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星天の霹靂  作者: 白州
第1章:集う星々
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第10話:政府内観光ツアー 『四地』白虎区域

…一瞬、何が起こったのかわからなかった。


金色の閃光が目の前で爆ぜて、目も眩むような眩しさに顔を伏せる。


やがて光が収まり、顔を上げてゆっくりと目を開ける。…先ほどまで葉稀の集めていた風が霧散していた。


…そして、私を庇うように立っているこの第三者。……知らない人だ。恐らく20代前半。黒の光沢が印象的なぴっちりとしたボディースーツを着こなし、ウェーブのかかった長い金髪を揺らして、身の丈ほどある槍を葉稀に向けている。


再び訪れる静寂。またもや一番最初に動き出したのは、葉稀。ぱんぱんと服の埃を払い、心底つまらなそうな様子で彼は口を開いた。



「はァーー、アーー………全く、余計な事してくれタじゃないカ。もうチョっとだったのニィ…………空気ぐらい読めナいの?ネェ、『出来損ないの始祖者』。」


「あぁ?五月蝿(うるさ)いねぇ性格破綻者が。ハッ、毎度毎度思うが、よくそんな情緒不安定っぷりで始祖者を務められるなぁ?全くもってお笑いだ。…………それに、あんまり甘く見てもらっちゃ困るよ。腐った賢者祭司(ドルイド)一匹を屠るぐらいの力ならあるさ。」



キィン、と槍の澄んだ音を響かせて構える女性。相対する葉稀も、また手に風を集め始める。



「はいダメー!いい加減にしてください!」



緊迫する場において、悠々とその両者の間に割り込む人物がいた。……翔子さんだ。完璧顔が崩れ、疲労が見え隠れしている。



「やめていただけませんかお二方!怒られるのは私なんですよ!?あくまでもこれは言葉様の観光ツアー!いいですか?もう一度言いますよ!か・ん・こ・う・ツ・ア・ー、です!葉稀様?いくらなんでもやり過ぎです!厳罰処分ものですよ!……そして玲咬(れいか)様!貴女はそもそも何故ここにいるのですか!?」


「ん?あぁ、ちと野暮用でね。ここの中枢研究所に行ってたんだ。」



何でもないような顔で玲咬と呼ばれた女性が答える。



「くキ、き……神聖ナ中枢研究所をそノ薄汚い足で踏み荒らすとハ………ニンゲンはやはり粗暴デ野蛮なイキモノだナ。………………………………………………………………………………………吐き気がするよ。」



苦虫を噛み潰したような顔をすると、葉稀はくるりと踵を返し、無言で森の奥へと歩いていった。その後から、慌てて彼の側近達が追いかけていく。


……やがて葉稀達の姿が見えなくなると、翔子さんが深いため息をついた。



「はぁ……疲れた………うぅ、首相になんて報告しよう……?…………ハッ!!こっ、言葉様ぁぁ!申し訳ありません!お怪我は!?お怪我はありませんか!?ぁぁぁあ!この翔子、一生の不覚!どうぞ不甲斐ない私めを殴ってくださいませ!!!」


「……翔子さん、落ち着いて…」


「あぁあ……ダメなんです私は……………言葉様をお守りできなかった………ダメ秘書なんですぅうぅ………」



……ハイテンションになってりネガティブになったりで本当に忙しい人だなぁ……


どう翔子さんを慰めようか考えていると、ふいにぽんぽん、と肩を叩かれた。



「ほっときな。じきに立ち直る。それよりもアンタ……言葉だっけ?観光ツアーつってもどれだけ回ったんだい?」


「ええと……もうあとは白虎区域だけ…のはずです。」


「丁度いい!アタシが案内してやるよ!」


「?…玲咬さんは白虎区域に詳しいんですか?」


「ははははは!そうか、そういえば自己紹介がまだだったね。アタシは雷鋒(らいほう) 玲咬(れいか)。白虎区域に住んでる『雷鋒隊』の隊長をやらせてもらってる。一応、雷の始祖者…なんて肩書きもあるけど、さっき葉稀が言った通りアタシは出来損ないだからね。あまり期待はしないでくれよ?」


「いえ、かっこよかったです。……助けてくださり、ありがとうございました。」



玲咬さんは一瞬面食らったような顔をすると、照れくさそうに頭を掻いた。



「あの……じゃあやっぱりさっきの葉稀って奴は………」


「あぁ……あいつ、ロクに自己紹介もしなかったのか。ますますいけ好かないね…………そう、ここ玄武区域に住む『森祈聖隊』の隊長にして風の始祖者…森祈聖(ドルイド) 葉稀(ようき)がさっきの奴さ。」


