花子と夫の出会い
最初の自己紹介でふれた既婚者。
そう、私には夫がいるのだ。
名前は、田中太郎。
二人の出会いは今時古臭い見合いだった。
細長い顔。
鼻は長く、唇が薄い彼の顔を見た私の彼への第一印象は、「うっすいな」だった。
今覚えば大変失礼である。
そのころには想像もしていなかったが、今ゴールインしてしまったのだから、
人生なにが起こるかわからない。
まぁ、そこはおいておいて。
今回話をしたいのは、そこではない。
その当時、うっすいなこいつ。
そう思っていた彼とはこの先ないなー。
どうやって断ろうかな。
無難に傷つけない方法はないのかな。
花子は真剣に考えた。
この時、ひらめいた。
「私、BLとか大好きなんです!オタクなんです!とか言ってドン引きさせちまおう!」で、あった。
あとになって、なぜこのような行動に出たのか理解に苦しむ。
友達にも言われましたよ。
なんでそれで断れると思ったのかよって。
あほだった自分の頭をピコピコハンマーで殴りたい。
花子は太郎をじっと見た。
太郎は首をかしげながら、なにか言いたげな花子をまった。
花子は緊張した顔で、深呼吸をした。
そして、意を決して口を開いた。
「私、腐女子なんです!」
太郎はぽかんとした。
「腐女子というのは、男同士が絡んでいるのをみると興奮する」
「そこに親友とかライバルとか関係性が付与されれば、すごくおいしい!」
「そんな私にノーマルなあなたは不釣り合いだと思います」
「さようなら!」
花子は早口でまくし立てた。
ぜーぜーはーはーと肩で息をする。
顔から火が出る勢いで恥ずかしい。
だが、太郎は優しく花子の肩に手をぽんとおいた。
花子はあぁ、見合いをあっせんしてくれた人に後で謝ろうと静かに思った。
普通、腐女子はお断りだよなぁ・・・。
しかし、彼女にかけられたのは逆だった。
「僕は君に興味があるので、おつきあいしましょう」
花子はこの発言に耳を疑った。
こいつ、なぜ興味を持った?
混乱する花子に対して、太郎はこの時、腐女子がなんたるかを知らないでいったのである。
知らないというのは、ある意味強い。
第三者がいたらそういうかもしれない。
太郎を仏か何かに見える花子と変わった子だなぐらいしか思っていない太郎の認識の差は、
この後の長い付き合いで調整されるのだった。
それは、また、別の話。