっかりしておかないとな。
「まあわたし達は熱中症になったりしないから、一番心配なのはソーイチローだけどねー」
「まあそりゃそうなんだけども」
よくよく考えてみれば、ここにいるのは全員異世界人で、しかもその世界のトップクラスの強者だ。どう考えても俺が一番身体が弱い。……自分で言っていて悲しくなってきたな。
そんな会話をしながら、たまに挨拶に来るフィールのSNSでの知り合いと会話を交わしたり、隣のスペースのサークルの人と自己紹介がてら本の交換をしているうちに、開場の時間が近づいてきた。
妙な緊張感があたり一体に漂っている。
「この妙な静けさ……なんだかムラムラしますね……」
……このサキュバスだけは平常運転だ。お前最初にあったころの出来る秘書っぽい雰囲気はどこに捨ててきたんだ。
唐突に会場内に放送が入る。コミックマーケットの始まりを告げる放送と、少し遅れて外から聞こえてくる歓声と拍手の音。会場内でも結構な人数が拍手をしている。
「……来る」
ここまで来れば俺でも分かる。物凄い人の塊が外からなだれ込んで来ようとしている。
夏コミが、始まる。
コミケ回。私はサークル参加したことが無いので、友人から聞いた話を参考に書いていますが、ここは違うよ、見たいな事があれば教えていただけると幸いです。
後編は明日夜の投稿予定です。




