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星天の霹靂  作者: 白州
第1章:集う星々
16/22

・心情、とある少年の話

_______政府内建造物の1つ、『四地二天の塔』。……首相や能力者などしか出入りができない特別な塔。


政府内は広大。霞ヶ関一帯どころか、それ以上の地域にはみ出すくらい広大だ。


特別な『四地二天の塔』でさえもその広大な敷地の一区画を占めているにすぎない。


この塔の周りには、能力者ではないが特殊な地位を持った人間………昔でいうなら、上級貴族って奴等が住まいを持って生活している。


…………そんな、クソッタレの上級貴族様方の敷地内。無数にある豪奢な庭園の白塗りベンチで、俺…………早乙女(さおとめ) 恋誠(れんせい)は、近くにそびえ立つ忌々しい塔を睨みつけながら缶ジュースを飲んでいた。



「……ひっでぇ甘さ。……と色。合成着色料なんてレベルじゃねぇぞこれ……」



両親(・・)が嬉しそうに買ってきてくれた娯楽品。「こんなに貴重な物、私達でもなかなか手に入らないのよー、大事に飲みなさい!」………なーんて言われて、1つ貰ったのはいいものの。



「………チッ、こんなん飲めるか!」



我慢してちびちびと飲んでいた缶ジュースを、その辺にあったゴミ箱に放り捨てる。

未だ残っていた缶ジュースの中身が空中に投げ出され、ゴミ箱への軌跡を描くようにどす黒いピンク色が地面に染み込んだ。


胃と胸がムカムカして最悪の気分だが、外見だけ見繕った庭園の一部を自分が汚したような気がして、少し得意になった。


……くだらない。今俺が置かれている立場も、俺自身も、全部……全部くだらな_____



「_________酷い所作だな。本当にお前、俺の現し身なのか?」



____ソレ(・・)に気づくことさえ、できなかった。……ぞっとするほど聞き慣れた声で話しかけられて、ようやく後ろを振り返る事が出来た。


ベンチに座っていた俺の、真後ろ。

ソレ(・・)は静かに俺を見下ろしていた。

何もかもが、非現実的。到底受け入れられない事態に珍しく俺は慌てふためく。



「…………おっ、お前……誰、だよ……なんで………、なん…………」


「は、呆れた。想定外の事象が起こった時の対処法も心得てないのか?…………俺の現し身だからって、優秀だとは限らないって事か。はーぁ……期待して損した。………ま、いいや。とりあえず俺の質問に答えてもらうぞ、恋誠。」


「ッ!?…なっ、なんで俺の名前ッ………!」


「あーはいはいうるさいうるさい。うーん、そうだなぁ………じゃあ、もう単刀直入に聞いちまうか。………お前は_________」



………姿形どころか、声、喋り方さえも俺にそっくりなソレ(・・)は、もう叶う事のない俺の願いそのものを質問事項として俺に突きつけてきた。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「____これで、願いは叶うのか?」



首をさすりながら尋ねる。ついさっきソレ(・・)に付けられたこの『刻印』とやらが、まだ熱を持っていて痛いのだ。



「ああ。それは『対価』だからな。あと1週間もすれば、そのうちお前の望む者が現れるさ。」


「……本当に?」


「疑り深い奴は嫌われるぞ?………星に願えば、必ずそれは叶えられる。当然にして必然の摂理だ。」


「………わけわかんねぇ。」


「今はいいさ、わからなくとも。人は無知。これも当然にして必然の摂理だろ?」


「…結局お前は何なんだよ。第一、俺とお前はなんで……」


「それもいずれわかる。………己が道を進め。誰よりも完璧で、誰よりも忠実であれ。………………お前に、星の導きがあらん事を。」


「は?何言って………って、あれ……?」



一瞬の(まばた)きの間。たったそれだけの時間で、ソレ(・・)は忽然と姿を消していた。あとには、地面に染み込んだジュースの強烈な臭いしか残らなかった。



「あーーー…くっそ………ホンットわけわかんねぇ……」



1人ぼやくも、返事をしてくれる奴はどこにもいない。………あぁ、あの耳障りな声は母さん(・・・・)か。お夕飯ができたわよ、だって。はは、笑っちゃうね。どうせいつも通り家政婦に作らせたくせに、さも自分が作ったように言う。


………ここは糞の集まりだ。身分ばかり気にする、阿呆ばかりだ。


___誰かここから、俺を。


________俺を、連れ出して。







………それから丁度1週間後。何故か能力者だった事が発覚。…俺は『四地二天の塔』に連れて行かれる事となった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



西暦2130年7月8日。午後10時ちょい前。


……真っ白な壁に囲まれたまぁまぁ広い部屋。さっき職員らしき人に説明を受けたが、どうやらここは玄武区域という名の場所にある研究室の1つらしい。


なんでも、この研究室は滅多に使わないからほとんど来客用の控え室として使われているのだそうだ。


…………と、そんな事は置いといて。



「うぇーーーーい!!!てめーらが俺のシモベか??シモベになるのか??俺は勝ち確の男だからな!かっこいいリーダーになるぜ!イェーーーーイ!!!」


五月蝿(うるさ)い………最悪……こんなのが私の同期……?側近仲間?………嫌よ。絶対、嫌。」


「あらあらぁん、可愛らしい子がいーーっぱいねぇ♡みんなぁ、仲良くしーましょ!」


「どいつもこいつも下品ねぇ……(わたくし)、軽く絶望していますわぁ……」


「あわわ……みなさん、怖そうです………話していいのかな、大丈夫なのかな……?」



……なんだこれは。


軽く頭を抱えそうになる。気品のかけらもない、混沌とした空間がそこにはあった。


なんだっけ。一体、何がどうなってこうなったんだっけ………


………落ち着け、落ち着け俺。………そう、側近……新しく見つかった始祖者の側近として、数時間前に大急ぎで俺ら6人が選ばれたとかなんとか………ダメだ。現状をとてもじゃないが受け入れられない………落ち着け、落ち着くんだ……まずは素数を数えるんだ……