「風の始祖者………」


「それにしてもアンタ、あいつがあんなに執着するなんてよっぽどの事をやらかしたんだねぇ?可哀想に、きっと気に入られちまったよ…気をつけな?幻術で身を隠し、いつ襲ってくるかわからないからね。」



本気で心配するような目を向けられ、心の中で嘆息する。昨日といい今日といい……厄日続きだ、全く。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「さぁ、ようこそアタシの区域へ!どうだい?愉快な所だろ?」


「こ、この騒音は………?」



他の区域とは違い、廃れた裏路地のような内装。煙草や空き缶が散らばり、衛生面も良いとは言えない。広大なサーキット…パラリラパラリラと目の前を凄い勢いで横切っていく二台の自動二輪車……俗称、バイク。


耳を押さえつつ尋ねると、玲咬さんはニヤリと笑って囁いた。



「……アタシのマブダチが愛車を乗り回してる音さ。」


「まぶだち?」



何かの俗称だろうか?

もうすっかり慣れた、お馴染みの脳内辞書(コトハペディアと名付ける事にする。異論は認めない。)を開き検索をかけようとするも、玲咬さんに突然腕を引っ張られてあえなく失敗に終わった。



「テメェら!止まりな、例の新人始祖者だ!キチッと挨拶しろ!」



サーキットに向けて大きく響いた玲咬さんの声は轟音の中でもちゃんと届いたようで、走っていた二台は瞬時にキキーーッと耳障りな音を立てて止まった。


素早くヘルメットを外し、駆け足でこちらに向かってきたのは2人。どちらもガタイの良い男性だ。良く言えばマッチョ系イケメン、悪く言えばむさ苦しい筋肉男………といったところだ。



「ここでアタシからのクイズだ、言葉。側近の人数は始祖者のあるパラメーターに比例してる。さて、そのパラメーターとは何でしょう?」


「んー……………統率力?」


「ちと違うな。もちろん統率力も大事だが、正解は『始祖者の潜在能力の強さ』、だ。」


「へぇ…………」


「さっきも言ったが、アタシは出来損ないだからな。他の始祖者よりも潜在能力が弱い。だから、側近もたったの2人だけなんだ。ほら、今必死こいて走ってきてるあいつらだよ。」



玲咬さんが言い終えると同時、ようやくたどり着いた2人の側近は尋常じゃない汗をかいていた。わざわざここから一番遠いところでバイクを降りなくてもいいのに……むしろバイクでそのままここまで走ってくればよかったのに……と思ったのは内緒。



「ゼェ、ゼェ、ハァー………う、うっす……玲咬様の側近その一、金沢(かねざわ) 康介(こうすけ)っす………」


「ゲホッ、ゲホッ……こんちわっす……玲咬様の側近その二、田中(たなか) 大介(だいすけ)です………」


「だらしないねぇ、シャキっとしな!お前らそれでも男かぁ!?」


「そんな無茶な………」


「あぁん?黙らんかいオラァ!!」


「ヒィィィィィィイ!鬼ィィィィイ!!」



容赦ない蹴りが金沢・田中コンビに襲いかかる。あれだ、これ知ってる。タイキックってやつだ。



「多分違うと思いますよ言葉様。」


にゅっ、と隣から耳元で話しかけられ、少し驚く。


「うわびっくりした。翔子さん復活?そしてついに私の思考まで読み取れるようになったんですか。」


「いや、言葉様なら今だいたいこんな事考えてそうだなーって勝手に思ってツッコんでるだけです。」


「そうですか………」



そんなどうでもいい話をしていると、側近への(理不尽な)折檻が終わったのか玲咬さんが満足そうに微笑みながら近づいてきた。

………玲咬さんの後ろ、2名ほど人が折り重なって何やら悲惨な事になっているがあえてツッコまない方針でいこうと思う。



「はーーー、スッキリ!とりあえずさっきの葉稀へのイライラは発散できた!ははっ、おい言葉!今アタシは気分がいい!メット被れ、アタシの愛車に乗せてやるよ!」


「あ、ええと……」


「玲咬様、言葉様はもう大分お疲れですので………」


「む……そうか。残念だなぁ…また機会があったら来いよ!いつでも乗せてやる!」


「………ありがとうございます。」



丁寧に頭を下げると、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でられる感覚がした。

顔を上げると、そこにはまた照れくさそうな顔をした玲咬さん。

いつの間にか金沢・田中コンビも玲咬さんの側に立ち、ニコニコと私を見つめていた。……二人とも先ほど散々蹴られたであろう己の尻をさすりながら。痛そう。



「まぁ、なんだ………これからもこいつら共々、雷鋒隊を夜露死苦(よろしく)っつーわけだ!なんか困った事あったら遠慮なく言えよな!この玲咬様が全部解決してやるからよ!」