「_______ふー……、お待たせいたしました、側近の皆様!」



かくして素数を11から数えるほど混乱していた俺の耳に届く、奇跡の福音(ドアの開閉音)



「申し遅れました。私、現首相の秘書をやらせていただいている者です!翔子、と軽くお呼びください。」



ぺこりと頭を下げるスーツ姿の女性。



「早速ですが、本題に入らせていただきますね。あなた方にはこれから、塔の2階層部分にある星河天………その最奥にある、バルコニーへと向かっていただきます。」


「バルコニー?」



はて。何故そこに行かなくてはいけないのか。



「何故ですか?」



と、俺が尋ねる前にツンとしたクールな女の子が質問。……こいつは頭が良さそうだ。…少し、警戒しておこう。



「皆様の主……星の始祖者、『星夜見 言葉』様がお待ちだからです!さぁさぁ早く!初対面で始祖者を側近が待たせてしまうなんてあまりにも無礼ですよ!あっ、そうだ……えぇと確かここら辺にっ………と」



クール女子が質問を終えた途端、バッバッと急かし始める翔子さん。と同時に、手に持ったバッグの中を何やらゴソゴソと探し始めた。……探し物が見つかったのか、パンパンの鞄から何かを無理やりに引っ張り上げているようだ。



「………はい、バルコニーへの地図です。本来私が案内するべきなのですが……申し訳ありません。この後、私は用事がありまして………皆様だけで行ってきてもらえますか?」



「はぁ、まぁ……別にいいですけど……」



翔子さんの1番近くにいた俺が地図を受け取る。すると、周りにいた側近仲間が揃って俺の手の中にある地図を覗き込み始めた。



「………ここら辺がバルコニーかしらん?結構遠いわねぇ」


「でっ、でも案外わかりやすいですね!この星河天って区域を奥に向かって真っ直ぐ進めばいいだけみたいです!」


「真っ直ぐって言っても……んぇー?ここからどうやって行けばいいんだ!?俺わかんねーぞー!」



…やれやれ、とても見てられない。

…………仕方ない。俺が先導してやるか。



「翔子さん、地図ありがとうございます。俺らだけでちゃんと辿り着けるので、ご心配なく。ほら…………お前ら、行くぞ。」


「…………なんで君が仕切ってるの?信用ならないわ、迷ったらどうするの?……その地図私に貸して。」



5人に声をかけていざ出発。……と思いきや、クール女子が地図をよこせと手を差し出してきた。思いっきり俺を睨み付けている。はぁ………うざってぇ奴。



「……人を信じる事ぐらいできないのか?…安心しろよ、最短ルートで連れてってやる。」



そう言うと、クール女子はムッとした顔で手を下ろした。



「…………そう。わかったわ。そこまで言うなら最後まで責任持って私達を連れて行きなさい。君の言う最短ルートで、ね。」


「勿論だ。」



ふつふつと湧いてきた対抗心。

久しぶりに感じたその感情は、俺を満足させるに相応しいものだった。

あまりにもくだらない、簡単なただの道案内。……だからこそ、ニヤリと口角を上げてみせる。


この簡単な仕事をどれだけ効率的にクリアできるか。


受けて立つぞ、と挑戦的に笑った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



バルコニーに着くちょっと前。

長い長い通路を歩いている時。


40代ほどに見えるおばs………女性が、大きな胸を揺らしつつ俺に尋ねてきた。



『アナタは言葉様、どんな方だと思っているのかしらん?』



俺は答えた。



『その、言葉様?だっけ。………今の段階では、あまり良い印象は抱いてないよ。』



嘘だ。………本当は感謝してる。俺をあの腐った場所から間接的にとはいえ、連れ出してくれたから。


……言葉様。……一体どんな人なんだろうか。期待に弾む心。


………こうして一緒に歩いている側近仲間も嫌いじゃない。着飾った部分が何1つない……己の感情を真っ直ぐに伝えてくるところが気に入った。……ちょっと、居心地が良いなんて考えてみたりする。はは、俺らしくないな。


暫く歩いてると、バルコニーの扉に着いた。



「どうだ、30分弱で着いただろ?」


「ふん……まぁまぁね。」



ぷいとそっぽを向くクール女子に、得意げな表情を見せつけると、次の瞬間そいつに思いっきり足を踏み抜かれた。……超痛ぇ。


あまりの痛さに声も出せず、無言でコンコン、と扉をノックする。



『………どうぞ。』



______扉越しに聞こえてきたのは、鈴の音が鳴るような女性の………否、もっと幼い少女の声。


始祖者は大人、と勝手な推測を立てていた奴らは一斉にどよめく。


急いで真相を確かめるべく、俺達は意を決して勢いよく扉を開けた。




そして___________





(乙女の加護受けし少年、初恋(運命)を知る。)


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