「よっ!流石は玲咬様!」


「照れ隠しのつもりの捨て台詞カッコ可愛いですよ玲咬様!」


「テメェはいつも一言多いんだよ田中ァ!!!」


「玲咬様の脚が流麗な軌道を描いて俺の腰にクリーンヒッtあべしっ!!!!」



真っ赤になりつつ側近を蹴る玲咬さんの様子を見て、翔子さんは堪えきれずに思いっきり吹き出していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「終わった……回り終わった………」


「まさか1日でツアーが終了するとは……予想以上にペースが速かったみたいですね。どうです?もう一周でもしますか?」


「いや……それは流石に……」


「ふふ、冗談ですよー。それにもう夜ですしね。」


「あ……本当だ。もう夜の10時か……屋内にいたから全然気づきませんでした。」


「無理もないですよ。……あ、そうそう!忘れるところでした!」


「何ですか?」


「首相とお話しした時に使っていたあのバルコニー、覚えていますか?」


「えーと……星河天の奥の方にあるやつですよね。覚えてます。」


「あそこは本来、星の始祖者であらせられる言葉様や星の側近・眷属の疲弊を癒すための絶好の星見スポットでもあるんですよ!」


「疲弊を癒す?」


「単純に動きまくって疲弊する他に、能力者は能力を使うと体力を消耗して疲弊してしまうというデメリットが存在するんです。そして、能力者にとっての疲弊の回復方法は『寝る』以外にも『それぞれの属性の力を浴びて回復する』の2種類があります。例えば炎の能力者だったら、炎の近くにいて暖まるとか…水の能力者だったら、水に浸かるとかですね。」


「なるほど……あ、じゃあ私の場合は星の力を浴びる事で体力回復……だから満天の星空の下、バルコニーにいるだけで大丈夫って事ですか?」


「その通りです!」


「んー…じゃあ本当に体力回復ができるのかっていう検証も含めて、今からバルコニーに行ってみようかな。」


「良いですね。言葉様の今後のご予定は今後一週間ほどずっと基礎訓練だと聞いていますし、明日はツアーの予定を一応取っていたんですが……今日で回りきってしまいましたしね。休日になると思います。」


「と、いう事は……夜更かしおっけー…?」


「ふふふ、おっけーです!…ただし、無理は禁物ですよ!ただでさえ言葉様は起きたてなのですから……無理をしない範疇で、どうぞ存分に星見を楽しんでくださいませ。」


「はーい。じゃあ翔子さん、行きましょうか。」


「あぅ……言葉様、大変申し訳ないのですが、私がついていけるのはここまでです……もともとツアーが終わったらすぐ帰ってくるように、と首相に仰せつかっておりましたので……ホントはもっとついていきたいんですけどね……本当に、本当に申し訳ありません…………!」


「あー…心細いけど、そういう事なら仕方ないですね。大丈夫です、もう一人でも行動できます。」


「うっ……それはそれで『いらない子』って言われてるみたいでショックですー……」


「あ、ごめんなさい………」


「…………………あはははは!嘘ですよ!うーそー!私が優秀なのは他でもない私自身が一番知ってるんです!『いらない子』なんて展開はどう考えてもありえないんですよー!」


「…………………じゃ、もう行きますね。」


「まさかのスルー!?」


「……今日、楽しかったです。多分翔子さんのおかげ……ありがとうございました。」


「!……あぁぁあやっぱり言葉様と離れたくないいいい!仕事したくないいいい!!!」


「後半本音だだ漏れ………」


「…コホン……冗談はさておき、言葉様。私も楽しかったですよ!久しぶりの開放感でした……はー……だからこそ、秘書としての通常業務に戻るのが苦痛なんです……」


「……仕事はしなきゃダメですよ?」


「ですよね……あっ!言葉様!!それ!その首相からもらった黒チョーカーあるじゃないですか!……それ、通信機能もついてるんで!『翔子』と『通話』っていうキーワードさえ入れれば勝手に繋がりますんで!いつでもかけてきてくださいね!何があってもすっ飛んで行きますから!」


「……サボりのお手伝いはしませんので。緊急時以外電話はかけません。はいコレ決定。」


「そんなぁぁあ……言葉様ぁぁあ!」








「………では、また。」


「……………次にお会いするのは、恐らく始祖者合同会議の時ですね。ご健勝を、お祈りしています。」




__いざ、未知なる一人行動へ。




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